12.
学の家に着くと、石川が笑顔で愛菜を出迎える。
「今日もお菓子を作ったから、良かったら食べていってね!」
石川が声を弾ませながら、嬉しそうにそう言葉を綴る。石川はそのまま愛菜の返事を待たずに最後の仕上げをしてくると言って、いそいそとキッチンの方に姿を消していく。
「じゃあ、こっちで待っていようか」
学が愛菜をリビングに連れて行く。
そして、ソファーに座るように勧められて、愛菜が腰かけると、昨日と同じように学も愛菜の隣に腰を下ろす。
「ニャー……」
学の腕の中で抱かれていたホワイトが一声鳴くと、愛菜の膝の上に乗ってきて、心地良さそうに体を委ねる。
愛菜は少し戸惑いながらも、ホワイトの身体を撫でている。その様子を、学は暖かな眼で見ていた。
「お待たせー」
そこへ、石川がチョコレートムースと飲み物を持って、リビングにやってくる。
「はい、チョコレートムースよ。後、愛菜ちゃんはアップルティーで学さんはいつものコーヒーよ」
石川がそう言葉を綴りながら二人の前にチョコレートムースと飲み物を並べていく。
「あ……ありがとうございます……」
愛菜が少し照れたような顔をしながら、石川に小声でお礼の言葉を述べる。
チョコレートムースはトッピングとして、削られたチョコレートとココアの粉がデコレーションされていた。
「いただきます……」
愛菜が嬉しさを隠しながら少し照れた表情でそう小さく声を出すと、チョコレートムースを一口頬張る。
「美味しい……」
愛菜の口からそう声が漏れる。
そのチョコレートムースがとても美味しかったのか、愛菜は無言でそれを口に頬張っていく。
隣でその様子を見ている学が、そんな愛菜の動きに安堵感を覚えたのか、愛菜を見つめながら微笑んでいる。
そして、学も「いただきます」と言って、そのチョコレートムースを食べ始めた。
チョコレートムースは甘すぎる訳でもなく、どちらかというとさっぱりした甘さだったせいか、愛菜はそれを一気に平らげてしまった。
チョコレートムースを食べきって美味しかったのもあり、愛菜の表情からは、どことなく幸せな顔が覗かせているように見える。
そして、アップルティーを飲んで一息つくと、愛菜の方から珍しく口を開いた。
「学さんって、何のお仕事をしているの?」
「え?」
突然、愛菜から自分に話しかけたので学が驚いて声を出す。
今までは学が話すばかりで、愛菜が話すことも、学に何かを聞くことも一度もなかった。
「えっと……」
愛菜が話しかけてくれたことに嬉しさが隠せない学は言葉が上手く出てこない。そして、「ちょっと待ってね」と言って、愛菜から顔を背けて、呼吸を整える。
そして、落ち着いたのか愛菜に笑顔を向けながら答えた。
「僕は、自由気ままな物書きだよ」
学が愛菜に笑顔でそう言葉を綴る。
「物書きってことは、お話を書いているってこと?」
「うん。一応、デビューはしているんだけど、有名では無いから物書きの端くれみたいなものかな?」
愛菜の言葉に学がそう言葉を綴り、更に言葉を紡ぐ。
「でも、お話を書くのは大好きで昔からよく書いていたんだよ。お陰でよく変わり者だって言われたね」
学が頭を掻きながら、そう言葉を綴る。
変わり者のレッテルを貼られていたことに困ったようなそんな表情が見て取れる。
愛菜はその事に何となく気付いたのか、学のその表情が気になってしまう。でも、気のせいかも知れないと思い、その事については触れない。
「今書いているのは、恋愛も入っているヒューマンドラマだよ」
学がそう口を開き、今書いている小説の話を始める。
その話をしている時の学の表情は生き生きしていて、愛菜にはそれが眩しいようにも感じる。それと同時に、学の話す物語の話をもっと聞いていたいという感情が溢れ出す。しかし、愛菜の中で辛い感情も湧きあがってくる。
(私はきっと醜い人間だ……)




