5.
学がコーヒーを啜りながら口を開く。
「さっき、ホワイトを探しに行っていたら、女の子に会ったんだ。珍しいことにホワイトがその女の子の腕の中で気持ちよさそうにしていたんだよね……」
学がしみじみとそう話す。
「女の子って、まだ二つか三つくらいですよね?その女の子、大丈夫でした?扱い方とかも分からない年齢ですし……」
石川が不安そうにそう言葉を綴る。
「女の子と言っても、十六か十七くらいだと思うよ。だから珍しいことなんだ」
「……え?」
学の言葉に石川が呆然とする。
それは確かに学が珍しいと言ってもおかしくない話だったからだった。
そして、学と石川が今日会った愛菜の事やホワイトの意外な行動の事でワイワイと話が盛り上がる。
そして、石川が時計を見て、夕飯の支度をする時間であることを思い出し、学は部屋に戻っていった。
***
「……あんなこと言われるなんて」
あれから、病院に戻ってきた愛菜は病室に入ると、ベッドに仰向けになり、今日の事を思い返していた。
殆ど自分の事を知らない他人に「優しい人」なんていう言葉を掛けられるのは予想していなかったので、その言葉に戸惑いを隠せない……。
病院に戻った時も、看護師が愛菜の顔を見て、いつもと表情が違う事に気が付いて、何があったかを訪ねてきた。しかし、愛菜は「何もない」と言って、その問いには答えず、すぐに部屋に戻っていった。
でも、本当は学の言葉に嬉しいような恥ずかしいような感情が少しだけ揺れていたのも確かで、その事をベッドの上でグルグルと考える。
しかし、答えが出ることはなく、愛菜はいつの間にかそのまま眠りに落ちていった。
***
「雨……か……」
次の日は朝から雨が降っていた。その為、外の散歩が出来なくて愛菜はため息を吐きながらそう小さく口を開く。
そして、病院に設けられているちょっとした図書室のような場所に行き、本を借りにいく。
「どれにしようかな?」
愛菜はいくつかある本の背表紙を見ながら、どの本を読むかを悩む。
「あ……これいいかも……」




