4.
男性が愛菜の腕の中で心地よくしているホワイトの姿を見て驚きの声を小さく発する。
そして、男性は愛菜の横に来て愛菜の顔をじっと見つめる。
「……何ですか?」
愛菜が男性に見られている事に息苦しさを感じながら、ぶっきらぼうにそう口を開く。
「珍しい光景だな~って思って……」
男性が掛けている黒縁の眼鏡を指で直すような仕草をしながら優しくそう言葉を綴る。
「……何がですか?」
その男性の言葉の意味がよく分からなくて、愛菜は不愛想な声でそう声を発する。
そんな愛菜に男性は特に気にする態度を見せず、優しい声で言葉を綴る。
「この猫、ホワイトって言う名前なんだけど、人見知りをよくする猫で、基本は誰にも懐かないんだよ。そのホワイトが懐いているから珍しいこともあるもんだなって思たんだ」
男性はそう言葉を綴りながら、心地良さそうにしているホワイトに優しい眼差しを向ける。
そして、また愛菜に顔を向けると、満面の笑みで言葉を綴った。
「君はすごく優しい人なんだね!」
男性の言葉に愛菜は虚を突かれたような顔をする。
その言葉と男性の笑顔に愛菜はこの場所にいるのが居心地悪くなり、立ち上がる。
それと同時にホワイトは愛菜から離れて、男性の元に行く。
「もう帰らなきゃいけないから……」
愛菜がそう口を開き、その場を離れようとした時だった。
「あ……あの……!」
男性が慌てた様子で愛菜を呼び止める。
愛菜はその声に反応してしまい、身体がピタリと止まる。
「ここから見えるんだけど、あそこにレンガ色で出来た家があるでしょう?僕、その家に住んでいるから、良かったら遊びにおいでよ!」
男性がその家を指で差す。
その場所に愛菜が視線を向けると、ここから少し離れた場所にレンガ色の家が見える。
遠目でもその家が立派な家だという事が分かる。
そして、男性は愛菜に笑顔を向けながら声を発する。
「僕は瀬川 学って言うんだ。よろしくね!」
ホワイトの飼い主である学の言葉に愛菜は少し戸惑う。
「……一ノ瀬 愛菜です……。じゃあ、もう帰らなきゃいけないから……」
愛菜はそう言ってワンピースを翻しながらその場を去って行く。
「またね!」
学がそう声を掛けるが、愛菜はその声に反応せずにその場を去って行った。
そして、残された学はホワイトを抱き上げると、家に帰っていった。
***
「お帰りなさい、学さん」
学が家に戻ると、家政婦である石川が顔を出す。
「ホワイト、無事に見つかったんですね」
学がホワイトを抱いているのを見て、石川が安堵したようにそう言葉を綴る。
学はその言葉に頷いて、ホワイトを抱いたままリビングに向かう。
そして、リビングのソファーに腰を掛けて、息を吐く。
学には苦手な事があった。
それは、人と交流を持つのが得意ではないということ……。
なので、今まで誰にも自分の家を教えたことがない。でも、愛菜に教えたのは、学の中であれっきりで終わりたくなかったという気持ちがあったからだ。
グルグルといろんな考えが巡る。
どうして、初対面の愛菜に家を教えたのか……?
どうして、愛菜と交流してみたいという気持ちになったのか……?
「はぁ~……」
学がため息を吐く。
考えてもその答えは出てこなかった。
そこへ、石川がコーヒーを持ってリビングに現れる。
「どうしました?なんだか浮かない顔をしていますけど……」
石川はそう言って学の前にコーヒーカップを置くと、学と対面になるようにソファーに腰掛ける。
「実はさ……」




