20.
放課後、吹奏楽部に部員たちが集まり、部長がみんなにそう声を掛ける。
発表会はもう目前まで近づいており、練習はいつも以上に気合がはいる。揚羽も予定通り出場することになり、気を引き締めて練習に挑んだ。
そして、発表会当日の朝を迎える。
「……じゃあ、会場で待っているね!」
揚羽が玄関を出る前に、両親にそう声を掛ける。
「頑張ってね!楽しみにしているわ!」
「また、動画も取るからな!」
両親が笑顔で揚羽を見送る。
そして、揚羽は会場に向かって歩きだした。
***
「……全てはこの日の為に頑張ってきた。今日は精一杯やりきるわよ!」
「「「はいっ!!!」」」
会場の控室に集まった吹奏楽部の部員たちが、部長の言葉に力強く返事をする。
そして、出番が来て演奏が始まった。
揚羽たちが演奏する曲はベートーヴェンの交響曲である「英雄 第一楽章」だ。
指揮者が最初のタクトを振り、演奏が始まる。
曲の入り方はみんな、「優しく入る」というのを意識して演奏を奏でていく。途中で力強くなる部分は、熱を入れながら演奏を奏でる。
みんなで心を一つにして奏でる演奏は、会場に熱気が徐々に帯びていく。
揚羽は演奏しながら、この曲を肌で感じていた。
今回の自分に起こった出来事は、この曲のようだった。
時に苦悩を感じ……、
時に寂しさを感じ……、
そして、喜びを感じた出来事……。
演奏が終盤に入る。
この曲は最後にどんどんと力強くなり、最後は喜びを感じるような曲調で、演奏は締め括られた。
会場に大きな拍手が響き渡る。
揚羽はどこかすっきりした表情をしていた。
そして、発表会が無事に幕を閉じ、揚羽たちは演奏の喜びを仲間と分かち合うと、それぞれ家に帰っていった。
***
「ただいま!」
揚羽が家に着いて、玄関を開けるとそこには両親の姿があった。
「揚羽、今回の演奏は今までで一番良かったぞ!」
父親が笑顔で揚羽にそう声を掛ける。
「えぇ。本当に素敵な演奏だったわ。さっ!お腹空いたでしょう?夕飯にしましょう」
母親も笑顔でそう言葉を綴る。
そして、和やかな夕飯が始まった。
***
「……ふう、お腹いっぱい♪」
夕飯を終えた揚羽が部屋に戻り、ベッドに横になる。
「……あ」
ベッドに横になって、ふと蝶々の事を考える。
そして、ベッドから起き上がり、蝶々にメールを送った。
【蝶々さん、私は今回の出来事で将来どんな仕事がしたいかが見えてきました。
私は心に傷を負っている人たちのケアをする仕事がしたいです。
なので、大学は福祉系の大学に進もうと考えています】
そう文章を綴り、蝶々宛に送る。
しばらく待っていると、蝶々から返信が届く。
『それは素敵な仕事ですね!あなたならなれると思います。頑張ってくださいね!』
蝶々からのメールを読んで、揚羽の顔が綻ぶ。
そして、ずっと蝶々に聞きたかったことを聞くことにした。
【蝶々さん、いろいろと私の相談に乗ってくれて、本当にありがとうございます。
私は蝶々さんに会ってみたいです。
蝶々さんがどんな人か実際に会って話をしてみたいです】
揚羽がそうメールを綴る。
ずっと気になっていたこと……。
蝶々は一体誰なのか……?
もしかしたら知っている人かもしれない……。
そして、直接会ってお礼が言いたい……。
ドキドキしながら、蝶々からの返事を待つ。
――――ピコン!




