18.
その場を去って行こうとした揚羽に藤木が声を掛ける。
「わ……私、よくこの公園に来ているから、良かったらまた会えないかな?あんな酷いことをして何言っているの?って思うかもしれないけど、私、寺川さんと友達になれたらって思っているから、その……良かったら考えておいてくれないかな……?!」
藤木の言葉に揚羽が唖然とした表情になる。
「……また、返事するね」
揚羽がそう応える。
そして、揚羽は愛理の肩を抱きながらその場を後にした。
***
「……ただいま~。あ、良い匂いする~……」
愛理を家まで送っていってから、揚羽は家に帰ってきた。
玄関を入ると、美味しそうな匂いが家の中に充満している。揚羽が匂いにつられてキッチンに行くと、食卓には夕飯の準備がされていた。父親も帰っており、両親は揚羽の顔を見るなり、優しく言葉を綴る。
「あら♪可愛くなったわね。似合うじゃない」
母親がそう言いながら揚羽の頭を優しく撫でる。
「そうだな。可愛いぞ、揚羽」
父親も笑顔でそう言葉を綴る。
両親は揚羽が部屋から出てきたことに安堵しているのだろう。久々の家族揃っての夕飯には、笑顔と笑い声が溢れていた。
夕飯が終わりお風呂を済ませると、揚羽はヘアケアに勤しんだ。
もう一度綺麗に伸ばすという想いで、丁寧に髪をケアしていく。
そして、ケアが終わるとパソコンを起動して、今日の出来事を蝶々に伝えるために、文章を綴り始める。
美容室に行ったこと……。
愛菜の気持ちや藤木の気持ち……。
育った環境が二人の心に傷を負ってしまったということ……。
そして、藤木に『友達になって欲しい』と言われたこと……。
文章が書き終わり、蝶々にその文章を送る。
そして、返事をしばらく待つ。
――――ピコンッ!
メールを受信した音が鳴り、揚羽が急いで受信ボックスを開ける。
『お疲れ様。
髪を綺麗にして貰えて良かったですね。愛菜さんと藤木さんのことは辛いと思います。二人共、望んで今の自分になったわけではないですからね。でも、これから二人がどうなっていくかは、見守るしかないと思います。藤木さんに友達になって欲しいと言われたそうですが、私の意見としては嫌なら嫌でいいと思います。でも、優しいあなたの事だから放っておけないかもしれないですね』
蝶々から来たメールを読んで、揚羽は自分の気持ちが見透かされている事に少し恥ずかしい気持ちになる。
【はい。私は別に藤木さんのことが嫌いなわけではありません。
だからと言って、仲良くなれるならそれもいいと思いますが、ちょっと悩んでいるのも事実です。
ですが、藤木さんにも優しい光が見えて欲しいとは思っています】
揚羽が自分の気持ちを正直に綴る。
そのメールを送り、返事を待つ。
(藤木さんにも愛菜ちゃんにも優しい光が入って欲しいな……)
揚羽が心の中でそう祈る。
そこへ、蝶々からメールが届く。
『それでいいと思います。もし、あなたと仲良くなって藤木さんが優しい光を見れたらいいですね。でも、あまり無理しないでくださいね。自分の気持ちを大切にしてください。あなたが選ぶことを私は否定しません。あなたがこれから進む道を私は応援しています。頑張ってくださいね!』
【ありがとうございます】
蝶々からのメールに揚羽は安堵して、そのメールに一言だけ返信をすると、パソコンを閉じた。
***
「……よし!」




