14.
【今から、美容室に行ってきます】
揚羽はそうメールを送ると、パソコンを閉じる。
そして、フード付きのパーカーに着替えて、どれくらいぶりだろうか……。
揚羽は部屋を出た。
そして、その足でリビングに向かう。
「揚羽……」
リビングに行くと、母親が驚いた表情でそう声を発する。
「今から美容室に行ってくるね」
揚羽が優しい表情で微笑みながら母親にそう声を掛ける。
その言葉に母親がポロポロと涙を流す。
「いってきます」
揚羽はそう言うと、玄関を出て久しぶりに外の空気を吸った。
揚羽の表情は、どこか重たいものが取れて軽やかになっているような気もする。
(前を向くんだ……)
揚羽が空を見上げながらそう心で呟く。
いつまでも暗闇に閉じ籠っていたら、周りが心配するだけ……。
その事に揚羽は気付き、前を向く決意を固めることが出来た。
「いい天気……」
揚羽が美容室までの道を歩きながらそう小さく声を出す。
空は晴天で心地よい風が揚羽の頬に当たる。
(みんな……ごめんね……)
揚羽が心の中で、心配を掛けた人たちにそう声を掛ける。
やがて、美容室について扉を開ける。
「いらっしゃいませー」
美容室を営んでいる女性の店長がドアの開く音がして声を発する。
それと同時に、揚羽の短くなっている髪を見て一瞬驚いた顔をするが、何も聞かずにいつものように鏡の前に揚羽を座らせる。
「可愛くしてあげるわね」
店長がそう言って、丁寧にカットしていく。
その間、揚羽はじっと目を閉じたままいろいろな想いを巡らせていた。
大好きな長い髪が無くなってしまったこと……。
大切な人たちに心配を掛けたこと……。
そして、自分の本当に辛いことを分かってくれた蝶々のこと……。
いろいろな想いが頭の中を駆け巡っていく。
揚羽は自分が親や友達から、いかに愛されていたかを肌で感じて、眼を閉じながら、いろんな人の顔を思い浮かべていく。
そして、仲間たちが揚羽に元気を出してもらおうとして送ってくれた、メッセージ付きの動画を見て、感謝の想いが溢れていく。
(みんな、ありがとう……)
揚羽が心の中でそっと呟いた。
「……はい!出来たわよ!」
店長の言葉で揚羽はゆっくりと目を開く。
「わぁ……」
鏡に映る自分の姿を見て、揚羽が小さく感嘆の声を発する。
髪は柔らかな雰囲気のショートボブになっていた。
「また伸ばすことを考えて、伸ばしやすい髪形にはしておいたからね。ケアはいつも通りすること。紫外線とかでも髪は痛むから、オイルやトリートメントはちゃんと行ってね」
店長の言葉に揚羽が返事をしてお礼を述べる。
そして、ウキウキした表情で美容室を出て行き、いつもの公園を通り過ぎようとした時に、見覚えがあるような顔を見つける。
「……あれ?」




