13.
『あなたの心は本当に綺麗ですね。性格も天真爛漫なのでしょう。きっと、沢山の人があなたのその綺麗な心に救われているのでしょう。
でも、気を付けなければいけないこともあります。人によってはあなたの優しさを利用する人もいます。なので、人をちゃんと見極める眼を持つことが大切ですよ』
蝶々からのメールに揚羽はちょっと考えてメールを打つ。
【つまり、これからの社会に適応するために、少し黒い心を持つという事ですか?そうじゃないと生き残れないという事でしょうか?】
そして、送信ボタンを押して蝶々からの返信を待っていると、返信はすぐに来た。
『いえ、そういう意味ではありません。社会で適応するために、その真っ白で綺麗な心に黒い染みを付ける必要はありません。あなたのその綺麗な心を見て受け入れてくれる人は必ずいます。
私が伝えたいのは、あなたの優しさを利用する人に騙されないように気を付けて欲しいという事です。
それに、あなたのその心の白さや優しさは、いろんな人の心を救うことが出来ると思いますよ』
蝶々からのメールを読んで、揚羽がポロポロと涙を流す。
そこへ、部屋にノックの音が響く。
「揚羽?今、学校からお電話があって、揚羽のメールに動画を送ったから観て欲しいって言っているのだけど、届いてる?」
部屋をノックしたのは母親だった。そして、母親はドア越しにそう言葉を綴る。
母親に言われて、ずっとほったらかしにしてあったスマートフォンの電源を入れる。
すると、スマートフォンの画面に『動画を受信しました』というお知らせが来ている事に気付く。
観ようかどうか悩んでしまい、揚羽が蝶々にその事をメールで相談する。
そして、蝶々から「是非観て見ると良いですよ!」という内容の返事が来たので、恐る恐る送られてきた動画を開く。
そこに映っていたのは、それぞれに楽器を手にしている吹奏楽部の仲間たちだった。
どの生徒も真剣な顔をしており、何かの合図を待っている。
そして、一呼吸置かれたかと思うと、誰かの合図で仲間たちが演奏を始める。
「……え?」
その演奏を聞いて、揚羽が小さく声を上げる。
仲間たちが演奏しているのは発表会で演奏する曲ではない。
むしろ、この曲は揚羽が一番好きなホルストの『木星』だった……。
「あ……あ……」
揚羽の瞳から涙が溢れ出す。
なぜ、仲間たちが発表会の曲ではなく、揚羽の好きな曲を演奏しているかは分からなかったが、揚羽が一番好きな曲を仲間たちが真剣な表情で演奏している姿を見て、声にならない声で感激が込み上げてくる。
そして、厳かに演奏が終わり、今度はサッカー部の男子たちがプラカードを手に持って現れる。
「せーーーーーのっ!」
主将と思われる男子の掛け声が響き、男子たちが一斉にプラカードを掲げる。
そこにはこう書かれていた。
『みんなで待っているからね!!元気にな~れ!!』
プラカードにはそう書かれており、文字の周りには花の絵が描かれている。
そして、吹奏楽部で揚羽と仲の良い友達数人がプラカードの前にやって来る。
『揚羽ちゃん!早く元気になってね!』
『揚羽ちゃん!これからも一緒に沢山笑って沢山泣いて、ずっと友達でいようね!』
『揚羽ちゃん!私はいつでも揚羽ちゃんの味方だからね!』
そこにサッカー部の人たちもメッセージを伝える。
『寺川さんの事をみんな待っているから、良くなったら戻っておいでよ!』
『今度、みんなで美味しいものでも食べに行こうぜ!』
『なら、食べ放題の焼き肉にみんなでがっつきに行こうぜ!』
皆が口々にそうメッセージを伝える。
最後のメッセージは笑いもあって、そのメッセージを伝えた男子は周りからいじられていた。
そして最後に「またね!」と、みんなが手を振っているところで、動画は終わっていた。
「みんな……」
揚羽が動画を見終わって、顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いている。
みんなに心配を掛けていたこと……。
揚羽がいつもの揚羽に戻ってくれることを待っているということ……。
この感謝の気持ちをどう言葉にしていいのか分からないくらい、気持ちが溢れ出してくる。
揚羽は声を上げて泣いた……。
沢山泣いて、どこか気持ちがすっきりしたのか、揚羽は蝶々にメールを送った。




