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追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした  作者: 海空里和
第四章

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41.新たな誓い

 王宮を出ると、階段下に竜騎士団員たちが一列に並んで待っていた。


 竜たちがフレヤを歓迎するように「ぴゅい」と鼻を鳴らし、合唱になっている。

 そんな光景に感動する間もなく、エミリアが駆け寄りフレヤに飛びついた。


「フレヤ! 無事で良かった!」

「エミリア……心配かけてごめんね」

「ほんとだよ! もう!」


 エミリアがぎゅうぎゅうとフレヤを抱きしめる。


 並んでいた騎士たちの列からディランが一歩前に出ると、フレヤに向かって叫んだ。


「すまなかった!」


 ディランの号令とともに騎士たちが一斉に頭を下げた。統制された動きに感心しながらも、フレヤはエミリアから離れると、ディランの前に立った。


「頭を上げてください。私も説明できずにすみませんでした。それに、キリがハーブでみんなを煽っていたとノアから聞きました」


 おずおずと頭を上げていく騎士たちにフレヤが笑顔を向けると、エミリアが後ろから抱きついてぼやく。


「フレヤは優しいな。ディランは丸刈りの刑にでも処すればいいのに」


 ふざけているのか本気なのか。思わず笑えば、後ろからやって来たユリウスがフレヤからエミリアを剥がす。


「こらこらエミリア。ディランは操作されていたし、反省もしている。それにフレヤが責めないのなら私たちがこれ以上言うことは何もないだろう?」


 ぷくっと頬を膨らますエミリアを窘めながらも、腰を寄せて自身の腕に閉じ込める。


 くっつくなら自分にしろと言いたいのだろう。フレヤのジト目を受け流し、ユリウスは話を続けた。


「私は王の名代として、イシュダルディアをしばらく見届けてからアウドーラへ帰るよ」


 属国になったイシュタルディアにも手厚くフォローを入れてくれるところはさすがだ。そういうところは尊敬できる。


「あたしもお供します!」


 すかさず叫んだエミリアに、ユリウスが微笑む。


「当然だよ。新婚なのに離れたくない」

「ひえっ」


 耳元で囁かれたエミリアが顔を赤くする。騎士たちも甘い空気に思わず目を逸らした。


 見慣れたノアとフレヤだけは、お互いに見合うと苦笑した。


「留守を頼んだぞ、ディラン」

「……は」


 前を向いたユリウスがディランに告げる。

 ディランは目をパチパチと瞬いた。


「失態を演じたのに、まだ副団長として任せてくださるのですか」


 返事の代わりに微笑んだユリウスに、ディランが男泣きで答える。


「はい! 必ず。命に代えても竜騎士団を守ってみせます!」

「暑苦しいな」


 ふふと笑うユリウスの隣でエミリアもディランに向かって言葉をかける。


「今度はちゃんとフレヤを守れよ? この子はあたしたちの大切な妹になるんだから」

「えっ」


 今度はフレヤが目を瞬いた。いつもの未来志向とか、からかいじゃない。エミリアはそうなるのだと真面目に言っている。


「エミリア、私も言いたいのを我慢していたのに、本人より先に伝えてどうするんだい」

「えっ!? あ!!」


 ユリウスの言葉にエミリアがしまったという顔をした。


「そういうところも可愛いね。フレヤ、まあそういうことだから。あとはノアに聞きなさい」


 ユリウスはエミリアの身体をすいっと反転させると、一緒に王宮へと戻って行った。

 振り返ったエミリアがノアに両手を合わせて謝る仕草をしている。


(ええと……つまり?)


 ノアと視線が合わせれば、顔がカッと赤くなる。


(私を迅速な手段でアウドーラ国民にできた理由って……)


「さあ、アウドーラへ出立だ!」


 ディランの号令で騎士たちが次々に竜に乗り飛び立っていく。


「わ!? わわわ……」


 ノアは明らかに動揺している。生温かい騎士たちの視線を感じるに、みんな知っているのだろう。


(すごいパスを出していったわね!?)


 フレヤは熱くなった頬を冷やすように両手で挟み込んだ。


「帰りましょう、フレヤさん」


 籠に乗り込んだノアが手を差し出す。その顔は真っ赤だ。


「うん……」


 フレヤはノアの手を取るとエアロンの籠に乗り込んだ。




 日はすっかりと落ち、空には月が輝いている。


 竜は夜目も効くらしく、あっという間に国境の渓谷付近を飛んでいる。魔道具も取り付けてあるから快適だ。


 籠の中で二人は無言だった。


「あの……すみませんでした。フレヤさんを助けるためとはいえ、勝手に婚約を結んだりして」

「あ、うん」


 やっぱりそういうことなのかと思ったが、言葉が続かない。


 謝るということは、ノアは後悔しているのだろうか。そんな不安がフレヤによぎる。


「……僕が立派な竜騎士になろうと決意したのは、ある女の子がきっかけでした」

「えっ? そうなんだ……」


 少しの沈黙を破り突然語り出したノアに、フレヤは心臓がぎゅっとなる。


(好きな子、いたんだ)


 そんな大切なきっかけになる子なのだから、きっとノアの好きな子なのだろう。

 でも突然なんで? と思ったが、やはり婚約は助けるため、形だけだと言いたいのだろうか。

 目を伏せるフレヤに、ノアは話を続けた。


「その子はちょうどそこの渓谷から落ちそうになっていて」

「ん?」


 聞いたことのある話だ。


 ノアは優しい笑顔で真下の渓谷を指さしていた。


「金色の瞳をキラキラさせて僕とエアロンをすごいって言ってくれました」

「あ!?!?」


 あのときの男の子がノアだと気づき、かちりと姿が重なった。


「何で言ってくれなかったの!?」


 驚きでノアに詰め寄る。

 ノアはふっと笑みをこぼすと、渓谷に目を向けた。


「約束した竜騎士になれなかったので、言えませんでした。フレヤさんに失望されるのが嫌だったのかも」

「そんなこと――」


 アイスシルバーの瞳がフレヤをまっすぐに捕らえた。


 ドキンと胸が跳ねると同時に、ノアの両手がフレヤの右手を包み込む。


「新しい約束をさせてください。今度こそ僕は、あなたを全身全霊で守ると誓います」

「ぴゅい!」


 顔をこちらに向けたエアロンの瞳が澄んだ青い目をしている。――あのとき出会った竜だ。


 情報が追い付かなくて、心臓が忙しくフレヤを揺さぶっている。


 キラキラと光って見えるのは、エアロンの瞳に映った星のせいなのか。 


 ノアに視線を戻せば、フレヤを真剣に見つめている。


「良い……ですか?」


 星が瞬く下でこんな誓い、ずるい。こんなロマンチックなシチュエーションなんて竜の伝承でしか知らない。


 こくこくと頷くだけで必死だ。そんなフレヤにノアはわんこの笑顔ではにかむ。


「……!」


 この笑顔の元に帰ってこられて幸せだ。


 伝えたいことがいっぱいあったはずなのに、フレヤは胸がいっぱいで何も言えなくなってしまった。


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