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追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした  作者: 海空里和
第四章

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39.アウドーラからの救援

 空に現れた竜騎士団は、次々とガーゴイルを倒していく。その光景をただただフレヤは見つめていた。


 どうして竜騎士団がイシュタルディアにいるのか。頭では混乱しているのに、その光景から目が離せない。


 何度も訓練を目にしてきたのに、実際に戦う彼らの姿は強くて美しい。


 竜によって瘴気を吸われたガーゴイルは勢いを失い、騎士がすかさず切り伏せる。信頼があるからこその連携だ。


「フレヤさん!!」


 呼ばれた声に、ガーゴイルの残党が自分に向かって来ているのに気づいた。身を固くして思わず目を閉じれば、物体を切り裂く音がフレヤの耳を駆け抜けていった。


 そろりと目を開ければ、真っ二つに割れたガーゴイルが地面に落ちるところだった。


「大丈夫ですか!?」


 籠に掴まりながら、外側に身を乗り出したノアが

フレヤの目線まで下がってくる。ノアは剣を鞘に納めていて、彼が助けてくれたのだとすぐにわかった。


 呆然としながらも、ノアから差し出された手をフレヤは思わず取った。


 一緒にエアロンの籠へ乗り込み、空に浮かび上がる。まだガーゴイルが残っているが、竜騎士団が倒してくれている。


 難を逃れたフレヤはやっと息をつけた。そしてまだ握られた手の先のノアを見て呟いた。


「どうして」


 ノアはもう片方のフレヤの手を取ると、優しい笑みで問いに答える。


「迎えに来ました。フレヤさんは大切な人だから」

「まだ仲間だって言ってくれるの?」

「――っ、僕は……」


 潤むフレヤの瞳を見つめ、何か言いたげだったアイスシルバーの瞳は閉じられる。


「……エアロンが吐き出した魔石に、こいつが見てきたフレヤさんの姿が記録されていました」

「えっ!? エアロンは体内に瘴気を溜めていないはずじゃ? だから診察したあのとき……」


 ノアが差し出した手の平には、魔石がのっている。綺麗な青の魔石が。

 その色を見て、何だか泣きたくなった。押し込めていた涙が瞳に溜まる。


「でも吐き出しましたよ。フレヤさん、エアロンの治療をしてくれましたよね? その影響なんじゃないですか?」

「えっ、何それ!? 興味深いわ! あ、私ノートをアウドーラに置いてきたんだった!」


 ノートを取り出そうとして、鞄がないことに気づく。フレヤは頭を抱えて悔しがった。


 すっかりいつものフレヤに戻ったのを見て、ノアがくすりと笑う。


「どうせアウドーラに帰るのだから、そのときでいいのでは?」

「……いいの?」

「みんな待っています」


 ノアは迎えに来たと言っていた。ノアの笑顔と視線が合う。


 竜騎士団がイシュダルディアを助けてくれているのは――。


 空に舞う竜たちを見渡し、胸からこみ上げるものを感じながらフレヤは目を閉じる。


「その前にやることがあるわ」


 失ったと思っていた信用は、エアロンのおかげで取り戻せたのだろう。

 

 隣国に竜ごとやって来るというリスクを冒してまでノアが、みんなが迎えに来てくれた。その事実がすべてを物語っていた。


「そう言うと思いました」


 ノアは籠に積んであった麻袋の口を開けてフレヤに見せた。


「これ……!」


 麻袋にはフレヤがアウドーラで量産した結界ハーブが詰まっている。どうやらキリに全てを盗まれたわけではなかったらしい。


「さあ」


 ノアがフレヤに麻袋を手渡す。


 フレヤは頷くと、麻袋に手を突っ込み、聖力を流す。


「ノアも一緒に」


 両手でハーブをすくい取り、隣のノアに目をやれば、笑顔が返ってくる。


 二人はハーブを両手いっぱいにすくうと、上空から散布していった。


 聖力がこもったハーブは、キラキラとイシュダルディアの王都上空を舞っていく。

 イシュダルディアはエアロンが一周してしまえるくらい小さな国だ。


 二人は時間をかけてイシュダルディア中にハーブを蒔いていった。


 大量の魔物は竜騎士団が倒し、残党はハーブの香りを嫌がり逃げ帰っていく。


 空に舞う光の粒を、ほとんどの国民が外に出て見上げていた。この美しい光景を国民は生涯忘れない。次代へと語り継がれていくのは、まだ先の話だ。


「アウドーラにしわ寄せが出ないかしら」


 イシュダルディアから魔物を追い払ったはいいものの、ルークがやろうとしたように、アウドーラに魔物が押し寄せたらどうしようとフレヤは懸念した。


「アウドーラはフレヤさんの結界があるし、竜もいるから大丈夫ですよ。ほら、あの方角はきっと自分たちの巣へ帰っていったのでしょう」


 空っぽになった麻袋をノアが折りたたみ、足元に置く。その分の距離を詰めると、今度は籠にかけていたフレヤの手に自身のものを重ねて置いた。


「その生態を、私はまだまだ研究していかないとね」

「さすがフレヤさん。僕も手伝います」


 アウドーラとの国境沿いの渓谷はオレンジ色に染まっている。

 いつかアウドーラで見た景色とは真逆の光景だ。


(まさかノアと両国でこんな光景が見られるなんて)


「綺麗ですね」


 ノアを見れば、目を細めて渓谷の先を見つめていた。


「アウドーラで見るほうが綺麗だよ……」


 フレヤの呟きに、重ねられたノアの手が指に絡んだ。恥ずかしくて横を向けない。


「帰りましょう、フレヤさん。僕たちの国へ――」

「うん……」


 フレヤもアウドーラの国民なのだとノアが言ってくれている。嬉しくてくすぐったい。


「フレヤさんに大切な話があります」

「うん……私も」


 引き延ばして、一度は伝えることを諦めた想い。今度はちゃんと後悔しないように伝えようと、そのときのフレヤは思った。

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