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追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした  作者: 海空里和
第四章

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36.大事な女の子

 竜騎士団は逃亡したフレヤを追うため、準備でバタバタと追われていた。


 ノアはエアロンの傍らでぼんやりと昔を回想していた。


 竜騎士がかっこいいと瞳をキラキラさせていた女の子は、約束通りノアの目の前に現れた。だから騎士になる約束を果たせなかった代わりに、フレヤを守ると約束した。


「僕、また約束を守れなかったんだな」

「きゅいっ!」

「ん?」


 エアロンはノアの頭を口でつつくと、ぺっと何かを吐き出した。


「これ――魔石?」


 地面に吐き出された石を手に取り、かざしてみる。すると石が発光して光の線状を作り出した。


「わ!?」


 驚いて手を下げれば、光が壁に当たる。その光は円形になると、何やら映像を映し出した。


 その映像は高い位置からフレヤとキリを捕らえている。

 ところどころ切れているが、音も入っている。


「これ、は――」


 ノアは目を瞠った。


 映像を見て行けば、キリに脅されたフレヤが泣きそうな顔で竜から魔石をとっている。


 遡り、キリがエアロンの足にナイフを立て、叫ぶフレヤ。


 遡り、楽しそうに笑うフレヤの顔――ノアと喧嘩して怒るフレヤ。


 そして最後には、幼いフレヤがキラキラと目を輝かせている姿が映った。


 これは、エアロンの目を通して見てきたフレヤの姿だ。ノアがそのことに気づくと、魔石から光は消えた。


「お前は最初からあの子のこと気づいていたんだな」

「ぴゅい」


 エアロンは返事とともに、ノアの頭に口付けをした。祝福だ。


「エアロン? なんで今――――っ!」


 エアロンの瞳が鉄紺から澄んだ青に変化している。その瞳を見つめればフレヤが今どこにいるのか手に取るようにわかった。


「これが祝福……?」


 ぐっとまだ手に残る魔石を握りしめれば、エアロンが背中をつつく。急げと言っているようだった。


☆☆☆


 ノアが魔石を持ってディランの元へ行けば、まさに今フレヤ討伐隊の準備が整い、出発しようというところだった。


「どうしたんだ!?」


 ノアを追いかけて来たエアロンまでその場に降り立ち、ディランは何事かと隊を一時待機させた。


 ノアは皆を集めると、エアロンの身体に魔石の映像を投影させた。



「――これは、エアロンの視点か?」


 映像を見たディランがすぐに気づいた。


 先ほど流れたものと同じ映像が流れていく。


「まさかキリが」

「あの村の生き残りだったのか」


 映像から拾ったキリの声に、皆がざわめいた。


「この騒ぎは何だ!?」


 険しい顔でユリウスが戻り、さらに騒然とする。エミリアも一緒だ。


「団長、遣いを出したはずですが」


 いち早くディランがユリウスの前に出て説明をしようとする。


「ああ、すれ違ったか。魔物除けをどこに設置するか街を見て回って来たからな」

「魔物よけ?」


 ざわざわと騎士たちがノア・ディラン・ユリウス・エミリアを中心にして集まる。


「フレヤが陛下に提案した計画を本格的に進めることになってな……って、どうした?」


 青ざめていくディランにユリウスが事情を聞くと、最初に激怒したのはエミリアだった。


「フレヤはイシュダルディアで不当な扱いを受けてきたんだぞ! アウドーラの国民になりたいと言っていたのに! あんなに竜を愛してくれていたのに、お前たちは!」


 エミリアに怒鳴られた騎士たちは所在なさげに目を泳がせた。


 今にも掴みかかりそうなエミリアを優しく諫めるように、ユリウスが肩を抱く。


「それで部隊を用意していたのか。魔物討伐でもあるまいに」


 ちらりと揃えられた竜たちと騎士の武装にユリウスが目をやる。

 やりすぎであったことにディランもようやく気づいたようだ。


「申し訳ございません。全ては私の指示でやったこと。騎士団を預かりながらこんなことになり……」


 頭を下げようとしたディランをユリウスが制する。


「竜はフレヤを排除しなかったのだろう? 冷静なお前がどうしてそんな判断をした」

「……そういえばどうしてか、フレヤさんは裏切り者なのだと思い込んでいた節が……」

「ぴゅい!」


 エアロンが訓練場の隅に向かって鳴き声を上げた。


「兄上……これ、魔道具……」


 ノアが見つけた魔道具に魔石は残っていなかったが、それはフレヤがよく竜のために気持ちを落ち着かせるハーブを焚いていたものだった。


「なるほど。キリがこれを悪用して、お前たちの猜疑心を煽ったようだ」


 皆の思考がはっきりしている今、効果はなくなったのだろう。


「ノアが効かなかったのは愛ゆえかな」

「ユリウス様! すぐにフレヤを取り戻しに行きましょう!」


 ノアをからかうユリウスに、そんな場合ではないとエミリアの気持ちがはやる。

 エミリアを落ち着かせるようにユリウスがゆっくりと話す。


「この映像を見る限り、キリは転移装置を持っている。二人はすでにイシュタルディアへ入ってしまったと考えるべきだろう」

「そんな、どうすれば」


 勝手に隣国へ踏み入れば、今度はこちらが侵入者だ。そうすればイシュダルディアへ戦争の口実を与えてしまう。


「彼女をアウドーラの国民にしてしまえば、誘拐ということでイシュダルディアを追求できる」

「それだ!」

「しかし手続きには時間がかかる。そうしているうちに彼女を取り戻せなくなるだろう」


 ぱあっと顔を輝かせたエミリアはすぐに表情を曇らせ、頭を抱えた。


「ノア、それよりも手っ取り早い方法があるな?」

「それは……」


 にやりと笑ってみせたユリウスの意図をノアは理解した。そしてエミリアも。


「ノア! 男を見せろ! フレヤはお前にとって大事な女の子だろ!」


 エミリアの言葉に拳を握る。


 フレヤは大切な思い出の――初恋の女の子。そして今はそれ以上の存在だ。


「はい。僕は婚約者を取り戻しに、イシュダルディアへ行きます」


 強い光を宿したアイスシルバーの瞳で前を向く。


「よしっ!」


 ユリウスとエミリアがノアの背中を同時にバンと叩くと、騎士たちも歓声をあげてその場を盛り上げた。


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