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追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした  作者: 海空里和
第三章

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35.過去に戻りたい

「よくやったぞルークよ!」


 玉座の間へフレヤは縛られたまま放り込まれた。


「隣国に聖女を要求されたときはどうしたものかと思ったが……。まさかそれを逆手にとってスパイ行為をさせていたとは」

「当然です、父上。すべては俺の策です」


(あなたは私を厄介払いしただけですよね! このバカ王子!)


 過程はどうあれ、結果的にはそうなっているのが事実だ。フレヤは口を挟むのをぐっとこらえた。


「どうです父上、良質な魔石も多く手に入ったことですし、これを機にアウドーラを我が手中に納めるというのは」

「おお、それは名案だ」


(この王族は、まだアウドーラへの侵攻を諦めていなかったの!?)


 王太子もバカなら、国王もバカだ。ルークの提案を鵜呑みにしている。


「戦争をしても、アウドーラには敵いません!」

「あいつらが従える魔物は我が国には入ってこられないから大丈夫だ」


 必死に訴えるフレヤに、ルークは鼻で笑う。


「竜は魔物ではないわ!」


 シン、としてその場の皆が一斉に笑い出す。


「彼女は我が国の聖女じゃなかったのか、ルーク?」

「どうやらアウドーラに洗脳されていたようです」

「そうか、人質だからとむごいことを」

「私は正常です!」


 フレヤに視線をやると、また笑いが起こる。


「ひとまず神殿で監視させながら勤めを果たさせます」

「お前に一任しよう」


 国王に一礼したルークは玉座の間を出る。護衛騎士にフレヤを拘束させたまま、魔石を三つ取り出し、神殿へと転移した。


「王子……! 馬車を使ったらどうなの!?」


 こんなことで魔石を消費するルークに腹が立つ。


 転移の衝撃で神殿の床に倒れ込んだフレヤは眉を吊り上げルークを見上げた。


「は? 何で俺がそんな時間をかけなくてはならないんだ。戦争の準備も任されたことだし忙しいんだ」

「あなたねえ……、――!?」


 転移先は結界装置のある場所だったようだ。結界装置の前にチェルシーが立っていたが、フレヤは彼女よりも装置の状態に驚愕した。


「あなた何をしていたの!?」


 装置の中央にあるはずのハーブは空っぽになっており、空焚き状態だ。そのせいかゴウンゴウンと装置が変な音を立てている。

 フレヤが作っておいたはずのハーブは放置され、しおれていた。装置に入れる前のハーブでは聖力を長時間保持できなかったようだ。


「そんな汚れ仕事はまたあんたがやるのよ!」


 チェルシーに装置前へ突き飛ばされると同時に、騎士たちに囲まれた。


「ルーク様、これでわたしたちは楽しく暮らしていけますね」

「そうだな。アウドーラが属国になれば魔石も俺たちのものだし、こいつに結界を作らせておけば我が国も安全だ」


 チェルシーがルークの側に寄り腕を取ると、彼はふふんと笑った。


「あなたも国のトップに立つなら、国民に対して責任を持つべきだわ!」

「俺は生まれながらに高貴な血を引く者だぞ。民が俺のために何かするならわかるが、どうして俺が下賤な者のために動かねばならない」


 ルークは本気でそう思っているようだ。それならばフレヤがいくら訴えたところで話は平行線だ。


(アウドーラなら……)


 話を聞いてくれたのにと思ったが、いまやフレヤは裏切り者だと思われている。どのみちフレヤにはどこにも居場所がない。


「ほら、お前が働かないと民の命が危ないぞ」

「……それは王子も同じでは? 今、ここも危ないのですよね?」


 やけに余裕なルークを見やれば、彼は騎士に合図して麻袋を持ってこさせた。


「あのキリという男、なかなかに優秀だ。お前がアウドーラで作っていたハーブも持ち出してきたぞ」

「っ! ……じゃあ装置に」


 王子のことだから王宮にはとっくにまいたのだろう。手を出して残りを渡すように言えば、騎士はそれを引っ込めてしまった。


「ダメよ。久しぶりに私の大聖女としての権威を城下で見せるんだから」

「結界が先でしょ!」


 チェルシーを掴もうとして、騎士たちに取り押さえられる。


 身動きのできないフレヤにチェルシーが近寄り、耳元で囁く。


「わたしのいる場所がまず安全ならそれでいいのよ。優先はこのわたし」

「腐ってる……!」


 離れていくチェルシーの顔を見上げながら、フレヤは憤った。


「他も助けたければ、早く調合することね」


 くすりと笑うチェルシーは本当にハーブを渡さないつもりだ。これではフレヤがハーブを調合せざるをえない。


「人質よりも、このイシュダルディアで大聖女チェルシーの補佐として生きるほうが幸せだろう?」


 得意げに告げるルークに、フレヤは自嘲した。


「補佐?」

「そうよ。あんたはわたしが一生大聖女補佐として雇ってあげるから安心してね」


 それは人質とどう変わらないんだろうか。


 アウドーラで過ごした時間のほうが人間らしくて、充実していた。

 大好きな竜や騎士団の人たち、そしてノア。もう会えない。


(ばかね……)


 自分の考えに首を振る。


 フレヤはこのとき初めて、過去に戻りたいと願った。

沢山のお話の中からお読みいただきありがとうございます!次話より第四章に入ります!いよいよ最終章です。

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