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追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした  作者: 海空里和
第三章

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34.脱獄

「お願い! エアロンを助けたいの! ここから出して!」


 鉄格子越しに叫ぶも、誰もやって来ない。いくつかある独房のうちの一つにフレヤは入れられているが、他は空っぽだ。そのため入口にしか騎士は置かれていないようだ。


 叫び疲れたフレヤは地面に座り込む。


 狭い独房には布切れ一枚が敷かれているだけだ。窓もなく、神殿の地下室が思い出される。


(エアロンが刺されてどのくらい時間が経ったんだろう)


 焦りだけが募り、フレヤは膝を抱え込むようにして身体を丸めた。


「これじゃあ何のために……」


 幼い頃、あの竜を治療してあげられなかったのが悔しくて、必死に研究をしてきた。それなのにまた同じ思いをしている。


「約束したのに……」

「何を?」


 呟きに返事が返ってきて、顔を上げる。目の前の人物にフレヤは叫びそうになった。


「キリ……っ……んっ!」


 キリに口を押さえこまれ、言葉を飲み込む。


「俺についてくるならエアロンを診させてあげるよ」


 キリの腰にぶら下がった袋には魔石が詰められているようで、彼はそこから魔石を二つ取り出してフレヤへ見せた。


「竜医師の治療を受けたエアロンは休んでいるが、じわじわと毒が身体に回っているだろうな」

「!」

「俺と来るか?」


 瞳を揺らしたフレヤをキリが有無を言わせぬ問いで詰める。


(キリはここに忍び込むのにも魔石を使ったはず……さらに二人分使うとなると……)


 一刻も早くエアロンを診たい。しかし、魔石を消費するのもためらわれる。


「エアロンが死ぬぞ」

「……!」


 キリの脅しにフレヤは差し出された手を取ると、彼が魔言を唱える。二人の身体はあっという間に竜舎へと転移した。


「エアロン!」


 到着するなり、フレヤはエアロンに走り寄った。キリの言う通り、医師も騎士も引き上げたようだ。竜舎には竜たちしかいない。


「ごめんねエアロン」


 処置された包帯を解けば、銀色の鱗が変色していた。フレヤは急いで棚まで走り、置かれた薬を選び取る。


「エアロン、飲んで」


 エアロンの口に薬を流しいれる。エアロンは「きゅう」と悲しそうに鳴きながらも大人しく薬を飲んだ。


 傷口にも薬を塗り込み、解毒を完了させる。


「さすがフレヤさん。見ただけでわかるんだ?」

「……あなたに色々教えたのは私よ」


 後ろで楽しそうに笑うキリを睨むと、ナイフを突きつけられた。


「竜から魔石を取れるだけ取るんだ」

「それが目的だったのね。でも竜が大人しく従うわけないわ」


 ナイフには屈せず、睨んだままキリを見据える。


「さすがフレヤさん」

「!?」


 キリも笑顔を崩すことなく竜舎を見回す。


(そういえば、竜たちが騒がない?)


 ノアは竜たちがフレヤを信頼しているから大人しくしていると言っていた。それならキリは?


「竜の祝福を受けたあなたを傷つけたくはないらしい」


 その問いに答えるようにキリはナイフをフレヤの首元に突き付けた。


「え……」


 竜たちを見回せば、みんな心配そうな瞳でフレヤを見つめている。


「アウドーラの守り神である竜は国民である俺を傷付けることはしない。そして騎士を呼んだとしても駆けつける前にフレヤさんを殺してしまえることくらい理解している。本当に頭がいいなあ!」


 そう言いながらも竜をバカにしたような口調だ。


「……卑怯者」

「何とでも言え。さあ、魔石を取らないなら竜を殺せとの命令だ」


 睨みつけるフレヤにキリは遅効性の毒が入った瓶を見せつける。


「……わかったわ」


 ぐっと唇を噛みしめると、フレヤはキリの言う通り、竜の口から魔石を取り出していった。


 竜は大人しくフレヤに口を開けてくれる。


「ごめん……ごめんね」


 何もできない自分が情けない。でも泣くのは違うと思い、ぐっとこらえた。


 エアロン以外の竜すべてから魔石を取り出すと、キリがそれを袋に詰め込んだ。


「じゃあ行きますか」


 キリに手を掴まれたフレヤは、そのまま転移で国境近くの村まで連れていかれた。慌ただしく馬車に詰め込まれ、夜が明ける頃にはイシュダルディアへと入国していた。



 翌日、フレヤが脱獄したとノアは部屋で聞かされた。

 フレヤの無実を訴えるノアは、騎士から監視を受けていた。


「そんな……どうして」


 どうして自分に何も言わずに行ってしまったのか。

 呆然とするノアをディランが諭す。


「彼女もしょせんイシュダルディア人だったということだ。忘れることだな」


 そのままぼんやりとしながらディランと竜舎へ向かうと、騎士たちが騒いでいた。


「どうした?」


 一人の騎士がディランの元までやって来て、魔石を差し出した。


「これが床に落ちていました。きっとあの女は魔石を隠し持っていて、転移したに違いありません!」


 前にシルフィアを転移させてみせたフレヤが同じように魔石を使って逃亡したと考えるのは当然のことかもしれない。


「……最後に竜から魔石を奪っていったか」


 キリがわざと落としていった魔石からディランは彼が望んだ結論を導き出す。ディランは副団長として、フレヤの力の秘密を聞かされていた。


「彼女を追い、始末する! 彼女は竜騎士団に深く関わりすぎた。この先、アウドーラの脅威となるだろう!」


 ディランの号令に騎士たちが鬨の声をあげる。


 ハッとしたノアがディランを止めようとしたが、遅かった。


「竜の秘密を知られてしまったからな」

「人質を勝手に処分できないのを付け込まれたな」

「最初から牢にいれておけば」


 フレヤへの不信が募り、皆が目の色を変えて出陣のため竜を房から出していく。


(みんなフレヤさんがしてくれたことを忘れたのか!?)


 態度を翻し、フレヤへ憎しみを向ける騎士たちにノアは困惑する。


「きゅう」

「どうしたエアロン」


 取り残されたエアロンが悲しそうに鳴いた。


 エアロンを見れば足に巻かれていたはずの包帯が取り払われており、傷跡もきれいさっぱりと無くなっていた。

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