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追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした  作者: 海空里和
第三章

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28.診察

 ノアから機密情報を聞いたフレヤは、竜を診察する許可を得た。


「瘴気を吸っていたなんて、今まで苦しいそぶりとかなかったの?」


 ノアとエミリア立ち合いのもと、エアロンとソアラに向き合う。


 「いつも美味しそうにしてるから気にしたことなかったなあ」

「美味しそうに?」


 竜の生態についてまだまだ知らないことばかりだ。エミリアの言葉に、フレヤは目を大きく見開いた。


「ええと、じゃあ口の中を見せてくれるかな?」


 フレヤがそう言うと、エアロンが我先にと口を開けた。


「はは、主人と一緒でフレヤにずいぶん懐いてるな」


 エミリアの軽口にノアが睨む。そんな二人のやり取りをスルーして、フレヤは首を傾げた。


「エアロンは討伐に出ないから瘴気を吸わないわよね?」

「それなんですけど、今後僕も戦場に出ようと思っています」

「え!?」


 ノアの突然の宣言にフレヤは驚いた。だって足が、と心配するフレヤにエミリアがにかっと笑う。


「心配すんな。あくまで後方支援だから。エアロンに瘴気を吸ってもらえるだけでも助かるし、飼育長のノアがいれば竜のケアも万全だしな」


 でも、とノアを見れば晴れやかな顔をしている。


「僕が言い出したことなんです。こんな足じゃ役に立たないと思っていました。でも、ここでずっと燻っているのは嫌なんです」

「そっか」


 そんなふうに言えるようになったノアは強くなったと思う。それが男らしくて、なんだか眩しくて寂しい気さえした。


 そんなフレヤの様子を見て、まだ心配していると思ったのだろう。エミリアがノアの肩を抱いて笑った。


「安心しろフレヤ。ノアは竜騎士目指してただけあって、剣の腕は立つんだ。自分の身くらい守れるさ」

「私も――」


 言いかけてやめる。


(今、私も一緒に行きたいって言おうとした?)


 笑う二人を見ていたら、口からこぼれ落ちそうになってしまった。


(ノアやエミリアのおかげで自分が人質だってことを忘れそうになる……。私は陛下に約束した結界の力を早く示さないと)


 いくら二人が望んでくれようと、国王がフレヤを見限ればどうすることもできないだろう。


 アウドーラはイシュダルディアとは違う。そう思うのに、イシュタルディアで王族から受けてきた待遇を思えば不安になった。


 エアロンに向き直り、口内を魔石をつかって照らす。

 魔道具では口内を傷付けてしまうかもしれないため、フレヤが魔石を握り口内に手を入れる。


 魔石を握って魔言を唱えれば、明るく照らされ口内を隅々まで見られた。


「エアロンは……なんともない感じだなあ。次、ソアラね」


 エアロンの口から手を引き出し、次はソアラの口に手を差し込む。

 ソアラも大人しく口を開けて待機してくれた。


「えっ……」


 フレヤがソアラの口の中に手を入れた瞬間、ソアラの口内が光る。


「フレヤさん!」

「な、なんだ!?」


 驚くノアとエミリアは、その眩しさから片目をつぶりながら、近付けないでいる。


(あ……)


 フレヤはその光に導かれるようにソアラへと聖力を注いだ。


「フレヤさん!」


 光が収束し、ぐらりと後ろへ倒れそうになったところをノアが支えてくれた。


「あ、ありがとう」

「今のは……?」


 呆然とソアラを見上げれば、けぷっと何かを吐き出した。


「な、何だ!?」


 慌ててエミリアが受け止める。


「え?」


 エミリアが目を点にして二人へと振り返る。


「エミリア?」

「どうしたの?」


 受け止めた何かを持ったままフリーズするエミリアの手の中を、ノアと覗き込む。


「「え!?」」


 エミリアの手の中には魔石が収まっている。


 三人は顔を見合わせる。


「ぴゅい!」


 魔石を吐きだしたソアラはご機嫌な様子で鳴いてみせた。

 その赤い瞳が、いつもより鮮明な色に見えるのは自分だけだろうかと、フレヤは口をあんぐりと開けた。

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