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追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした  作者: 海空里和
第二章

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17.友達

(まさか! そんな? あのノアが、私を意識しているっていうの!?)


 フレヤは顔を真っ赤にしながら朝食をバクバクと食べ進める。

 

 ノアはユリウスに仕事のことで呼ばれていて、今日は一人だ。


 仮にも女性であるフレヤに近すぎる距離感に、思い当たる節はある。


(いや! あれは子犬で、優しくされて懐いているだけで!!)


 自分に言い聞かせるほどに、どうしても意識してしまう。


 それもこれも、エミリアが変なことを言うからだ。


 カッカッカとスープを口に流し込んでいると、元凶である声が上から降ってきた。


「おーおー、顔を真っ赤にしちゃって。どうしたの」


 エミリアが朝食を載せたトレーを手に、フレヤの向かいに座った。


「……何でもない」


 エミリアへじとりと視線を向け、スプーンを口に入れる。


 エミリアは可笑しそうに笑うと、朝食を食べ始めた。


「そうそう、ノアは元々モテてたんだ。今ならご令嬢たちがほっとかないだろうな」

「ぶほっ」


 わざとらしくそんな話をするエミリアにフレヤは喉を詰まらせた。


「おい、大丈夫か!?」

「う、うん」


 さすがに心配して水を差しだしてくれたので、フレヤは一気に流しこむ。


 落ち着いたところで、さらに話を振ってきた。


「なあ、ノアのことどう思う? あたしはあいつのこと弟のように思っててさ。フレヤは印象最悪かもだけど、本当は明るくて正義感があって、いいやつなんだ」

「どうって……」


 ごくんと水を飲み込み、一息置く。


「子犬?」


 エミリアががくんと机に立てていた肘を折る。


「そうじゃなくてさ」


 エミリアが言いたいことはわかる。


 フレヤだって、涙を見たあの日からノアのことは気になっている。


 あんなに喧嘩をした相手なのに、可愛いなとか、笑って欲しいなとか思う。


 この気持ちが何なのか、研究ばかりしてきたフレヤでさえ定義付けることはできない。


 いや、定義付けてしまえば後戻りできないのがわかっているのかもしれない。


 今は人質として、自分に課せられたことをするのみだ。

 竜の側にいられる。それ以上に望むことなどない。


「それよりエミリア、ユリウス様の側にいなくていいの?」


 とりあえず話を変えることにした。


「なっ……、あたしはいつもお側にいるわけじゃないから」

「ふうん?」


 エミリアのわかりやすい態度に、フレヤは仕返しだとばかりにニヤリと笑った。


「あ、あんたのおかげでさ、竜たちも元気だよ! あたしの相棒――ソアラもさ、鱗の艶もよくなって、力があり余ってるって感じだな」


 エミリアも話題を変えることにしたらしい。


 フレヤとしてもこの手の話題から逃れたかったため、乗ることにした。


「それなら良かった! 歴代の聖女はアウドーラと違う角度から竜の研究をしていたみたい。それが役に立ったのね! 私も知らなかったことが知れて嬉しいわ」

「あんたさ、そんなに有能なら自国でも大切にされていたんだろうね。聖女にイシュダルディアの国家予算が注ぎ込まれているのは聞いていたからさ」

「ああ……」


 フレヤはチェルシーのことを思い出し、遠い目をした。


「何? 違うの?」


(別に国家機密でもないからいいか)


 フレヤは少し考えて、エミリアに自分が聖女としてやってきた現状を話した。


 もう一人の聖女と呼ばれるチェルシーは、仕事もせずに神殿の予算を食いつぶしていること。まともな神官はクビになったり去ったりして、フレヤが一人で結界を保っていたこと。食事もまともに与えられず、パン屋夫妻から分けてもらうパンが命綱だったこと。


「だから、アウドーラでまさかこんな人間らしい待遇を与えてもらえるなんて驚きで――」


 説明し終わると、目の前のエミリアが涙を流していてギョッとした。


「あんたっ……苦労してきたんだねえ……うっ、ぐすっ」


 エミリアは立ち上がると、反対側にいるフレヤの頭を撫でた。


(苦労……?)


 確かに待遇はあれだったと思うが、自分がやりたいことをやってきた。苦労かと問われれば疑問だが、こうして自分のために泣いて労わってくれる人がいるというのは何ともくすぐったくて心地いい。


「あたしは友達の苦労話には弱いんだ」


 ぐりぐりとフレヤの頭を撫でるエミリアを見上げる。


「とも、だち?」

「ん? あんたはシルフィアを救ってくれたんだ。竜騎士団の仲間で、友達だ」


 なんともわかりやすくて単純な理由だが、嫌な気はしない。


「それに竜から祝福を受けたんだ。アウドーラの国民としても認められるんじゃないか?」

「それは飛躍しすぎでは……」


 そうなれたらフレヤだって嬉しい。イシュダルディアに未練はないし、竜が生きるこの国でずっと生きられたらと思う。


 でもフレヤは人質だ。明日の我が身がどうなるのかなんてわからない。

 だからこそ、竜を間近に見られるこの機会を逃すものかと観察しているわけだけど。


「ここには王弟殿下が二人もいるんだぞ? きっと良いようになるさ」

「そうだといいな」


 楽観的な考えだとは思うが、今準備している結界が上手くいけばもしかしたら、とも思う。


「あたしはフレヤにずっとここにいて欲しいと思ってるよ」


 どうやら仲間だと認めると情が厚くなるのは、エミリアもらしい。


 仲間なんて久しぶりで嬉しい。


 ぬるま湯に浸かっているような、なんとも言えない気持ちになる。


 がつがつ進めてきた足を止めて、ずっと浸かっていたくなるような。


 私もずっとここにいたい。フレヤはそう言いかけて、ぎゅっと口を結んだ。

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