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追放された人質聖女なのに、隣国で待っていたのは子犬系王子様との恋でした  作者: 海空里和
第二章

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16.やきもち

「フレヤさんおはよー!」

「おはよう!」


 フレヤが竜騎士団に来て一週間が経った。


 今日もフレヤは早朝訓練を見学していて、小休憩に入ると騎士たちが次々と手を振って挨拶してくれた。


 シルフィアを治療して謝罪を受けても、どこか遠巻きだった騎士たちは、今ではすっかりフレヤを受け入れている。


「僕、竜たちに水を飲ませてきますね」


 いつもユリウスの隣で訓練に参加していたノアは、いつの間にかフレヤの隣が定着していた。

 訓練の邪魔にならないよう見学をするフレヤのためにベンチまで用意してくれたのだから驚きだ。――その隣にノアが座っているわけだが。


 離れたこの場所は訓練を一望するのにちょうどいい。


 自転車で迎えに来たキリに向かって歩き出したノアは立ち止まると、フレヤを振り返った。


「フレヤさんも行きます?」

「いいの!?」


 差し出された手を思わず掴んでいた。


 竜に触れられる機会を無駄にしたくない。


 ノアは「ですよね」と笑うと、フレヤをふわりと横抱きに抱えた。


「ちょ!?」

「自転車は二人乗りなのでしっかりつかまっていてくださいね」


 ノアはフレヤを抱えたまま自転車の後部に足をかける。


「ちょっとおおおお~!?」


 キリはノアが乗ったのを確認すると、自転車を走らせた。


 移動用の自転車にはイシュダルディア産の魔道具が取り付けられており、少しの力でこげるし、スピードも出せるらしい。

 だからフレヤ一人くらい増えてもキリの負担にはならない。ならないが……。


(だからって!! だからって!! すぐに人を抱き上げないで欲しいわ!)


 ノアはフレヤが落ちないようにしっかりと抱きかかえており、身体が密着している。

 この狭い場所では、仮にフレヤも立って乗ったとして、ノアに後ろから抱きしめられる形になるだろう。


「少しの間、我慢してくださいね」

「~~っ、私なら走るのに」

「それでは休憩が終わってしまいますから」


 それなら仕方ない、のか? と竜に水を与える仕事をしたい欲のほうが勝つ。


 訓練場に着くと、三人で手分けして竜に水を配っていく。騎士たちも水分を取り、休んでいた。


(やっぱり、あの竜はいない……)


 竜に接近することを許されるようになり、全ての竜を見たが、幼いころ助けてくれた竜はいなかった。


(竜にも引退とかあるのかな)


「エアロン!?」


 水を器に移していると、ノアの驚く声が聞こえた。

 

 何事かとフレヤが顔を上げれば、エアロンが空から降り立ってきていたところだった。

 エアロンは運搬専門のため、早朝訓練には参加していなかった。


「どうして……」


 エアロンは驚くノアから視線を外すと、フレヤに向き直った。


「えっ!?」


 エアロンが突進してくる。


「えっ!? えっ!?」


 エアロンはフレヤの前に来ると、頭を下げて手に持っていた水に口を付けた。


「エアロン、お水を飲みに来たの?」


 わざわざ?


 驚いて、でも器を落とさないようにしっかりと両手で支える。


 エアロンは水を飲み終わると、「ぴゅい!」と嬉しそうに鳴いた。


「どうやらエアロンはフレヤさんの食事が楽しみすぎてここまで来ちゃったみたいですね。食いしん坊だなあ」


(そんな理由!?)


 ニコニコ笑うノアとエアロンを見て目をこする。


(こ、子犬が二匹!?)


 ずいぶん大きな子犬だが。エアロンは実際にその大きなしっぽをぶんぶん振っている。


「パートナーは似るってな」

「エアロンもフレヤさんに懐いているんだな」


 ははは、と遠くから笑う騎士たちの声が聞こえる。


 ノアがフレヤに対してこんな態度だから、騎士たちも受け入れてくれているのだとフレヤは思っている。


(まさかエアロンまで!?)


 竜は賢い生き物なので、誠実に接すれば受け入れてくれるのはわかっていた。

 しかし、こんなに懐いてくれるのは嬉しい誤算だ。


(竜が! 私に!?)


 エアロンを見上げれば、鼻を寄せられる。そして頭にちゅっとキスをされた。


「祝福だ!!」

「またしても!?」


 一気に訓練場がざわめく。


(ええと、祝福ってこんなに頻繁に拝めるものなの?)


 ぽかんとしていると、ノアに手を引かれた。


「エアロン、番を救ってもらった感謝はわかるけど、フレヤさんは女の子なんだよ」


 なぜかむっとしてエアロンへ話すノアに、フレヤが首を傾げる。


(異性に祝福をすると何かあるのかしら??)


「ノア、番であるシルフィアが怒っていないのにお前が焼いてどうするんだ」

「兄上……」


 くすくすと笑いながらユリウスがやって来る。


(ああ、ノアは相棒の自分を差し置いて、エアロンが私に祝福したことを拗ねているのね)


 ユリウスの言葉に合点がいく。


「さ、訓練再開だ。エアロンも見学していくのか?」


 ユリウスがパンと手を叩くと、エアロンはシルフィアの方を見て、「ぴゅい!」と返事をした。


「ノア、私たちも片付けて撤収しないと」


 ぷくうと頬を膨らませたノアはこちらを見ると、フレヤの手を離し、片づけを始めた。


(な、何なの?)


 前みたいな苛烈な怒りではない。むしろ可愛い。そんなにエアロンを取られて悔しいと思っているのだろうか。


「フレヤ」

「あ、エミリア」


 休憩を終えたエミリアがフレヤの肩に手を置いた。


「ノアは、エアロンが(おとこ)だから怒ってんだよ」

「は……?」


 にやりと笑うエミリアに目が点になる。


「モテる女はつらいねえ~」


 ぽんぽんと肩を叩くと、エミリアは楽しそうに訓練へと向かって行った。


「え……」


 エミリアの言葉を咀嚼し、整理する。


 じわじわと顔に熱が溜まっていく。


(えええええええええええ~!?)

 

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