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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第四章 神殿

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神殿 16

 朱雀離宮の二番目に大きいホールに、ほとんどの親衛隊の隊員が集められた。

 一番広いホールは結界の陣が描かれているため、現在使用禁止となっているためだ。

 二番目といっても、舞踏会などが開けるほど、十分に広い。

 幻影を留めていられるのは、わずかな時間なので、絵描きも呼ばれた。

「おい。本当に大丈夫か?」

「映視くらい、どうということはありません。いつもより、持続時間が短くなる程度ですよ」

 必要以上に心配するリズモンドに、サーシャは首を振った。

 実際、大技ではなく、普段なら苦も無く使える術なのだ。

 魔力量にも問題はない。

 リズモンドが心配しているのは、結界に弾かれたときに受けた、精神体のダメージだ。

 さすがのサーシャも、ノーダメージではいられなかったが、だからこそ、ここで大事をとるのは違うと感じている。

 あの神殿の建物を見たのは、サーシャだけなのだ。

 記憶は徐々に薄れていく。だからこそ、映視の術は、今使わなければ、全く役に立たないものになる。

 やがて、魔道灯が消され、真っ暗になった。

 映視は、部屋が暗い方が、鮮明に見えるのだ。

「アルカイド君、こちらはもう大丈夫だ」

 レオンに促され、サーシャは、基礎通り魔法陣を描いた。

「始めます」

 いつものサーシャなら、魔法陣を描く必要もないのだが、自分の体調が万全ではない以上、少しでも負担のない方法をとる。

「我が記憶をここに!」

 サーシャが叫ぶと、サーシャの頭上に、白い建物が映し出された。

 無意識の記憶なので、焦点があってない部分もみえる。

 つまり、サーシャが表面上覚えているものより、かなり精密に描き出されるのだ。

 白い建物の周囲は、木々が生い茂っている。

 ただ、それ以上の光景を映し出すことはできず、サーシャは術を打ち切った。

 集団に見せるため、通常よりも、かなり大きく幻影を作ったため、疲労を感じる。

 とはいえ、いつものサーシャなら、まったく気にしない。さすがに、病み上がりにはきつかったようだ。

 幻影が消えると、魔道灯が灯された。

「バーソローにある神殿だと思います」

 手を挙げたのは、ミラル。結界を張るときに協力をした魔術師だ。

「バーソローか……」

 レオンが顎に手を当てる。

 バーソローは帝都の外にある村だ。

 街道沿いのため、そこまで不便な場所というわけでもないし、帝都からそこまで離れている場所ではない。馬で半日の距離だ。

 ミラルは、自分がバーソローの村の出身だと、レオンに告げる。

「どんな神殿だ?」

「バーソローにあるといっても、村に流れる川の対岸にありまして、めったに村の者と交流はしなかった記憶があります」

 神官は修行の為に俗世から離れることがあるため、交流があまりなくても、村人は何とも思わなかったらしい。

「私も十年ほど帰っていないので、はっきりとはわかりませんけれど」

 ミラルは首を振った。

「バーソローなら、距離的にちょうどいいかもしれませんね」

 リズモンドが頷く。

「帝都内と違って、足がつきにくいけれど、そこまで遠くないですから」

「確かにそうだな。マーダン、地図を」

 レオンが指示をすると、マーダンがかなり大きな地図を持ってきた。

「バーソローはあまり詳しい地図ではないのですが」

 ホールの隅に置いてあった机の上に広げられた地図を、レオンは覗き込む。

「見た目はともかく、敷地面積はかなり広いな」

 建物の大きさは小さそうだが、神殿の所有している土地はかなり広い。耕作地と考えれば、それほど不自然ではないが、数人が住む建物の外観に比べ、広そうだ。

「このあたりに船着き場がありまして、村と交流するときは、舟を使用しておりました」

 ミラルが指をさす。

「神殿には,ここを渡らないと行けないのか?」

「裏は森ですので、森を歩けば、行けなくはないかと。ただ、村の人間は、あの森には入らないようにしておりますので」

「なぜだ?」

「魔獣が出るのです」

 川に隔てられた村側で魔獣を見ることはほとんどないらしいが、森にはかなり凶悪な魔獣たちが生息している。

「なるほど。それで、あそこまで強い結界が必要なのですね」

 サーシャは得心した。

 森を背にしている以上、魔獣がいつ襲ってくるかわからない。結界が強固なのは当たり前だ。

 結界を強固にした建物を作る理由にもなる。

「それでも、宮殿並みの結界はさすがにやりすぎだろう?」

 リズモンドが首を振る。

「魔獣のためかどうかはわからないけれど、朱雀宮殿を魔術攻撃するには、もってこいってことですよ」

 サーシャは息をついた。

 もともとは本当に魔獣のためだったのかもしれないが、魔術攻撃の本拠地にも打ってつけだ。

 追跡されても、サーシャをもってしても破れない『結界』。

「ただ、私が追跡をしたのは向こうも知っているでしょうから、証拠が残っているかどうかは謎です。本当に申し訳ないです」

 サーシャが寝込んでいた時間に、相手は撤退したかもしれない。

 たかが二日、されど二日だ。

「あれだけの人数が、田舎の神殿に常駐しているとは思えない。移動したのなら、どこかに痕跡があるだろう」

 レオンが顎に手を当て、考え込む。

「街道の警備の者に、神官の出入りがなかったか確かめろ。何もなかったことにはできないはずだ」

 レオンは立ち上がる。

「明日の朝、バーソローに行く。アルカイド君は行けるか?」

「もちろんです」

 レオンの問いに、サーシャは、はっきりと答えた。

 

 

 

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