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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第四章 神殿

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神殿 42

 神殿につとめる神官の七割が何らかの形で大祭司グレック・ゲイルブに命じられて黒魔術を研究したり、孤児院で人材を育成するのにかかわっていた。無論、違法行為だと認識していなかった者もいるが、だから罪がないわけではない。全員が全員、牢に入ったわけではないが、相当な数の神官が親衛隊によって逮捕された。

 信者たちの混乱が思ったほど起きなかったのは、早々にアリア・ソグランが聖女として大祭司に就任すると発表されたからだ。

 神殿が管理していた孤児院は、とりあえず国の管理になることになった。教育方針も基本的には変わらない。ただし、魔術師は塔に登録をして、塔の人間が指導をする。そのほかの孤児院についても、裏の職業に流れないように、役人試験なども受けられるようになった。

 サーシャたち宮廷魔術師は、黒魔術の影響が残っていないか調べるのに忙殺された。神殿の関係している施設のほとんどに黒魔術の痕跡があった。それを調査し、無効化する──思っていた以上に骨の折れる仕事だった。気が付けば一年が経過していた。


「サーシャ、ちょっといいか?」

 報告書を書いていたサーシャはハダルに呼ばれた。この時間は他の魔術師は出払っている。

「なんでしょうか?」

 サーシャは身構える。ハダルがサーシャを個人的に呼ぶときはたいてい厄介な仕事だ。

「今度の皇太子の婚約式の件だが、特別任務になった」

「特別任務?」

 ハダルは大きな箱をサーシャに渡す。

「何ですか、これは?」

「ドレスだ」

「はい?」

 サーシャは目をしばたたかせる。意味が分からない。

「当日はレオン殿下のパートナーとして、警護に当たりなさい」

「えっと、なぜですか?」

 通常、婚約式などに参列する場合、パートナーは婚約者か親族だ。サーシャはどちらでもない。

「殿下のご指名だ。今回はソグラン嬢が大祭司になって初めての大きな儀式だ。まだグレック・ゲイルブの裁判は終わっていない。もちろん警備は万全だが、熱心な信者はゲイルブをとらえたレオン殿下を恨んでいる」

「ええと」

 そのことはサーシャにもわかっている。

「宮廷魔術師は当然警備をするが、実際のところ一番近い位置で警備を出来るわけではない」

「それはそうですが」

 もちろん、可能な限り近い位置で警備をしているが、守られる人間が不快にならない程度の距離はあいている。確かにパートナーなら、もっと近い位置で守ることが可能だ。

「殿下の意向だから私では断れないよ。ちなみにドレスはレオン殿下からの贈り物だ」

 にこりとハダルが笑う。

「……それにしてもどうして、殿下が私のサイズを知っているのですか?」

「どうしてって、採寸したからだよ」

「へ?」

 サーシャは記憶を辿る。そういえば、ふた月ほど前に身体測定をしなさいとハダルに言われて、細かくサイズを侍女さんが測っていったことがあった。

「ちなみに、たぶん一人では着れないだろうから、朱雀離宮の侍女さんが支度をしてくれるそうだ」

「冗談ですよね?」

「レオン殿下は冗談を言うひとではないことは、サーシャも知っているのでは?」

 ハダルにそういわれて、サーシャは頭を抱える。ただ、一つ意外なのは、レオンはレオン自身を守って欲しいとは思わないだろうということだ。レオンは自分が最前線に立ってしまうタイプで、誰かに守られるというイメージはない。とはいえ、第二皇子であるレオンがそうしろというのだから、サーシャとしては拒否できない。

「本当にドレスを着ないとだめですかね……」

 サーシャはため息をつく。正直ドレスなんて、アルカイド家にいた頃しか着たことがない。普段はプライベートでも魔術師のローブを着ている。ゆったりとしていて、それでいて動きやすい服に慣れているサーシャにとって、コルセットをしなければいけないドレスなど、苦行でしかない。美しいドレスは目で楽しむもので、自分が着用したいとは思っていないのだ。

「たまにはおしゃれを楽しみなさい。サーシャも若い女の子なのだから」

「……こういうところだけ、そんな風におっしゃるのはずるいです」

 普段は女だからといって手加減などせず、面倒な仕事ばかりまわすくせにと、サーシャは思う。

「うん。そうだね。でも、レオン殿下のパートナーを私がするわけにはいかないから」

「それは……そうですけれど」

 どうあっても覆らないことを悟り、サーシャはもう一度ため息をついた。

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