夏樹×美咲一恋心はウェルダンに焼かれて。(立成20年5月)
何度か目の、デートの最後に寄るカラオケ。普段歌うような曲も一回りして、心臓の奥が締まるような感じがする。……こういう距離感、まだ慣れないな。もう、そういう関係になって半年くらいになるのに。
「ねぇ、……夏樹」
「美咲……?」
熱っぽい声、抱き寄せようと絡ませてくる手。……もっと触れ合いたいって言いたげな美咲の仕草に、いつも心臓が飛び出そうになる。母性みたいなのの裏側にあるかわいさのもっと先に、こんなにやらしいとこがあるとか知らなかったな。私が火をつけちゃったせいだから、自業自得ってやつなんだろうけど。
「もう、……いいかな」
「ん、……いい、けど」
ソファーの上に座ってる美咲を、私も靴を脱いで足の間に入れてあげる。いいよって合図に、にやけちゃうのもかわいい。……私ももう、すっかり恋しちゃって。美咲が恋人になる前は、恋バナすら聞きたくなかったのに。今は、ちょっとした後悔みたいな気持ちも沸いてくる。
「ため息ついちゃって、……もしかして、イヤだったりした?」
「そうじゃなくて……、あのさ、美咲」
ため息、思わずこぼれてたみたい。それにしても、どうして気づいちゃうかな。周りの音だってけっこうあるはずなのにな。細かいとこに気がついちゃうとこ、普段は嬉しいけど、今は気づかないでほしかったな。
「なあに?」
「んー……、そのさ、……私たち、最初から恋人になれてたらよかったなって」
もし、私がちゃんと恋に向き合ってたら、恋人のふりをしようなんて誘ってなかったんだろうな。少なくとも、似たような悩みを持ってて、仲がよくて、恋人のふりをするのに一番都合がよかったから。……なんて、いい加減な理由で。
「そうかな、……わたしは多分、いきなりはお付き合いなんてできてなかったかな」
「そう、かな……」
「夏樹もわたしも、あのとき恋するなんて選んでなかったと思うよ?」
「そうだけどさ、……なんて言うか、その時から、美咲とは特別だったし……っ」
私がもうちょっと恋に臆病じゃなかったら、最初から美咲と恋人になりたいとか言えてたのかな。……それとも、『友達』だったから、そういうのも気兼ねなく見せられてたのかな。
「夏樹って、けっこうロマンチックだよね、……かわいいっ」
「ちょ、……美咲?」
引き寄せられてきて、ちょっと赤らんだほっぺ、近づいてきて。おでこがくっつきそうな距離で見下ろされる。。そういう美咲のほうがかわいいのに、なんて頭に浮かんじゃって、でも言えないや。
「わたし、理想の恋とかそんなの考えたことなかったよ?」
「まあ、そうだよね……」
「そういう風に言われると、ちょっと傷ついちゃうなぁ」
「うぅ……、なんかごめん……」
くすりと笑いが混ざった声。怒ってないのもわかるけど、確かにそう言いきっちゃうのは悪いよね。美咲だって年頃の女の子だし、同世代の女の子ばかりいる環境だから、恋バナなんて聞こうとしなくても聞こえてくるし。
「いいよ、……でも、苦手なのに、そういうのは考えちゃうんだね」
「むしろ、そういうの考えちゃうから苦手っていうか……っ」
「そうなの?」
「分かるでしょ?……私がそんな女の子っぽくないとこ」
確かに、ちょっと変かも。でも、だってどうしたってフツーの女の子みたいなののイメージは出てきちゃうし、私がそれに当てはまってないのも分かっちゃうし。運動部でもないのに運動とか筋トレとか好きなとことか、出てるほうが嬉しいとこも出てないとことか、お肉が好きすぎて一ポンドのステーキとか普通に平らげちゃうとことか。
「そんなことないと思うなぁ……。すっごくキレイだし、肌もつやつやだし髪もさらさらだし、羨ましくなっちゃう」
「もう……だからって撫ですぎ……っ」
「むぅ……、ダメ?」
「ダメじゃないけど……っ」
背中から、ポニテの結び目まで撫でまわしてくる。くすぐったいっていうか、頭がほわほわするっていうか。美咲のこと見てると、顔の奥が熱くなりすぎるから、目をそらしちゃう。
「それに、夏樹のかわいいとこ、いっぱい知ってるよ、わたし」
「そ、そう……?」
美咲のほうがかわいいのに。おっとりしてて優しいし、出るとこもおっきいし、顔も丸っこくて、身体もふわふわで落ち着くし、……女の子って感じ。さっき思いついたら、ちょっとくらいおかえしできたかな。
「……普段は周りを引っ張ってくれるのに、恋人のときはおしとやかなとことか」
「もう、からかわないで……?」
にやけてる顔が横目で見えて、ちょっとむっとする。……私には、ちょっといじわる。でも、イヤってわけじゃないの、自分でもよくわかんなくなる。
「ごめんね、……好きだもん」
「ぅ……、もう」
その言葉は、ずるい。だって、何も返せなくなる。顔、近づけてくる。何をしたいかないて最初からわかっちゃって、……逆らえるわけない。ほっぺに感じる、ふしっとしたぬくもり。一瞬で離れて、左手で頭のてっぺんを撫でてくる。そのまま、ほっぺのほうに下ろしてくる。こっち見てって、これだけじゃ足りないって、もっと私のこと欲しいって、肌に伝わる熱が言ってくる感じ。
「ねえ、……こっち向いて?」
「わかったから……」
耳元で感じる声、熱い。目の奥もほっぺの裏側も、体の奥が全部熱くなる。これからしてくること、分かってても、心の準備できるわけない。それなのに、体は勝手に受け入れてる。目を細めて、顔を軽く傾けて、唇をすぼませて、背中に手を回して。美咲も、右手も顔のほうに寄せて、頭の後ろ、撫でてくる。
「受け止めてくれるんだ、嬉しい……っ」
「ちょっ、美咲……っ」
にやけてるの、思い通りにされてる感じ。でも、イヤじゃなくて、むしろ、もっとされたい、みたいな。気持ちのまま、流されてく。
「……ちゅ」
「……んんっ」
一瞬なのに、心臓、止まりそう。目の前にある美咲の顔がぼんやりとする。甘いにおい、ふわってかおってくる。ふにっとしたぬくもりが触れる瞬間の、胸がきゅうってする感じ、まだ慣れない。
「……ん、……ちゅ、ちゅっ、は……、んむっ」
「ん……っ、ぁ、……ちゅ、……ぅ、は……」
同じように何度か触れ合わせてきて、こぼれる声、私のじゃないみたい。美咲と触れ合ってると、私が私じゃなくなってく。心の奥底にある何かが、考えよりも先にくる、みたいな。
「……るりぃ、ん、ちゅ、……ちゅぃ、……ふ、るぃ、……りゅぴ」
「……ぁ、……ね、……んっ、はぁ、……ぅ、りぃ、……ぁ、んくぅ」
そのまま唇を軽く舐めてきて、言われるままに、大人のキスまでされて。欲しがってくれるのが嬉しい、なんて、さっき美咲が言ってたことみたいなこと、私も思っちゃってる。優しいだけじゃないの、わかっててもゾクゾクして。頭の中までかき回されてるみたいに、しびれる。これ以上はだめなのに、離れちゃうと、さみしい、みたいな。
「はぁ……、夏樹、好き……っ」
「ん、はぁ、美咲ぃ……?」
美咲の顔も、とろけてるのわかる。かわいいのに、今日はかわいくない。っていうか、……えっち。力が抜けちゃって、くらくらしすぎて体で支えられない。……美咲だったら抱き留めてくれそうなのに、今日はそのまま。後ろ手で支えようとしてもできなくて、寝転がった体に、美咲が覆い被さってきて。ふわふわしてる体が当たってくる。よく見えないのに、にやけてるのは分かって、目だけ光ってるみたい。そのまま、顔を寄てきて。……これじゃ、まるで、……頭が気づく前に、身構えるように体がすくむ。体の奥が熱くなって、痛いくらい高鳴ってる。
「やっぱり、かわいい……っ」
「ちょ、ねぇ……っ」
そのまま、もう一回キスされる。すくむ体が、ふわふわとした体に受け止められる。身構えてる手が、顔を抑えようとして、不満げな声が返ってくる。
「ねえ、……だめ?」
「ダメだよ、こんなの……っ」
すぐ近くで、ガタンって大きな音が鳴って、思わず身がすくむ。その方を見けど、何が起きたかは見えない。
「わっ、何っ!?……ふぅ、マイク、落ちちゃっただけか……」
「そっか……、ならいいんだけど」
こんなとこ誰かに見られたら、絶対イヤだったし、それはいいんだけど……私が恋人になろうって言ったときより、顔赤くしてる。拾い直してくれてる間に、体を起こす。
「ごめん、さっきの……びっくりさせちゃったね」
「ううん、わかってるから……」
「……さすがにちょっと、お行儀悪すぎだったね」
声も、いつも通りの落ち着いた優しいのになる。室温に戻って、二人きりのセカイじゃなくなってく感じ、ちょっと、さみしい、かも。……なんて、何考えてるんだろう。
「もう、そんなの今更だって」
「そんなにかな……」
「最初かららキスしにきてるのに、お行儀もなにもないでしょ」
「そう言われると、なんか恥ずかしいね……っ」
ただでさえ、その、……不純な気持ち、満たしに来てるのに。心のどこかでは、いちゃつけるの期待しちゃってる。いつもみたいに抱き寄せてくる。照れ笑いも、かわいいのがずるい。えくぼなんか浮かべちゃって。……今日の美咲、いつもよりいじわる。でも、……そういうとこも、どうしようもなく、好きになっちゃってるんだ。おかしくなっちゃってるな、私も。
「いいよ、どうせもう、どこに出しても恥ずかしいバカップルだし」
「えへへ……っ」
どうしても聞こえちゃうノロケ話みたいなこと、美咲としちゃってる。そんなの、去年の私に言ったらどう思うんだろう。少なくとも、信じてはくれないだろうな。
「えへへ、じゃないよ……」
「何で?……好きな人が、好きでいてくれるって嬉しいのに」
「そうだけどさ、……美咲がこんな欲しがりなんて思わなかったもん」
「仕方ないじゃん、……心も体もつながりたいって思うの、変かな……」
うつむいて、恥ずかしそうにもじもじして。……美咲って、体の付き合いとかも、興味あるんだ。実感すると、体の奥、変な感じする。そういう気持ちから逃げてばっかりだったから、ちゃんとした答え、出せそうにないのに。
「……そんなわけ、ないと思うな。私もよくわかんないけど」
「夏樹は、どうなの……?わたしとえっちなことしたいとか、思う……?」
切なげに響く声が、熱くて痛い。すぐに思いつかなくて、さっきの夢みたいなことを思い返す。体の中にある知らないとこ、熱くて切なくなって、……思い返すだけで、体がうずいて、おかしくなる。こういうの、ムラムラするとかいうのかな。少なくとも、……ただ、イヤってわけじゃなかった。
「うん、……多分、だけど」
「そっか、……もっと慣れないとだね、恋人同士に」
「そう、だね……」
言葉をつなげられないまま、お互いうつむいて、ただ熱を感じてる。普段より熱っぽい吐息と、柔らかくて、触れたら解けそうな声、……あったかくて、落ち着くけど、落ち着かない。もっと深く抱かれて、ふわふわの髪がかかる。
「好きだよ、美咲」
「わたしも、……好きだよ、夏樹」
ほんのり赤い耳元に、甘い言葉をあげる。そのまま、同じ言葉で返してくれる。今は、これがちゃんとできる限界。だけど、……きっと、このままじゃいられなくなる。これだけじゃ、満たされなくなる。体の奥で、予感だけがくっきりと浮かんでる。




