美咲×夏樹一照れ隠された『めしあがれ』。(立成20年1月)
「夏樹ちゃんも知ってたんだね、あのカップルにおすすめってやつ」
「いいでしょ?……聞こえちゃうんだもん」
「恋バナ苦手だったのに、気になるようになっちゃったんだ」
「それは、……だってもう、他人事じゃなくなっちゃったし」
ちょっと拗ねたような声も、かわいい。でも、どうしても耳に入ってきちゃうのはわかる。どの子が誰に恋してるとか、デートのときに気になる新しいお店とか。恋人がいるような人じゃないと関係ない裏ワザみたいなものも、ノロケ話と一緒に入ってくる。
「だよね……、いろいろ教えてくる子もいるし」
「ほんと、みんなどこで見つけてくるんだろうね」
「わたし達が珍しかっただけで、みんな興味あるんだと思うよ?」
「まあ、それはそうかもだけど……」
……そういうのを聞いちゃうと、どうしても想像しちゃう。わたしも、夏樹ちゃんとそういうことするのかなって。ちゃんと知らないままだけど、興味だけは一人前に沸いてきて、そのことに、ほっぺが熱くなる。わたしも、……『お姉ちゃん』をしがちで忘れてたけど、……普通の女の子なとこあるんだなって。寒いからって言い訳したら、通じるかな。同じくらいの高さにあるはずの目線が、なんかうまく合わせらない。いちばんの友達でいたときは、何てことなくできてたのにね。
「でしょ?……わたしもだもん」
「まあ、そう、だよね……」
おやつの時間をちょっと過ぎたくらいで、冬でもまだお日さまが出てるような時間。まだ帰りたくないけど、どこに行きたいかって言われると迷っちゃうな。
「ねぇ、夏樹ちゃんはどこか行きたいとこある?」
「うーん……、ちょっと時間あるし、カラオケとか、どうかな?」
「わかった、いいよ?」
「ん、……じゃあ、近くにあるっぽいし、そこでいいよね」
地図アプリを見ながら、歯切れの悪い言葉がやってくる。さっきより、ほっぺ赤くなってるような。……でも、見間違いじゃなくても、なんとなく、理由分かっちゃうな。だって、わたしも、きっと同じこと思ってるから。夏樹ちゃんは寮住まいじゃないし、お互い土日もあんまり予定がつかないし。……学校じゃ、あんまりダイタンなこともできないし。
「えへへ、いいよ?」
「もう……何によによしてるの?」
「なんでもないよ?ほらほら、行こうよ」
思わず弾んだ声に、あきれたような声が帰ってくる。なんとなくだけど、その理由も気づかれちゃうかも。……いつもの夏樹ちゃんは引っ張ってくれるけど、恋人といるときは、なんとなく、引っ張られたいって思ってそうな。そういえば、女の子っぽところ、けっこうあるよな。持ち歩いてる絆創膏の柄がかわいいとこも、お肉いっぱい食べるから幻滅されちゃいそうとか思ってるとこも。そんなことふわって思ってたら、あっという間に着いちゃってる。
「二時間くらいあればいいかな……、門限、大丈夫だったよね?」
「うん、……こっからなら大丈夫かな」
「ならいいや、じゃあそれでお願いしまーす」
時計をちらっと見て、完全下校の時間と一緒だから、それくらいなら問題ないはず。手続きもさっと済ませちゃう。ワンドリンク制らしいからその時に店員さんは来ちゃうけど、それさえ済んだらあとは来ないはず、だよね。
「じゃ、行こっか」
「あ、うん」
渡されたマイクとか、さっと持ってくれるの、そういうとこがモテるんだろうなって。わたしは、個室に向かうだけでも、なんかそわそわしてる気分を隠すので精一杯なのに。……固くなっちゃってる声も、建物の中に入ってるのに赤いままの顔も、おんなじなんだって教えてくれる。
「……なんか、今更だけど、デートしてるって感じするね」
「そ、そう?……まあ、そう、だね」
個室の電気をつけても、明かりがほんのり暗いオレンジ色で、なんかそれも、ドキドキを膨らませてくる。……ちょっと想像しすぎちゃってるな、恋愛モノとか、あんまり観ないのに。
「……何入れよっかな、あんまり音楽聴かないしなぁ」
「動画とかはみるけど、料理のばっかりだもんね」
「まあ、知ってるの入れてこっか、せっかくだし」
「だね、カラオケもあんまり行かないし」
そう言って早速曲を入れてくから、わたしもリモコンのトップページにある知ってる曲を入れてく。ふたりでお出かけするときも行ったことないし、友達と行くときもそんなに多くないもんね。店員さんが部屋の中入ってくるのでもちょっとびっくりしちゃったり、最初は音量が大きすぎて慌てて下げたり、そんなのに二人して初めて来たみたいに戸惑っちゃう。わたしも曲を入れ終わって、夏樹ちゃんのほうにリモコンを滑らす。
「あんまり来ないから、ちょっとドキドキするね」
「えへへ、わたしもだなぁ」
一曲終わったけど、……夏樹ちゃんの声、パワフルだなぁ。お店のお手伝いとかで声は出してるとは思うけど、そのせいかな。わたしは、どうだろう。優しい声って思われてるんだろうなってイメージはあるけど、外からどう見えてるかなんて想像できない。
「美咲の声はやっぱり落ち着くなぁ」
「そうかな……、ありがとっ、夏樹ちゃんもパワフルで素敵だなぁ」
「そっか、……もう」
ほっぺ、赤くなっちゃってるな。たぶん、わたしも。うまく進んでるような、そうじゃないような、よくわからないけど、そのまま十周ずつくらい回ってくる。……ちゃんと歌えるくらい覚えてる曲もなくなっちゃったな。曲について考えるふりして、夏樹ちゃんのことばっかり考えちゃう。どうして、誘ってくれたのかな。恋人同士の内緒とか、興味あるのかな。……物足りないとか、思ってくれてるのかな。いちゃいちゃ、みたいなこと、……してみたり、したいのかな?ぬるくなりかけたココアじゃ、火照った頭を冷ましてくれないや。曲も終わっちゃって、コマーシャルみたいなのも始まっちゃう。
「……どうしたの?」
「うーん、何するか思いつかなくってさ……、夏樹ちゃんは、何かやってほしいのある?」
どうしたって、繋がる訊きかた。そのまま続けるでも、……心も二人きりになるでも。いじわるだな、わたし。
「困っちゃうな、……そんな風に言われたら」
ほっぺたが真っ赤になってるのを、横目で見る。飲み物を飲んで、……なんか、わたしたちが本当の恋人になったときみたい。音がしないようにスニーカーを脱いで、ソファーの上で女の子座りして体を向ける。目線、あんまり合わせてくれない。あたまの中が、『かわいい』で満たされる。自分で焦らしといて、じれったくなる。
「ねえ、……教えて?」
「わかるでしょ、もう……」
「ちゃんと、言葉で聞きたいな、だめ?」
「……ずるいよ」
最初から、なんとなくわかってるのに。ごめんね。でも、やめられない。……そういえば、あの時は夏樹ちゃんからだったな。だから、ちょっとくらい、お返ししちゃってもいいよね。
「ごめんね、だって、かわいいんだもん」
「んもう……、ね、美咲」
体も向き合ってくれるけど、それじゃあちょっと遠いな。そう思ってたのか靴を脱いで、私の体を脚で挟みこんでくる。すらっとした長い脚がスキニージーンズに映えて、きれい。
「美咲と、……ちゃんと、恋人らしいことしたい、……嫌かな」
「……最初からわかってたよ、ここに連れてきてくれた時から」
「ねえ、……ついてきてくれたってことはさ、……」
「わたしも一緒だよ、……夏樹ちゃんともっと近づきたいし、……一緒にドキドキしたい」
ふわって、目が明るくなったような気がする。少し見上げてくる目が、そのまま閉じてく。こんなとこ見たら、どうにかなっちゃいそう。でも、そのままキスなんてしたら、ドキドキしすぎておかしくなっちゃうな。
「そっか、……美咲もなんだね」
「……夏樹ちゃんがおんなじこと思ってくれてて、嬉しいな」
だから、最初は優しいふれあいから。頭の後ろに手を回して、髪を優しくなでる。触っただけでもわかるくらいさらさらで、ちょっと嫉妬しちゃいそう。薄目で見つめてくるの、かわいくてたまらない。でも、もうちょっと心の準備、し足りない。
「ん、ね……っ」
「……かわいいっ」
とろけたような声、たまらないな。こんなとこが見れるのなんて、きっとわたしだけ。でも、これだけじゃ足りない。髪から下に、手を下ろしてく。うなじのあたりで、甘い声が漏れる。
「ひゃ……っ、美咲……?」
「夏樹ちゃんがしたいって言ったんだよ……?」
「わかってるけど……っ」
そのまま、背中まで指を滑らす。すらっとしてるけど、ハリがあるのが服超しでもわかる。こんなにきれいなのに、わたし以外の人にはこういう風に触られたことないんだ。……なんか、いけない事してる気分。でも、そんな背徳感で止まれないくらいに、好きになっちゃってる。
「今更止まれないよ、……好きだもん」
「わかってるから……っ」
きゅうって身を縮こめて、もう一回、目を閉じてきて。やっぱり、恋人の前だと、急に女の子らしさが増えてくんだ。顔を近づけるだけで目を閉じちゃうの、わたしに、好きにしてって言ってくれてるみたい。
ぷにぷにのくちびるじゃなくて、すべすべなほっぺにくちづける。甘い吐息を耳元で感じて、もっと、欲しくなる。一旦離すと、ちゅ、って音が立つ。
「いい、よね……っ」
「ん、……」
わたしの声も、熱っぽくなる。服を握ってくるのも、くちびるをすばませてくるのも、かわいい。心の準備とかその前に、『すき』が目の前に来る。
「ん……ちゅ」
「……っ、は」
くちびる、ぷにぷにで柔らかい。痛いくらいドキドキして、体ごと熱くなって、それも全部気持ちいい。もっと、ちょうだい。言葉より先に、くちびるが動く。
「……ん、ちゅ、……ふ、はむ……っ」
「ん……、ぁ、……はぁ、んぅ……」
服を握ってくる手がきつくなってる。おびえてるのかな。でも、キスはそのまま受け止めてくれてて。いいのかダメなのかわかる前に、ドキドキがもう限界になる。息、全然落ち着かない。見つめてくる目が、ちょっととろけてる。
「……夏樹ちゃん」
「美咲……、あのさ」
声、ふわふわしたまま。服を握ってた手がゆるんでく。息がかかるくらい近く、まだ、胸の奥は痛いくらいドキドキしてる。
「なに?」
「私のこと、呼び捨てにして?ちゃん付けだって、撫でたりだって、他の人にもしてるでしょ?」
私だけ特別がいい。ギリギリで聞こえる、ちょっとすねたような声。体の奥、熱くてふわってなる。キュンってするって、きっと今みたいな事なんだ。
「もう……、焼きもちやいちゃって、かわいいっ」
「だめ……?」
「ううん、夏樹ちゃんで言い慣れてるから忘れちゃうかもだけど、頑張るね、……『夏樹』」
「美咲……っ」
服、またきつく握ってくる。声も表情も、もっと、とろけちゃってる。呼び方変えるだけなのに、こんなになっちゃうんだ。他の子にはちゃん付けなのに、わたしのことは『美咲』って呼んでくれるようになったの、いつからだったかな。今すぐは思い出せないや。
「えへへ、どうしたの?」
「自分で言っといてあれだけど、めっちゃゾクゾクする……」
「わたしも、キュンってしちゃった……っ」
「……でしょ?だからさ……」
なんか、距離がもっと近づいたような。友達だったときでも近かったのに、恋人同士になって、もっと近づいて、……でも、もっと先も、あったんだ。言いたいこと、分かったよ、……夏樹。まだ、心の中、くすぐったくて慣れないや。
「……もっと、特別になっちゃおっか、……夏樹」
「……うん」
こくんってうなづいて、また、目を閉じてくれる。さっきより、力抜けちゃってる。わたしの事、受け止めたいってことなんだ。もっと、触れたい。軽く目を閉じて、顔を寄せる。
「……ちゅ、……ちゅぃ、……ちろ、……るりぃ……っ」
「は、……ん、ぁ、はむ、……ん、……は、るぃ……」
触れあうキスの先、頭より先に、体が知っちゃってる。唇をなめると、同じようにして、先っぽが触れあう。最初はちょっと苦くて、その先は、甘くてきもちいい。
「……ちゅ、ちゅぴ、……れる、ん……、ぴちゅ、りゅぴぃ……」
「ふ、……ん、ぁ……、ちゅぅ、ぅ……、ぱぷぅ、んちゅ……」
そのまま、深く、優しく動かして、それに遠慮がちに応えてくれる。絡みあう音、めちゃくちゃえっち。ちょっとずつ、やり方がわかってきて、その分が『きもちいい』になっていく。
「ちゅぴぃ……っ、れるぅ……、りゅぷぅ、んちゅ、ぁ、……るぴぃっ」
「ん……っ、ねぇ、んにゅ、は、りゅぃ……、んく、はぁ、んん……っ」
想像以上に長くなっちゃって、息が続かなくなって離れる。荒い息のままな夏樹ちゃん。服、ぎゅってしたままなのは変わらないまま、目もうるんでとろけちゃってる。わたしも、息できなくなりそう、
「ごめん、ちょっとやりすぎちゃったかな」
「ううん、でも、……うれしいのに、さみしいっていうか、切ないっていうか……っ」
「ドキドキしすぎて、変になっちゃいそうだね……」
「たぶん、そうかも……」
カラオケボックスは、いちゃいちゃしたいカップルの秘密基地。そんな言い伝え、わたしたちには関係ないと思っててたのにな。いつの間にオトナなキスまでしちゃってて。……もっと先のいけないことにも、興味出ちゃうかも。そうなった先を考える余裕は、まだないや。
「えへへ、……ゆっくり、慣れてかないとだね」
「……むぅ、によによしてる美咲、なんかやらしい」
また、すねたような声。じとってした目も、かわいい。我慢できなくなっちゃいそうだな。
「そうかな……?」
「そうだよ、……嫌じゃ、ないけど」
「次デートするときも、またする?」
「それはちょっと、考えさせて……っ」
赤くなったほっぺも、困ったような、とろけたようなとこも、初めて。デートのたびにこんなことしてたら、ドキドキしすぎて心臓が止まっちゃうな。でも、……それよりもずっと、したいって思っちゃってる。
今更みたく、カラオケマシンから流れてくる音が聞こえる。二人きりの世界に入り込んでたんだな、わたし。『すき』に気づいてから、その気持ちに素直になってから、わたしも、……夏樹の前だと、いつものわたしじゃなくなってる。




