エピローグ
佐藤太一は当然のことながら逮捕された。強盗殺人、不法侵入、覚せい剤の所持・譲渡などなど梨慧さんが喜びそうな単語のオンパレードで、刑期はそうとう長そうである。彼の潜伏先を突き止めた連太郎と、彼の逮捕に一役買ったわたしには、お父さんから警視総監賞を貰わないかと誘われたが、不法侵入しているため却下した。
そして京介さんも逮捕ということになった。刑期のほどはわからないけれど、彼の置かれていた状況が状況だったこともあり、そんなに長くはないと思う、とお父さんは言っていた。
酉山商事と赤野組は銃の密輸と売買で、警察に一斉摘発されることになった。密輸に関与していたのは酉山商事のお偉いさん方だけで、下っ端の方々はそれと知らなかったらしい。
今回の事件の舞台となった廃屋敷は取り壊されることになった。神崎家の方々は屋敷の存在をすっかり忘れていたらしい。固定資産税払ってるでしょ? 前住んでた家を普通忘れる? と言いたいが忘れていたらしい。廃屋敷は取り壊して、土地を売りに出すそうな。
わたしたちはあの後、佐畑さんに謝りに行った。梨慧さんはすごい嫌がってたけど、無理やり引っ張ってきた。坂祝は関係ないはずだけど、やっぱり一緒に謝ってくれた。
佐畑さんは殺人事件の犯人が潜伏していたことにたいそう驚き、わたしたちを簡単に許してくれた。
曰わく、「もともとあそこは私の家じゃないしね」。……本当にいい人だと思った。
木相先輩はというと、最初こそ非常につらそうだったが、ゴールデンウイークが明けたころには浜町先輩とともに石を探していた。空元気かもしれないけれど、それは安心できる光景だった。
一度に三つ(一つは間接的に)の事件を解決するという所業をやってのけた連太郎は、しかし酷い落ち込みようだった。それは当事者に等しい木相先輩よりも、深く落ち込んでいたくらいだった。あれから色々考えてみたけれど、連太郎にできた最善の手はやっぱり事件を解決することだったと思う。
そんな連太郎も徐々に調子を取り戻し、ゴールデンウイークを過ぎてしばらく経ったときには、もうすっかりもとに戻っていた。
そして、高校入学から一ヶ月も経たないうちにあんな大事件に巻き込まれ、それどころか犯人をひっ捕らえた文学少女を志すわたしはというと……、
「はぁ……」
図書室のカウンターで無理して小説を読んでいたわたしは、活字から目を離して天井を仰いだ。
「先輩……一つ訊いていいですか?」
わたしは隣に座って四字熟語辞典を読む彩坂先輩を見た。
「何でしょうか?」
「活字ってどうやって読むんですか?」
自分でも頭の悪過ぎる質問だな、と思うだけあって、彩坂先輩は困惑の表情を浮かべた。
「ええと……どう、と言われましても……上から下に……読み切ったら左に……」
「すみません。当たり前のことを訊いてしまって」
文学少女に近づくために小説を読むことにしたのだ。情報量が多いミステリー小説やアクション小説は難しいので、何にも考えられずに読めるベタベタな恋愛小説を楓に紹介してもらった。
本当にベタで、読んでいてこちらが恥ずかしくなってくる。冴えない女子校生が不良に絡まれて、イケメンに助けられるという、楓が好きそうな小説だ。
活字を見ていると頭がぐるぐる回ってパンクしそうになるから、一ページ読むのに五分掛かる。ぶっちゃっけ言って時間の無駄だ。諦めて小説をバッグにしまう。やっぱりわたしは漫画しか読めないのか、という考えがよぎる。そして、まあそれでもいいけど、と思う自分もいる。
駄目だなぁ……わたし……。
そんな溜息を吐くと、いきなり図書室の扉が開いた。
入ってきたのはヨーヨー部の荒木先輩だった。後ろに他の部員たちもいる。
「いきなりで悪いが、アリバイを訊きたい」
何か、既視感のある光景だなー……。
「どうかしたんですか?」
彩坂先輩が尋ねる。
「実は俺たちが部室を出ている八分の間に、部室にヨーヨーが四個ほど盗まれてな。渡り廊下の前には漫才同好会の二人が、階段の前には奇術部の部員がいて、そいつらは誰も来ていないし出て行ってもいないと言っている」
頭を抱えた。……あの廃屋敷の事件で、『探偵体質』のエネルギーをすべて消費したんじゃないかという淡い期待をしていたが、そういうわけでもないらしい。
文学少女って……こんなに謎や事件に遭遇するものなのかなあ? なわけないわよね。わたし、文学少女になれるのだろうか。少なくとも殺人犯に背負い投げをかますうちは無理だろう。しかしわたしは諦めない。いつか絶対、小説を読めるようになってみせる(目的変わってないかとは言わないで)!
思いを再確認しつつ、わたしは連太郎を呼び出すメールを打つのだった。
ここまでお読みしてくださった読者の方々、ありがとうございます。本作は初めての長編でしたので、至らない点が多々あると思いますが、ご容赦ください。
真相がすごいわかりやすかったかなとか、真相が真相だけに最後無理やり爽やかにした感じするなとか、解決編のテンポがあっさりしてるなとか、自分でも色々思うところはありますけれど、あそこからものすごく爽やかに終わったらそれはそれで違和感があるので、このくらいでいいかなとも思っています。
この作品は色んな青春ミステリから影響を受けていまして、主に『〈古典部〉シリーズ』、『〈ハルチカ〉シリーズ』、『市立高校シリーズ』から強すぎるくらいの影響を受けています。
自分は日常の謎かと思っていたら実は非日常だった、というパターンの話が好きなので、今作にはそれを盛り込みました。前三つの謎との落差がすごいなあ、と自分でも思ってます。
今作は〈颶風〉シリーズと題して、短編並みの文量の話を来月辺りに書こうかと思っています。たぶん。きっと。できれば。
以下どうでもいい補足(本当にどうでもいいです)。
『漫才同好会のパロディの元ネタ』
ロッテンマイヤーさんかよ!
言わずと知れた有名アニメ『アルプスの少女ハイジ』に登場する召使い。おそらく一番わかりやすいネタ。
レッドキングに立ち向かうピグモンかよ!
言わずと知れた有名作品『ウルトラマン』の第八話、怪獣無法地帯の一幕。
捕食中のクリオネかよ!
流氷の天使と言われているが、捕食の仕方は非常にグロい。作者の友だちがトラウマになってしまった。
故郷は地球だろ!
『ウルトラマン』第二十三話のサブタイトル。登場する怪獣ジャミラは元地球人。私的ウルトラシリーズの四大問題作の一つ。ちなみに他三つは『超兵器R1号』、『ノンマルトの使者』、『怪獣使いと少年』(いずれも単純な勧善懲悪ではない。それどころか人間側が加害者になりゆる)。似たサブタイルトルに『ウルトラマンメビウス』の三十四話『故郷のない男』がある。こちらは非常に熱い。
せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ、だろ
クソゲーの帝王として愛されているセガサターンのゲームソフト『デスクリムゾン』の主人公、コンバット越前の名台詞。何がせっかくなのかもわからないし、そもそも扉は赤ではない。更に言うと、この台詞が発せられたとき、画面には扉は一つしか映っていないので、選ぶもくそもない。
お前の身体は健康だあああ、の方がいいと思う
作者が大好きなカオスなアニメ『人造昆虫カブトボーグV×V』の二十一話にて、主人公リュウセイが親友の勝治に向けて放った台詞。台詞だけではシチュエーションがまったくわからないのが特徴。おそらく読者様が予想だにしないシチュエーションである。
センター前キャッチャーゴロかよ
有名野球漫画『MAJOR』のゲーム『 メジャー Wii パーフェクトクローザー』のバグで起こる珍現象。しかしこのゲームでは、そんなことは大したことではない。




