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【3巻8/2】嫌われ妻は、英雄将軍と離婚したい!いきなり帰ってきて溺愛なんて信じません。  作者: 柊 一葉
恋する妻は悩みが尽きない

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妻の知らないところで夫が××してるらしい。

 その日、私は仕事帰りにメルージェの部屋へ向かっていた。

 朝からメルージェの様子がおかしくて、何か私に言いたいことでもあるんじゃないかって思えたから。


 アルノーも違和感を抱いていたらしく、三人で夕食でも……ということになり、美しい木々を横目に城内を歩いている。


 ジャックスさんは少し後ろをついてきていて、まったく威圧感のない平凡な彼は完全に私たちに馴染んでいた。


 アルノーともすっかり仲良くなって、最近ではお友だちのような空気を醸し出している。


「今の時期だと、食堂に新鮮な魚が入っているかもな~。素揚げした紅玉魚に甘いタレを絡めたヤツ、うまいよね」


 あまり食堂を利用せず、手軽に食べられるパンやスープばかり好むアルノーだが、魚は好きだった。紅玉魚は目が宝石みたいに赤い白身魚で、身がぷりぷりしていてとてもおいしい。


 でも私はちょっと体重が気になるので、最近は控えめな食事内容に変えていた。


「結婚式までは、なるべく油物は控えるわ。紅玉魚……おいしいけれどやめておく」


 泣く泣く諦めた私を見て、メルージェが慰めてくれる。


「そんなに太っていないわよ。元が痩せすぎだったんだから、今ぐらいがちょうどいいわよ」


 と言いつつも、私の腕をむにむにするのはやめて欲しい。


「ううっ、でもダメなの。ドレスの腰回りだけはもう変更がきかないの!もうこの時期になると美醜の問題じゃなくて、お針子さんたちへの配慮なのよ……」


 メルージェは苦笑いだった。

 ただでさえ、短期間でドレスを縫ってもらっているのだ。

 この状況で「太りすぎましたのでもう一度糸を解いてください」とは絶対に言えない……!




 寮の一階へ到着すると、メルージェは階段の手前で足を止める。


「私は一度部屋に戻るから、先に食堂へ向かっていて?」


 にこやかに手を上げて、階段を上っていった。

 食堂は1階にあるので、私とアルノーはそのまま直進する。ジャックスさんはいつの間にか前にいて、扉を開けてくれるつもりらしい。


 気づかぬうちにさりげなく立ち位置を変える身のこなしは、やはり護衛の騎士なんだなと思った。


 メルージェと分かれたことで、私は気になっていたことを切り出した。


「元気そうだけれど、何かおかしいよね」


 隣のアルノーをちらりと見ると、彼も頷いた。


「うーん、俺とジャックスさんがいない方がいいのかもなー。女同士の方が話しやすいこともあるだろうし。あぁ、おかしいといえばさ、最近やたらと騎士に会うんだけれどソアリス何かあったの?」


「え?私?」


 確かに、騎士が多いなとは思っていた。けれど、私が何かしたっていうのは心外だ。


「特務隊の人たちがやたらと王女宮の周りにいるよね。あれってソアリスが逃げないように見張ってるの?それとも外から襲撃でもされるわけ?」


「なんで私が逃げるのよ。それに外から襲撃って、私を狙って相手に何の利益があるの?」


「ないよね。将軍の妻なんて狙うだけ悪手だし、ソアリスが個人的に恨みを買ってるとは思えないし」


「一応、目立たず出しゃばらず、平凡に生きてきたんだけれど……」


 アレンが帰って来るまでは、私なんて誰の目にも止まらない金庫番だった。今何かあるとしたら、アレンが絡んでいると見て間違いないだろう。


「ま、いいんじゃない?王女宮の警備が手厚くなったと思えばそれで。陛下の寝室くらい安全かもよ、今の俺たちの職場は」


 食堂に着くと、すでに十人以上の文官や騎士がいた。

 皆それぞれに座って食事をしていて、窓際の四人掛けのテーブルが空いていたので私たちはそこへ陣取る。


 メルージェが来たらカウンターで注文をして、一緒に食べようと思っていた。


 けれど、待っても待ってもメルージェが部屋から降りてこない。


 てっきり十分程度でやってくると思っていたのに。


「ソアリス、ちょっと見て来てくれない?」


「わかった」


 アルノーは男性だから、上階へは行けない。私は彼を残して食堂を出て、歩き慣れた階段を上がっていく。


「あの、ジャックスさんも来るつもりですか?」


 気づけば当然のように背後にいる。


「ええ、護衛ですから」


「でも、ここからは男性の立ち入りは認められていません」


 さすがに規則を破るのは、と思ったけれど、ジャックスさんは笑顔で言った。


「ソアリス様を一人で行かせるわけにはいかないんです。俺、護衛なんで。もしもメルージェ様の部屋で不測の事態が起きたとき、おそばにいなくては守れません」


「それはそうですよね」


 誰かに叱られたら、そのときに考えればいいか。

 まったく引くつもりがなさそうだったので、私はジャックスさんと一緒に階段を上がって行った。


 すれ違う文官の女性たちの視線が……と心配していたけれど、護衛騎士を連れて歩く私の立場がどういうものか、皆よく理解しているらしく、むしろ「大変ですね」みたいな憐みの目を向けられた。


 皆さんとても優しい人たちだった。


 メルージェの部屋に着くと、私はいつもどおり軽くノックをする。


 ーーコンコン。


「メルージェ?遅いから迎えに来たんだけれど、どうかしたの?」


 中からは何の音もしない。

 人がいる気配がなく、私は困ってしまった。


「どこかへ出かけたのかしら。でもそれなら一言声をかけてから行くわよね」


 胸騒ぎがする。

 どうしようか、と悩んでいると、ジャックスさんが当然のようにドアノブを握り、根本からそれをゴキッと折ってしまった。


「っ!?」


「開きました~」


 何やってるの!?

 何で扉を壊しているの!?


 絶句する私に、ジャックスさんは笑顔を向ける。


「中で倒れていたら大変ですから」


「……入ります」


 あとで話し合いは必要だとして、今はもう開けちゃったから入るしかない。


 けれど私が入る前に、ジャックスさんが先に部屋に踏み込んだ。

 もしかして第三者がいたら、って警戒してる?そんなに危険な状況があり得るのか、とちょっと怖くなってきた。


「メルージェ様~?」

「メルージェ!」


 しんと静まり返った部屋は、何一つ乱れてもおらず、ただ部屋の主が留守なだけ。


 書机の上には数枚の手紙と本、椅子にはガウンが掛けてあった。


「いないわね」


 戻ってアルノーに知らせなきゃ、そう思っていると、ジャックスさんが容赦なくメルージェの机の上にあった手紙を開く。


「ちょっと!?」


 勝手に人の手紙を、と咎めるより前に、ジャックスさんがそれを持って私のところへ近づいてきた。


「ダグラスからです。ソアリス様を連れて、海岸沿いの倉庫まで来いと……」


 私は、その手紙を奪うようにして凝視する。


「なんで私なの?ダグラス様と私はあまり面識もないのに」


 詳しいことは書かれていなかった。もしかして、ほかにも手紙があったのか、それとも直接会って話をしたのか。


「頼むから助けてくれ、ってどういうことなのかしら」


 とにかく、ダグラス様が必死なことは伝わってきた。

 まさか、私を誰かに引き渡せばダグラス様が助かるの?それでメルージェに、私を連れてこいと?


「しかもこれって、今日じゃないの!メルージェは一人で行ったの……?」


 どうして言ってくれなかったのか。


「メルージェのためなら、私は断らなかったのに」


 うろたえる私の隣で、ジャックスさんはいつも通りの声音で言った。


「だからじゃないですか?話せば、ソアリス様は絶対に一緒に来てくれるから。だから言わなかったんじゃ」


「そんな!」


 今すぐメルージェのところへ行かなきゃ。

 まさかダグラス様がメルージェに何かするとも思えないけれど、心配だから放ってはおけない。


 けれど、飛び出そうとした私の腕をジャックスさんが掴む。


「ダメですよっ!アレン様に叱られます!危ないことに首突っ込んだらダメです!」


 私は必死でそれを振り払おうとする。


「離してください!メルージェに何かあったらどうするんですか!!私は行きます!それに、私に手紙を見せたのジャックスさんですよ!」


 場所だってわかってるんだから、今から走ればメルージェに追いつくかも。


「すみません!何も考えずに見せてしまいました!!でもダメです、城内と邸以外の場所へは行かないでください!」


「そんな!この倉庫に入る前に止められれば、何とかなりますよね!?メルージェを連れ戻したいんです!」


「海沿いの倉庫なんて、何棟あると思っているんですか!?百はくだらないですよ!?お願いですから、アレン様が事態を収めるまでここで待っててください!」


 その言葉に、私はピタリと動きを止めた。


「どうしてここでアレンが出てくるの?」


 探るように見つめると、ジャックスさんは「しまった」という風に気まずそうな顔になり、ふいっと目を逸らした。


「アレンはこのこと知っているの?どうして?メルージェが私の親友でも、そこまで把握しているのはおかしいんじゃない?」


「えーっと、色々と事情がありまして」


「色々って何ですか?」


「まぁ、祭り?的な」


 祭りって何?

 収穫祭はまだ先だわ。そろそろ開かれる精霊祭りは、祭りって名前がついてるだけで家族でお祈りするだけだし……。


「ジャックスさんは何を、どこまでご存知なんです?」


 じりじりと詰め寄る私。

 逃げ腰のジャックスさん。


「俺はただ奥様を城と邸のほかへは行かせるなとしか聞いてなくて……!おまえは顔に出るから、ってルードさんから何も聞かされていません。とにかく奥様から離れるな、と」


 しかしここで、まさかの味方がやってきた。


「あぁ、ソアリス様、こちらにいらっしゃいましたか」


 騎士服のユンさんが、壊れて開きっぱなしの扉から現れた。アルノーも一緒だ。


「うわっ、何これ。壊したの?」


 穴の開いた扉を見て、アルノーが口元を引きつらせる。


「アルノー!メルージェがダグラス様に呼び出されて……!」


「はぁ!?」


 すでに握りつぶしてグシャグシャの手紙。私はそれをアルノーに見せる。


「行かないと……!」


 すぐに飛び出そうとするアルノー。しかしここで、ユンさんが笑顔で提案した。


「では、皆で参りましょう。私はそもそもそこへ向かうつもりで、ソアリス様をお迎えに来たんです」


「え?」


 あれほどジャックスさんは渋っていたのに、迎えに来たってどういうこと?


 首を傾げる私に対し、ユンさんは妖艶な笑みを浮かべて言った。


「きっとこれから起こる血祭りで、アレン様がとても素敵に見えるはずです。ですので、ぜひご覧になった方がいいかと」


「「血祭りって何!?」」


 ぎょっと目を見開く私とアルノー。

 ジャックスさんは苦笑いしている。


「説明は、馬車の中で」


 ユンさんはそう言うと、私たちに部屋から出るよう促がした。


「いやいやいや、ダメですよ。ソアリス様は絶対城内から出すなって言われています」


 ジャックスさんが慌てて止めに入るが、この二人だとユンさんの方が立場が上らしく、結局はジャックスさんが押し切られた。


「どうせ安全なんだから、いいじゃない。アレン様とルード様がいれば、ソアリス様に危険はないわ。私たちもいるんだから」


「ですが、アルノーさんは誰が守るんですか?」


 私の安全を第一優先にするからには、アルノーが危険になってしまう。

 だがこれは、本人があっさり大丈夫だと告げた。


「俺はすぐ逃げますから!お気遣いなく!」


 さすが自称・最弱文官。

 それでいてついてくると言い張るのは、メルージェが心配なんだろう。


「さぁ、お早く。馬車は用意しています」


「はい!」


 私たちは足早に寮を出て、騎士団の敷地内に停めていた馬車に乗り込んだ。

















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― 新着の感想 ―
[一言] 友を案じて焦るのは解る……から、まずは夫に相談しましょう。 自分でどうにかしようと現場に向かうのは駄目です(*´ω`*) 何ならその辺歩いてるor王女宮の旦那の部下をパシりなさい。 文官の女…
[一言] 騎士「祭りだ!祭りだ!血祭りだ!!ワッショイ!ワッショイ!!ワッショイ!!!」 おくたま「意味がわからん…」 騎士道とは修羅道よ……(笑)
[一言] 祭りだ、(∩´∀`)∩祭りだ(∩´∀`)∩ 浮気者、不誠実な彼の血(飛沫の)花火があがるぞぉ!
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