番外編ss「パンツの日だそうです」
◆◆アレン様がなかなか残念な感じになっていますので、読むか読まないかはご自身でご判断くださいませ◆◆
騎士団の執務棟にある一室で、英雄と称される将軍が一段と険しい顔つきになっていた。
「ルード」
「はい、何ですか?」
「今日は8月2日で、パンツの日らしい」
「…………真剣な顔で言うことがそれですか?」
補佐官はじとりとした目で、アレンディオを見る。
(いやいやもう8月2日でパンツの日とか言い出したら、もう設定とか言語とかむちゃくちゃになりますが)
ルードの心の声を察知したアレンディオは、すかさず弁解する。
「番外編は何をやってもいいと認識している。つまりは、パンツの日という語呂わせにのっとり、妻に下着を贈っても許されると俺は認識している」
「今すぐヒーローの設定を返上しろ。タイトルを痴態将軍に変更しろ」
「なっ!?好きでヒーローなんてやってるわけじゃない!そもそも、好きで10年も愛する妻と離れたわけではない!いいかげん、進展があってもいいだろう、健全な男であればこの状況は発狂するぞ!少しくらい報いがあってもいいはずだ!!」
「報いがパンツですか?いろんな意味で悲惨な末路が予測できますが」
「…………」
執務室に沈黙が落ちる。
しばらくして咳払いを一つしたアレンディオは、すべてをなかったことにして話を続けた。
「妻に下着を贈るというのは、どう思う……?」
「現在のお二人の関係性から考えると、やめておいた方がいいかと」
「そうか、やはりそうか……」
重苦しい空気を発するアレンディオ。
死の淵にいるようなその顔を見て、ルードは思った。
これは用意していたな、と。
「奥様がご自分で用意して、『見てほしい』と言われたならともかくとして、アレン様が贈るのはもう卑猥な感じしかしません」
「失礼だな。卑猥なんてものは人類が持つ姿の一部に過ぎない」
「それ何の理由にもなりませんよ」
「……はぁ」
哀れみの目を向ける補佐官を前に、アレンディオは諦めて仕事に励もうとした。
ーーコンコン。
「ユンです。報告書と警備計画書をお持ちしました」
「入れ」
騎士服のユンリエッタは、いつものように入室する。
ーードサッ……。
山積みの書類の上に、さらに新しい書類が積み上がる。
「パンツうんぬんの前に、これを片付けないと今日は邸に帰れませんよ」
「わかってる」
舌打ちをするアレンディオ。
それを見たユンリエッタは、小首を傾げた。
「パンツ、ですか?」
「はい、パンツの日だそうです」
ユンリエッタの疑問に、ルードが笑って答えた。
「奥様にパンツを贈ると嫌われるかどうか、でお悩みです」
「まぁ!しょうもない」
目を丸くするユンリエッタ。
アレンディオは、その手に持っているペンをぐっと握りしめて感情を堪える。
「私たちは今朝、使用人たちやソアリス様とパンツを贈り合いしましたよ?女性同士で、贈り合うのも流行っていますので」
「「!?」」
「私はさっそく履いてますが、見ます?」
「「見るか!!」」
ユンリエッタは不満げに目を細めた。
ただの布切れに何をそこまで、と言いたげである。
「アレン様も早く帰って、ソアリス様に見せてもらえばよろしいのでは?」
2人は思った。
うちのユンリエッタがおかしい、と。
ルードはため息をつき、アレンディオの書類を仕分け始める。
「ルード?」
「今日やらなくてはいけないのは、この山までです。他は明日でも構いませんから、これは処理して早く帰ってください。パンツは無理でも、お茶くらいソアリス様と一緒になさればよろしいかと」
「わかった、やり遂げよう」
必死で書類に目を通すアレンディオ。
あとは、決裁の済んだ書類を文官が各所に持っていけばいいだけだ。
「アレン様、後はよしなに。私はユンさんを連れて帰りますから」
「あぁ、そうしてくれ」
本来であれば、ルードは今日は休暇日だ。とはいえ、もう2か月以上も休みらしい休みを取っていないので、本人もまわりも忘れかけていたのだがーーーー
「では、行きましょうか」
「はい?私はこの後、訓練が」
「ユンさんも休暇でしょう?必須の訓練でないなら、休んでいいですよね」
「まぁ、そうですが」
そう言い終わる前に、ルードはユンリエッタをひょいと肩に担ぐ。
「ちょっ!?何を!?」
「あなたは色々と再教育が必要です。上官に向かってパンツを見るか、などとんでもないセクハラ事案ですよ!」
「私だってお二人にしか言いませんよ!」
「アレン様が入っているのが問題なのです」
そういえばそうか、とユンリエッタは納得する。
「それに、ご存知ですか?布切れよりも本体の方がずっとそそられます。ご留意を」
「は、それは」
人好きのする温和な顔つきのルードは、さらに笑みを深めた。
「さぁ、今日は休暇ですからねぇ。有意義に過ごしたいですね」
その目はまったく笑っていない。
ユンリエッタはすべてを悟った。今日は一歩も部屋から出られない、と。
ーーパタン……。
執務室には、1人黙々と仕事を進めるアレンディオ。
すっかり冷めた紅茶を一口飲んだとき、ふと疑問が湧く。
(ルードに比べたら、俺はまともなのでは……?)
散々、逃げ回っていたわりに、再婚約を交わした途端に半同棲どころか欲を隠そうともしない部下はアレンディオには理解できない存在だった。
(ソアリスには、菓子をみやげに買って帰ろう。警戒心の強い妻は、ゆっくりと囲い込まなくては……。極限まで甘やかして、優しくして、俺なしでは生きていけないようにしたい)
アレンディオの我慢はまだまだ続くーーーー
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