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【3巻8/2】嫌われ妻は、英雄将軍と離婚したい!いきなり帰ってきて溺愛なんて信じません。  作者: 柊 一葉
嫌われ妻は離婚したい

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英雄将軍は遠い存在でいられない【前】

 それはそうと、ルードさんという補佐官が迎えに来てくれるまで、私はおとなしくしているしかない。


 受付で「将軍の妻が来ました」と告げなければいけないので自分で行こうとしたら、ユンさんにものすごく止められた。


 将軍の妻が自分で受付をしてはいけないらしい。

 混雑しているなら、人をさばくの手伝おうか?くらい思う私だったのに、優雅にお茶を飲んで待っているのが正解だなんて落ち着かない。


 でもアレンディオ様は戦で最も活躍した将軍だから、その妻はすべて人に世話をされないともてなす側の落ち度になるそうで……

 平凡顔の妻は堂々と暇を持てあまさなければいけないのだ。


「では、ここでお待ちください」


 ユンさんと入れ替わりに、給仕スタッフがシャンパンらしきグラスをくれる。

 白い椅子に座り、誰もいない6人がけのテーブルで一人それを優雅にいただく。


 うん、緊張しすぎて味が全然しない!


 早く誰か来てくれないかな……。


 待つこと数分、二十人ほどの女性たちが周囲のテーブルにいるのを横目に見ていると、茶色い髪の優しそうな男性がキョロキョロと誰かを探しているのが見えた。


 アレンディオ様から、ルードさんは紺色の式典用の軍服で迎えに来てくれると聞いているので、多分あの人がルードさんだろう。中性的な顔で、華奢な男性だった。アレンディオ様と年齢は同じくらいか。


 はいはい、ここでーすって言えたらいいんだけれど、悲しいかなまたもや将軍の妻というステータスが邪魔をする。


 ルードさんらしき人は、表向きは平静を装っているけれど、そのオーラは困っていた。美人に声をかけようとするけれど、装いや年齢から「違うな」ってなっている。


 あぁ、さてはあなた「将軍の妻は美人」って思い込んでいますね!?

 私のような平凡顔がまさか探している人だとは思ってもいないだろうな。


 申し訳なさ過ぎて居たたまれない。

 私のことを見つけられないその姿は、何だかかわいそうに思えてきた。


「奥様、お待たせしました。ルード様は……って、あんなところに」


 しまった。

 ユンさんが戻って来てしまった。ルードさんと面識があるらしい。

 じぃっと彼女が見つめていると、それに気づいたルードさんがホッとした表情でこちらに歩いてきた。


「遅くなり申し訳ございません。お待たせしてしまいました」


「いえ、今来たばかりですので大丈夫です。こちらこそ、お役目の途中でしょうに案内をしていただけるとのこと、とても感謝しています」


 ルードさん、できるわ。

「これが将軍の妻?」って顔に出していないもの。

 じっくり観察されている感じはあるけれど、笑顔はしっかり貼り付けている。


「補佐官のルードと申します。今後は伯爵家でも勤めることになっていますので、どうかお見知りおきを」


「はい。アレン様から伺っています。どうかよろしくお願いいたします」


 社交辞令の挨拶を交わし、貞淑な妻を装った。


 ユンさんは私をルードさんに引き渡すと笑顔で見送ってくれて、しばらくの間お別れだ。

 私も笑顔で手を振り、パレードの終着地点の広場へ向かう。


「すごい人ですね。普段は職場と寮の往復で、こんなに人がいるのは初めてです」


「そうですか。パレードが始まると、もっと人が増えますよ」


「もっと?本当にすごい催しなんですね」


 圧倒されていると、ルードさんが笑って言った。


「今日の主役はアレン将軍ですからね。奥様にかっこいいところを見せたいって、柄にもなく緊張してらっしゃいましたよ」


「ふふ、まさか」


「普段はこういう形式的なイベントには出たがらないんですが、奥様が見に来てくれるとなったら出る気になったようで」


「あら、主役がいなくてどうするのです?」


「そうなんです。奥様のおかげで、アレン様を引きずり出す手間が省けました。愛の力って偉大ですね!」


 お世辞がうまい人だな。

 口が達者というか気配りができるタイプみたい。明るい笑顔が印象的で、軍人なのに威圧感がない。アレンディオ様の隣に立つには、ぴったりの人だなと思った。


「ルードさんがいてくださってよかったです。きれいな人ばかりで、自分が場違いに思えて……とても緊張していたの」


 ふっと笑みが零れた。

 お上品に取り繕いたかったけれど、ルードさんがおもいのほか話しやすい人で気が緩んでしまった。


 すると彼は少し目を瞠り、「あぁなるほど」と小さな声で呟く。


「どうかしましたか?」


「いえ、ただ」


 ルードさんはうれしそうに言った。


「素敵な奥様だなと思いまして」


「え?」


 どのあたりが?

 首を傾げると、彼も幾分か緩んだ表情になる。


「一緒にいて安らぐというか、裏表のない信頼できる人だなとお見受けしたのです」


「信頼?会ったばかりなのに」


 ルードさんはニコッと笑って、それ以上は教えてくれなさそうだった。


 信頼できるって言われて嫌な気はしないけれど、そんなに簡単に人を信じちゃだめだと思うのよね。


 観覧席に近づいたとき、私はルードさんに耳打ちした。


「壺や骨とう品の類は、いずれ高く売れるからって言われても買ってはいけませんよ?あと、絶世の美女よりやや不美人の方が美人局(つつもたせ)である可能性が高いです」


 彼は「え?」と驚いていたけれど、すぐにぷっと噴き出し「ありがとうございます。気を付けます」と言った。














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― 新着の感想 ―
[良い点] ソアリス有能&気配り上手! 美人よりやや不美人の方が美人局が多いって、なるほど男が緊張しないで上から接しやすい方がハマりやすいわけか…。こういう細かい部分でリアルな描写って作品の厚みになる…
[良い点] 仕事する女性らしい描写ですね(^_-) 知り合いも混んでるレジを見ると自分がさばきたくなると言います。 彼女はベテランで自他共認める早打ちのレジ職人です。 [気になる点] ルードさんの心配…
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