番外編SS 特に何ということもない話
とある夜、アレンディオは部下たちを執務室に集めた。
その表情は真剣そのもの。
何かとんでもない問題が起こったのだ、と集まった面々はごくりと唾を飲み込む。
「よく来てくれたな。これより重大な案件を議論する」
アレンディオの声は、いつもに増してよく響いた。
高まる緊張感。
いつもはのほほんとした空気を放っているジャックスでさえ、隣に立つノーファと同じくらい真剣に耳を傾ける。
ユンリエッタも、ルードでさえも、アレンディオの言葉の続きを神妙な面持ちで待った。
「書籍特典SSのネタがない」
「「「「………………」」」」
しんと静まり返った室内で、時計の針が動く音だけがやけに大きく聞こえる。
最初に口を開いたのは、スッと右手を上げたユンリエッタだった。
「それは全年齢ですか?」
「当たり前だ」
「では、わたくしに出せる案はございません」
「諦めが早い」
何事もなかったかのように、素早く手を下ろすユンリエッタ。
その表情は「あとは皆様で相談を」と丸投げする気満々の澄ました無表情だった。
「あのー、俺あんまりわかってないんすけど、1巻って俺とノーファは出てないから関係ないんじゃ?」
ジャックスから指摘を受け、アレンディオはカッと目を見開いて叱責する。
「おまえっ……!1巻に出てるからな!?」
「どこに!?」
「第32話!俺がこの部屋でソアリスに改めて告白したとき、ノックもせずに俺を起こしに突撃してきた騎士はおまえだ!!」
「うわっ、そんなの誰も気づいてませんって!」
呆気に取られるジャックス。
アレンディオは「関係ないとは言わせん」と勝ち誇った顔になった。
(アレン様、俺は1巻出てないので関係ありませんよ)
普通顔でまじめという理由でソアリスの護衛につけられた、存在感の薄いノーファは心の中で密かにそう突っ込む。
「俺は、SSでソアリスといちゃいちゃしたい……!!だが、需要があるのかわからない!」
悔しげな声。
「きりがいい数字だから」という理由だけで「10年」戦地へ送られた将軍は、本編では満足できるようなシーンが少なかったと嘆く。
「わかってる。俺はオチ要員なんだ…!ルードが何かやらかすか、俺が何かやらかすか2択なんだ」
「私を巻き込まないでくれます?」
補佐官が呆れまじりに突っ込む。
「だいたい、番外編なんて散々ここでやったはずだ!偉い人に叱られるまでは、色々やってしまえと自由奔放に書いたはずだ!それが、今さら『表で使えそうなネタが見つからない』だと!?」
「あの、そろそろ出版関連でアレなんで、本当にまともな番外編にしないと消されますよ」
「いっそ消してくれ!そして将軍も辞めさせてくれ!」
嘆くアレンディオに、ユンリエッタが哀れみの目を向ける。
「諦めが悪いです」
「…………」
このままでは埒があかない。
ため息を飲み込んだルードは、アレンディオの背をポンと叩いて言った。
「わかりました。どうにか皆でひねり出しましょう」
その言葉に、仲間たちは思った。
(((巻き添え決定?)))
今夜は帰れない。
全員の予想が一致する。
「誰得か?なんて考えていては、一向に話は進みません。ここはもう、アレン様が喜ぶ内容だけに的を絞りましょう」
「そうだな。お前の言う通りだ、ルード。そもそも俺は常にソアリスの幸せしか考えてないし、ソアリスがいればどこでも何でも喜べるし、大した問題なんてないような気がしてきた」
「ええ、そうです。特務隊は何やってもいいし、SSだって何やってもいいんです」
悪魔に勇気づけられたアレンディオは、途端にやる気を取り戻した。
「今すぐ邸へ帰る!ソアリスと一緒に幸せを噛み締めながら、幸せな二人のエピソードを作るんだ!」
「ええ、それがいいです。では、お邪魔になりますので私たちはこれにて失礼します」
「あぁ、深夜にすまなかったな」
爽やかに去っていくアレンディオ。
残された部下たちは、安堵の息をつく。
(あとは奥様に任せましょう。人身御供のようですが、アレン様がいちゃいちゃを御所望ですから…)
もう終わったと思っていた番外編に、引きずり出されること数回。
そろそろ終わりにしてほしい、と願うルードだった。




