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16.魔女の歴史

「邪魔するぞ。これは手土産だ!」

「お邪魔します。お納めください!」

「ああ、やっぱり手土産だったか」

「これどこで捕ってきた猛獣の丸焼きなのよ……」


 フリィはザイードから美味しそうなホールのケーキを受け取り、ピーナはユメルから200センタはある獣の丸焼きを受け取った。街で出会ったときからずっと見て見ぬフリをしていたのだが、いざ渡されると苦笑が浮かぶ。


「ほら、だから切り分けてこいと言っただろう」

「ええー、でも丸焼きの方が美味しそうじゃないですか?」


 確かに美味しそうであることは否定しない。キッチンに転がしておいて後から解体することにした。

 ケーキを切って茶を入れる。日頃二人で使う食卓は、四人もいると当然ながら狭かった。


「可愛いおうちですねえ」

「暖かくて心地のいい家だな」


 今日は友人を家に招くという一大イベントの日だ。

 トレッカの街の入り口で待ち合わせをして、転移で家まで来て貰った。道中、珍しい客に集まる魔物があわやユメルに倒されるかというハプニングもあったが、かろうじて血を流すことなく終わって今に至る。

 なお、ここ数日なぜかずっと頬を膨らませていた居候妖精は、ユメルたちの顔を見るなりべしゃりと溶けて液体になり、瓶の中に引きこもってしまった。ただの水瓶と化した彼女の寝床を数度振っても出てこない。少し気にはかかったが、とりあえず体調が悪いというわけではなさそうなので放っておいても大丈夫だろう。

 近況を報告し合っていると、トートドードの話になった。話の途中でがたりと席を立つユメルを、ザイードが手慣れた様子で引き戻す。彼が高慢なのは言葉遣いだけで、意外と面倒見はいいし、常識人なのだ。


「……従属の腕輪か。あの家ならやるだろうな」


 眉間に深い皺を寄せたザイードの言葉にピーナが身を乗り出した。


「フリィの実家を知ってるのか」

「よく知っている。家長は宰相補佐で、オレの父を目の敵にしている小賢しい男だ」

「ザイード、言い方」


 ツンと顎を上げたザイードを注意するユメルに、フリィは慌てて手を振った。


「気にしないで。その、善人じゃないことは知ってるから」

「善人はいくら魔力が強い女児が生まれようと、こぞって虐げたりしないからな」

「ザイード!」


 もう! と振り上げられる拳を叩きつけられないよう必死に宥める。そういうところは本当に気にならないのだ。それより年季の入ったテーブルが真っ二つにされる方が悲しい。

 彼女が渋々と着席するのを待って、ザイードはそっと声を潜めた。


「そもそも、どうして魔女が疎まれてるんだと思う?」

「リラリーレイン……私を育ててくれた魔女は、お国柄だって」

「正しい答えだ。お国柄。つまり、国の勝手な事情だな」


 ザイードは高位貴族にとっての暗黙の了解、平民の知らざる古い歴史を語った。


「初代の王たる英雄王は魔法使いだった。魔力は血筋で受け継がれるから、代々の王もまた魔力が高かった。当然魔力が高いのは後の王となる王太子だけではない。王族には何人もの姫が生まれ、その中には現在魔女と呼ばれるような高魔力を持つ人もいた」


 昔々は高魔力の姫たちはとても大事にされていたらしい。というのも、母体の魔力が高い方が、より高い魔力を持つ子が生まれるとされるためである。

 実際に検証が行われたわけではない。しかし、溢れた魔力が水などに染み込むように、魔力に満ちた胎の中で過ごした胎児に魔力が満ちるというのは、可能性としては十分にあり得ることだ。

 魔力が高い人間が増えれば、その分対人、対魔物において防衛がしやすくなる。魔法使いが今の時代で重宝されるのもそのためだった。

 豊富な魔力、強力な魔法を用いて順調に続いたドルイクル王国。訪れた陰りは、国の頂点だった。


「暗君というのは実に唐突に生えてくる。不幸だったのは、三代に渡り馬鹿殿が続いたことだ」


 最初は双子の子供だった。よくできた姉と、我儘な弟。自分よりも優れた姉を妬み、王となった弟は真っ先に姉を蹴落としたらしい。国の転覆を謀る魔女だと。

 魔力の腕は互角であったが、姉には情というものがあった。できるだけ弟を傷つけないようにする姉に勝ち目はなく、王は全身を血に濡らして勝利の美酒に酔った。

「強い魔法を使うでしゃばりの女などろくでもない。何度もそう繰り返したそうだ。暴虐の王におもねる家臣たちは、言われるままに魔力の高い妻や娘を蔑ろにした。家族を愛する者は領地へと下がらせて目をつけられないようにしたそうだが、表面上は家族を捨てたように見えたかもしれないな」


 王の息子は、そんな王を見て育った。だから同じような人間に育ってしまったのは仕方がないことだったのかもしれない。

 王家がそんなふうであったから、家臣の子供もそれを真似る者が増えた。色濃い髪を持つ姉妹を下に見て、ときには暴力を振るう者もいたという。


「そんな中、とある高位貴族の娘が不満を爆発させた。詳しくは言わないが、今までよく我慢していたなという立場にあったらしい。闇の力を強く持った、限りなく黒に近い色をした髪の娘は、王都に破壊をもたらした。やらかした者には当然の報いだが、王の考えに染まっていなかった者にまで被害を出した。結果……女は感情に任せて破壊を振り撒く。そんな話に転じてしまった」


 反逆は後に続かなかった。娘は魔力を切らしたところで捕らわれ、処刑され、残された爪痕は亡くなった彼女が最も向かわないで欲しかったのであろう方向へと影響した。

 王は暴れた娘の攻撃で死んだ。息子はそれを憎んだ。女の魔法使いなど害悪だと断じ、魔女という呼称を正式に用いるようになった。

 貴族や王都の平民も、同様に家族を亡くした。魔女を憎むようになり、その目は次の魔女を警戒するようになる。女の魔力は月のものに左右されて揺れがちであったから、元々、たまに小さな暴走を引き起こしていたことも災いした。人々は色濃い髪の女を見て「あの女も破壊をもたらすのではないか」と懸念を抱くようになった。


「貴族たちはこぞって魔力の低い者の血を入れた。魔法使いが生まれにくくなる痛手より、魔女が生まれて問題になることを疎んだからだ。それでもプライドが残ったのだろう。属性だけは長く継いできたものを選ぶ家が多かったらしい。ただ、闇を取り込んでいた家は鞍替えしたようだがな」


 たった三代のできごとで、ドルイクル王国は魔法による防衛を捨てた。次代の王が強き魔法を取り戻そうとしても、刷り込まれた意識は変えられなかった。

 そしてドルイクル王国は竜の眼の加護の力に頼って領地を狭めた。それ以上の土地を守る術がないのだ。

 時が経つにつれ、魔女を恐れる人々は王都から各地へと散って行った。今では知っての通り、国中の人間がおよそ魔女を疎んでいる。


「ちなみにだが、平民より貴族の方が魔女を怖がってはいない」

「そうなの?」


 長い話を整理していたところへ補足が入って驚いた。

 子供を捨てて遠くにやるほどだから、よほど怖いのかと思ったのだが。


「まず、高位の貴族は魔女が生まれた経緯を知っているから、理解している分、恐怖度が低い」

「うん」


 未知の存在ほど怖い。よくわかる。


「魔女が生まれるのは大抵貴族の家だ。どうやったって平民よりは魔力が高くなるからな。爆弾を抱えるのが怖くないというわけではないが、それより周囲の目を気にして遠くへ捨てる者が多い。蔑ろにされた爆弾は捨てた先で爆発しがちだから、辺境の街の方が魔女に怯えるようになる」

「……それって魔女より貴族のせいじゃないか?」

「そうだ。だからオレはそんなに魔女は怖いと思わん」

「蔑ろにされたら怒るのは当然ですよね。怒られるようなことしなければいいんですよ」


 頭を抱えてテーブルに突っ伏すフリィに、大丈夫かと声がかかった。

 大丈夫。思った以上に、なんというか――しょうもない理由だったから呆れているだけで。


「なんか……王都に襲撃に行きたくなってきたわ」

「お、行くか?」

「止めてくれ。オレは迎撃しないといけない立場だ」

「私はフリィさんの味方ですよ!」

「三人がかりは止めろ」


 行儀悪く頬杖を突いて、言い合う二人をぼんやりと眺めた。

 二人のような貴族ばかりなら魔女などという余計な呼称は生まれないで済んだのに。どうやって育ったら、一風変わっているものの、こういう気持ちのいい人が生まれるのだろう。

 そこまで考えて、現在の王家はどうなのだろうと疑問が湧いた。


「王は日和見な男だ。全く期待できない」

「そっかあ」

「だが王太子は人の意見を聞き入れる器がある男だぞ。オレがフリィの話をしたら、いつか会ってみたいと言っていた」


 ザイードは高らかに笑って胸を張った。


「オレは父と同じく王国騎士団長を目指すつもりだったが、最近は未来の王の近衛を目指すのもいいかと思っている。そうしたら嫌になるほどオマエの話をして改革をさせてやろう!」

「ザイード、直々に側近になれってスカウトされてませんでしたっけ?」

「側近では書類仕事ばかりではないか。腕が落ちるだろう。近衛ならば剣が振れる」


 出会いが出会いだったからそういう印象は全くなかったが、もしかして彼は思っていたよりずっとデキる男なのだろうか。王太子から側近にスカウトされて、しかも断れるとは。ピーナも意外そうな顔をしているから、フリィの察しが悪いわけではないと思いたい。


「よし、そうと決まれば!」

「何か決まったっけか?」


 椅子を蹴倒す勢いで立ち上がったザイードが、隣室へと歩いていく。そこは作業部屋だ。見られて困るものはないが、荒らすのは勘弁して欲しい。


「オマエのこなしている仕事を紹介するがいい! 隅々まで纏め尽くし、王太子に魔女の有用性をプレゼンしてみせようではないか! 友達というのは助け合うものだからな!」

「ああ……そういう。うん、ありがとね」


 唐突過ぎて追いつけなかったが、好意は普通にありがたかった。

 作業場で簡単な薬をつくって見せて、畑の魔草の世話をする。最近なぜだか少し落ち着かない様子を見せている魔物たちをあしらい、激化してきた見知らぬ妖精の悪戯を避け、あっ、納屋には近づかないで。違うの、散らかっているのは片付けの最中だからで、家は元々綺麗なの。決して二人が来るからと急いで汚部屋を片付けたとかではないの。


「今日はありがとうございました。今度は私のお部屋にも来てくださいね! ……とは言っても、宿屋の小さい部屋なんですけど」

「うむ、楽しかったぞ! オレの家にも招待してやろう!」


 賑やかに過ごした満足なこの日のことを、まさか本気でザイードが王太子にプレゼンするなど、一体誰が思っただろう。

 ザイードの家ってつまり高位貴族の家だよねと背筋を粟立てていたフリィは、少なくとも欠片も予想をしていなかった。

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