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01.竜と魔女

完結まで書き終わっているので、見直ししながら毎日投稿できたらいいなと思います。


※主人公(魔女)の外見が年齢不相応に幼い設定です。いわゆる合法ロリが地雷な方はご注意ください。

※竜はすぐに人の姿になります。

※一話文字数は区切りによるので、大体2000~5000字と安定しません。

 魔女と呼ばれる存在がある。それはこの国では大抵の場合大なり小なり人に疎まれていて、あまり好意的には受け取られない。

 おかしな話だ。魔力は全ての人間が持っていて、およその人間が魔法という形で行使できる。それならば全ての人間の女は魔女と呼ばれるべきである。


『あたしたちは逸脱して優秀なのさ』


 師たる緑の魔女は、そう言って曲がった腰を伸ばし、胸を張った。要約すればそういうことなのだろう。出る杭は打たれるというものだ。

 では魔力の突出した男は、なぜ魔法使いと呼ばれ重宝されているのか。なぜ疎まれないのか。緑の魔女はお国柄と答えた。腹が立って仕方がないが、まあ、世の中なんてそういうものである。

 フリィはそんな、理不尽に疎まれる魔女として生まれた女だった。

 人の魔力は髪に出る。髪の色は属性を表し、色の濃さは魔力の量を露わにする。光属性以外の魔力が極端に強いフリィは、漆黒の髪を持ってこの世に誕生した。

 桁外れの力は魔女を超して竜という呼称を授けた。この国において、竜は破壊の象徴であり悪の象徴。生まれた瞬間この上なく迫害される理由をつけられた子供は、予定調和のように捨てられた。

 実家は侯爵家という高位貴族だった。世間体を考えて七歳まで家に置かれていたのは、果たして幸運であったのか不幸であったのか。個人的には不幸であったと思う。もっと早くに放逐してくれれば、嫌がらせめいて厳しい淑女教育をされずに済んだ。ただ、更に早ければこうして生きてすらいなかっただろうと考えると少々悩ましい。

 ともあれ、嫌われ、疎まれ、捨てられつつも、竜の魔女ことフリィは今日も健やかに生きて――。


「あー、コイツはダメだなあ!」

「……はぁ?」


 いや、嘘を吐いた。全く健やかではない。

 ギルドの素材鑑定カウンターで、フリィは淑女教育の全てを投げ打つ声を上げた。

 猫のような吊り目で睨む先には、品性を疑う顔でニヤニヤと笑う男。その前には、只人が調達するには難しい素材が積まれている。

 男はその希少な素材のひとつを無造作に摘まみ上げた。


「見ろ、変色してやがる。これじゃ正規の値段は出せねえな」


 綺麗に土を落とした魔草の根の先は、確かにその一本だけ濃い赤色をしていた。基本的には薄い赤だ。けれど、それは別に不良品というわけではない。


「ケスパの根の色差は生育にかかった日数を示すだけで、効力や属性値に影響はないわよ。あなた、そんなことも知らずに鑑定してるの?」

「客はそんなこと知ったこっちゃないんだよ。他と違やあクレーム対象だ。依頼額から引かせて貰うぜ」

「そこを説明するのも専門家の仕事でしょ。サボってんじゃないわよ」

「世俗に疎い魔女様にはわかんねえかもなあ」


 フリィの指摘に男は鼻を鳴らし、乱雑に素材を纏めて袋に突っ込んだ。そんなふうに扱ったらそれこそ破損するというのに。

 放り投げるようにしてカウンターに置かれた貨幣は、本来払われるべき依頼料の半分以下だった。

 じわりと込み上げるものを押し殺し、フリィは低い声で言う。


「じゃあいいわ、返しなさいよ。まだ納期までには時間があるし、揃えて持ってくるから」

「おいおい、一度納品したものをやっぱり返せってか! 魔女様はさすが気まぐれで横暴だなあ!」


 男の突然の大声に、ギルド内の視線が集まった。

 ケチをつけたのはあちらなのにも関わらず、いかにもこちらが問題を起こしたような言い分だった。しかしやりとりを聞いていた者はおらず――例えいたとしても、魔女の味方をする者はまずいない。

 突き刺さる剣呑な視線にフリィは歯を食い縛った。左手首を飾る、優美さの欠片もないブレスレットを強く押さえる。

 ここで騒いでも意味がない。後日、唯一話の通じるギルド長に訴えるのが無難である。自分に言い聞かせて怒りを堪え、軽薄に笑う男から視線を引き剥がした。


「gigbee!」

「なんだ、呪いの言葉か!?」


 よく聞く妖精の罵倒語を吐き捨て、ローブのフードを目深にかぶって、大股にギルドを出る。人より小さな背中にぶつかる嘲笑が心底腹立たしかった。

 こうなると何もかもが不愉快で、背丈ゆえに短い足ですら憎らしくなった。こんな不愉快な場所とはさっさとおさらばしたいのに、全力で走っても息が切れるばかりで街の外へは辿り着かない。

 痺れを切らして建物の間へと滑り込んだ。がつがつと踵を地面に打ちつけて魔力を練り上げる。連続した舌打ちのような精霊語を唱えると、足元に黒いサークルが浮かび上がった。最後にがつんと思い切り地面を蹴る。

 闇が弾け、ドアが開くように地面が抜ける。落下はほんの一瞬で、瞬きの後にはフリィは森の中に立っていた。

 設置してある帰宅用の転移陣から出て、少し離れた家へと向かう。普段は街を出てから転移しているが、今日ばかりは己を甘やかすことを許そうと思う。

 でないとストレスのあまり爆発しそうだ。比喩ではない。物理的なものだ。あと少し癇に障ることが起きたら、衝動のまま溢れんほどの魔力を解放してしまいそうだった。

 それはとてもよくないことだ。何せフリィは、歴代の魔女の中でも最も魔力に満ちた者なので。


 しかし、そういうときに限って招かれざる客が来るものだ。

 家を目前にして見えたのは、木々の隙間から飛び出した、天を突くような巨体だった。

 鱗は明るい灰色をしていた。瞳は目が眩みそうに鮮烈な赤色。背に負う一対の翼の片側はボロ布のように破れているが、それでも力強さは疑うまでもない。

 荘厳な佇まいを、この国の者は悪の象徴としている。

 我が家の庭先に我が物顔で立っているのは、とっくに絶滅したはずの竜という存在だった。


「…………は?」

【f8iio9! lililittaahlk`^´33iio9! フリィ@po1309-^gigbee99!】


 家に居ついている妖精が、頭に響く声で盛んに騒ぎ立てる。何を言っているのかはさっぱりだけれど、恐らく不法占拠者を罵っているのだろう。やってしまえとばかりに小さな指を向け、水を広げたような羽を震わせて眦を吊り上げていた。

 竜はその声でこちらに気づいたようで、縦に割れた瞳孔で威圧的に見下ろした。


「何用だ人間。ここは我が住処とした。今すぐに立ち去るならば見逃してやろう」

「ここ私の家なんだけど」


 ヒトの言葉が喋れるのか。頭の片隅で思いながら正当な権利を訴える。

 それに鼻を鳴らす様子が、かの憎き鑑定所の男と重なった。


「我をなんと心得る。何より神に近き竜だぞ!」

「竜が何よ」

「なんだと?」


 ボルテージが上がる。あと少し癇に障るどころか、居丈高な言い分に物凄くイラっとした。

 バチリと閃光が走る。妖精が悲鳴を上げて逃げて行った。ローブが風に煽られ、大きなフードが背に落ちる。ぶわりと膨らんだ黒い巻き毛が、ばさばさと顔にかかって鬱陶しい。

 苛々する。小さな拳を握り締め、フリィは腹の底から声を上げた。圧縮されていた怒りが声と共に解放される。

 怒りは魔力を纏い、全身を駆け巡り、体を覆い、広がり、弾け――。


「竜くらい、私だってなれるわよ!」


 膨れ上がった魔力は、フリィの叫びのままに肉体を創り変えた。

 小さな身は木々を超すほどに大きくなり、艶めく鱗が日光を浴びて黒く輝く。翼を張って威嚇するように吠える。色や形は多少違うが、その姿は紛れもなく竜そのものだった。

 フリィは魔力の大きさゆえに、小さな魔法の繊細な調整が苦手である。しかし魔力消費の激しい魔法は別だった。

 変化の魔法は、変化先の存在値の高さにより魔力消費量が変わる。元々難しい魔法だが、自分より存在値の高い存在になるには莫大な量の魔力が必要となる。人間種族は認めたがらないが、人間の存在値は魔力を持つ生物の中で随分下位にあたるので、魔女でもなければひとつ上の種族にすら変化できない。

 自己申告の通り、竜とは神に最も近いとされる生物だ。並大抵の魔力では届かない変化だが、なにしろフリィは魔女の中でも最強なので。


 本物の竜からの反応が一向に返らなくて、フリィはもう一度雄叫びを上げた。

 驚きに目を丸くした竜にはちょっとした愛嬌を感じる。度肝を抜いてやれたことを確信して胸がスッとした。

 フフンと荒い鼻息を吐いて逞しい両腕を組んだところで、ようやく竜は我を取り戻したようだった。

 身構える前に、一回り大きな手で厳つい手を掴まれる。しまったと顔を顰めるのが早いか、竜が喋り出したのが早いか。

 次に驚かされたのはこちらの方だった。


「俺と双翼になってくれ!」

「……なんて?」


 流暢に喋る竜だと思っていたが、言語の違いがあるのかもしれない。

 しかし願望は天に届かなかった。


「人間への求婚はなんて言うんだったか……俺の槌を磨いてくれ……違うな、花香る魔力を混ぜて……はエルフか。ええと」


 ぶつぶつと色々な種族の求婚の言葉を唱えていた竜は、やがて思い至ったらしく目を輝かせて改めた。


「俺が嫁に貰ってやろう!」

「一点。偉そうだからイヤ」

「そんなつれないことを言わず。初めて見たんだよ、俺以外の竜」

「ただの変化で、私は人間よ」


 魔法を解くと、途端に地面が近くなった。竜の世界は視野が広いところがよかったが、やはり見慣れた世界は気が落ち着く。


「それでも」


 なくなったフリィの手を惜しむようにしょんぼりとしていた竜が突然消えた。痛むほど上げた首を巡らせていると、前触れもなく手を温かいものに包まれて飛び跳ねる。


「初めて見たんだ、俺と同じかたちをしたものを」


 そこにはとんでもない美丈夫が立っていた。明るい灰色の髪に、赤色の目。もうこの時点で事態を把握したが、おまけに変化が適当なのか、皮膚に鱗が名残のように貼りついている。

 逞しい四肢は竜の印象のままだった。人の形をしていてなお大きく、いくらフリィが小さいにしても身長差が凄い。顔を真っ直ぐにしていては分厚い壁があるようにしか見えず、視界は胸にすら届かない。両手で包まれた手は、まるで玩具のような小ささだった。

 フリィの身長が145センタで、目測200センタはあるのではないだろうか。ドワーフのような背の低い種族から見たら自分もこう見えるのだろうかと一瞬考えたものの、フリィは悲しいことに枯れ木のように薄っぺらい体格をしているので、恐らくこんな存在感はあるまい。

 輝かんばかりの端正な顔で、竜であったはずの男は明るくニッと笑った。


「諦めが悪いんで、じっくり口説くことにする。俺はピーナだ。よろしくな、俺の未来の嫁!」

「フリィよ。絶対イヤ――ちょっと、なんで人の家に入ってこうとしてるのよ! まさか居つく気じゃないでしょうね!?」

「カゾクってのは一緒に暮らすものだろ」

「誰が家族よ、他人よ」

「竜なんだよなあ」

「揚げ足取るんじゃない!」


 フリィの奮闘にも関わらず、引こうが押そうが、堂々たる巨体が歩みを止めることはなかった。自分の家の中を荒らすわけにはいかないから、制御の足りないフリィの魔法は使えない。

 戻ってきた妖精は不法侵入者に散々金切り声を上げていたが、食事代わりの魔力を与えられてあえなく陥落した。この裏切り者めが。お前も追い出してやろうか!

 いくら言葉を重ねても、竜は快活に笑うばかりで一度下ろした腰を上げることはなかった。


 結局根気負けして、その日は終わり。

 明日からの自分に未来を託そうと諦めてふて寝した。

いつもご感想やいいね、誤字脱字の報告等ありがとうございます。

語彙が貧困なためご感想への返信は控えさせていただいていますが、喜んで拝読しています。

今回も誤字脱字等ありましたら、誤字報告よりお知らせいただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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