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【7巻2/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック3巻1/15発売!】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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第三百七十四話(カイル歴515年:22歳)北部戦線⑪ 尖兵たちの進軍

日中に行われた会議で兵力を再編成し、各所に配置を終えたアレクシスはひとり陣幕の中にいた。



「せめて王都騎士団の本隊が到着すれば……、それを左翼に配して特火兵団はバリスタ対策に専念できるんだけどなぁ……、此方に残った長槍部隊は半数の100名だし、それを指揮できる魔法士は限られているし……」



長槍、これは風魔法士のなかでもクリストフやアウラが得意とする特殊攻撃だった。

かつてイストリア皇王国が『神の矢』と呼び得意としていた戦術で、通常タクヒールらの使う風魔法を使用した範囲支援ではなく、一点集中支援により矢の射程と打撃力を特化させたものだった。


ロングボウ兵の中でも特に強弓を使う一部の秀でた者たちだけを集め、移動に難があるカタパルトを運用できないような戦場で無双できる長射程攻撃、これこそが敵バリスタを一方的に排除できる手段となるだろう。



「うーん、無い物ねだりをしても仕方ないか……。今できることをするしかない」



そう言って作戦案を書き記していたとき、本営の陣幕の外から静かな声がした。



「夜分に失礼いたします。レイム殿配下の諜報部隊が、急ぎのご報告があるとゲイル司令官と共に参っておりますが……」



「レイムの配下……、そうか、急ぎこちらに案内して」



アレクシスは即座に理解した。

レイム率いる諜報部隊はイストリア正統教国に潜入しており、その急な知らせは敵軍の新たな動きを伝えるものだろう。


ゲイルに伴われた使者は、直ちにアレクシスの陣幕に招き入れられた。



「レイム殿から総司令官への報告をお伝えさせていただきます。

『敵は明朝を期して動き出す模様。万全の迎撃態勢を整えて当たられたし。なお、領民たちへの工作は未だに不十分のため、危急の際には我らに遠慮することなく対応されたし』

以上です」



「なるほど、先ずは使者の任、ご苦労だった。下がってゆっくり休息を取ってほしい。

それで……、ゲイル司令官は何用かな?」



ゲイル率いる隊が最も彼らに近い位置に布陣していたので、使者がまずそこを訪れたことが理解できる。

だが、一緒に報告に来たということは、彼に何か思惑があるのだろう。



「ははは、奴らが動き出したとなれば、足止めは私たちの隊でしょう。それに……」



「それに?」



「数はまだ不十分ですが、先ほどアレが到着しましてね。今回の戦いでその運用をお願いしたく……」



アレクシスはふと思い出した。

そもそもこの戦いの始まり、神の尖兵と名乗る領民たちと一番最初に対峙したのはゲイルだった。

そしてすぐさま、アレクシスに意見具申するとガイアまである物を発注する使者を走らせていた。


だが、それにしても早すぎる。



「もう、ですか?」



「ははは、ウチの隊ならテルミラからアイギスの間ぐらいなら、夜間でも一気に駆け抜けますよ。

そしてガイアの生産工場には見知った者たちもおります。彼らが夜を徹して対応してくれたお陰で、取り急ぎ三百ほど揃っています」



「危険です! それでは彼らの一割にも満たないではないですか!」



「はははっ、我らの大楯部隊は元はといえば力自慢の人足たち、それも選りすぐりでさぁ。

生っちょろい男たちなら、一人で十人ぐらいは撥ね退けて見せますよ。

それに……、タクヒールさまの名誉と彼らの命、それらを救うことができるのは我々しかいませんぜ」



そう豪語して笑うゲイルを見て、アレクシスも仕方なく心を決めた。



「了解しました。では民たちの足止めはお願いします。ですが約束してください。

第一に、ゲイルさんを始め皆さんの命を守ることを最優先とし、先ずは罠を発動させて対処すること。

第二に、彼らを抑えきれないと判断した時は、躊躇なく攻撃するよう、固く命令します。

彼らが暴徒と化した場合は、背後に配置した弓箭兵から一斉射撃を行い排除することを約束してください」



そう言うとアレクシスは大きなため息を吐いた。

そしてゲイルを見つめて再度話し始めた。



「いいですか、タクヒールさまはご自身の名誉より、皆さんの命が大事だと念を押されています。

決して無理のないように頼みますよ」



「承知しております。我らにお任せください。

では御免っ」



そう言うとゲイルは笑い、一礼して戻っていった。

その背中を見つめるアレクシスには、一抹の不安と迷いがあった。



「念のためシオルさんたちを彼らの支援に……、あとグレンさんにはアウラさんを貸して欲しいと伝令を走らせてください」



彼女たちを派遣することは、もともとアレクシスが構築した作戦のひとつだったが、決め手を欠くためにずっと実施を迷っていたものでもあった。

だがゲイルの決断によりアレクシスも、彼らを守るためにあらゆる手を決断せざるを得なかった。



夜が明けると、これからの死戦を暗示するかのように朝日が大地を赤く染め始めた。

それに合わせてアスラの街からはイストリア皇王国にてよく歌われる、神を称える唄を歌いながら1万にも及ぶ人々が行進を始めた。


彼らに与えられた使命、敵の防衛ラインを突破する肉の盾となる役割を知らず、歩き出す彼らの顔はみな喜びに満ちていたという。



「進めっ! 進めっ! 我らは武器を持たず戦わず、ただ神の教えに従って前に進むのみ!

我らは常に神の威光に守られておる。武器を持つ悪魔の手先に、我らの信仰心の強さを見せてやれ」



後方で彼らを煽る司教の言葉に応じ、ゆっくりと、そして確実にかれらは前へと進んでいった。

その先にある、隘路を利用して構築された敵の防塞を目指して……



『ちっ、こいつら……、どうかしてやがる!

まともな神経で対応しているとも思えんな。

まさか……、これも以前お頭に聞いたことのある、闇魔法による暗示なのか?』



進軍する『神の尖兵』の列に加わっていたレイムは、心の中で舌打ちせずにはいられなかった。

彼の周囲の者たちの表情は喜びに満ち、恐怖を感じる様子が全く見受けられなかったからだ。



『まずいな……』



そう小さく呟くと、仲間に合図を送り徐々に隊列の後方へと移動を始めた。

当初は前列にあって立ち止まり、無謀な彼らを諫めるつもりでいたがその効果は期待できないと判断したからだった。



やがて彼らは、一本の橋を渡るとその先に三角状に広がった地形に出た。

川を底辺として大きく広がった街道沿いには濃密な森林や起伏に富んだ丘が広がり、先に進むに従い左右の道幅を狭めるように森が押し迫り、1キルほど進んだ頂点となる部分は、僅か百人前後が並んで歩けるくらいの広さしかなかった。



『よく考えたものだ。これでは後方の橋を落とされれて、先端に蓋をされれば正に袋の鼠、前にも後ろにも進むことはできないだろう。だが……』



ひとたびこの先端を突破してしまえば、左右どちらに転じても魔境公国軍は側面を衝かれてしまう。

それぞれが別の敵軍と対峙しているときに横から彼らが進軍すれば、それに備えるため布陣を変更して対処せねばならないだろう。


その時に正面から敵の攻撃を受ければ、味方は大混乱となり敗北は必至だ。



『こいつらをあの先に進ませてはならない』



それはレイムが考えていたことだが、同じことを考えている者たちもいた。



「まずいな……、奴らをここより先に進ませてはならない」



躊躇なく橋を渡り、口々に神を称えながら死地となる地形を黙々と進んでくる一万名もの民たち見て、

ゲイルは思わず配備されていた望遠鏡から目を離した。



『奴らには全く怯えはない。まるで何かの熱に浮かされているようだ』



彼らの表情を見たゲイルは、数年前にガイアでヒヨリミ子爵率いる軍と対峙した時のことを思い出さずにはいられなかった。

あの時のヒヨリミ兵は、まるで何かに取り憑かれていたかの如く憎悪に溢れ、尋常ではない士気の高さで襲って来た。


感情こそ違えど、微塵の恐怖も見せない彼らの様子は酷似していた。



「仕方ねぇな。奴らの先頭が300メルまで来たら……、橋を落とす合図を出せ!

そしてカタパルトに命じて制圧弾を投射させろっ! いいか、使用するのは白弾のみ、そして絶対に当てるなよ! 前方に展開させるだけでいいからな」



そういった指示を出すと、後列に控えた三百名もの屈強な兵たちに向き直った。

彼らはみな、タクヒールの軍にしては珍しく大きな盾を装備していた。



「あとは力自慢のお前たちに任せる! いいか、大楯部隊の誇りにかけて一歩も引くな!

盾に装着した覆いは俺たちの誇り、タクヒールさまの名誉を守るものだ。決して血で穢すんじゃねぇぞ!」



「「「「応っ」」」」



「それにしても旦那、司令官である旦那自らが参加することもないだろう」



片手に異常なまでに厚みのある大楯を持ち、気安くゲイルに話かけた男がいた。



「ははは、ラーズ、お前こそ第一道の駅守備隊長として率いた隊の指揮を任せていたんじゃないか?

こんな所で何をしている?」



もちろんゲイルは、志願制で集めた部隊なので彼の参加も知っている。

言わば売り言葉に買い言葉で茶化しただけだった。



「俺は旦那と人足時代からの仲で、ここに居並ぶ大多数の物好きたちと同じだ。

もっとも、力自慢だけを集めれば、自然と旦那の仲間たちが中心になっちまうだろうが」



「ははは、違ぇねぇな。

野郎ども! 俺たちはこれから、何があってもただ歯を食いしばって盾を支え、ただぶん殴られるだけの名誉ある役目だ。気を抜くんじゃねぇぞ!」



「「「「応っ」」」」



最近では司令官、男爵などと、思いもよらぬ地位に祭り上げられ、思いの外窮屈な思いをしていたゲイルも、いつのまにか心は人足時代に戻り、その言葉もまた過去のゲイルらしくなっていた。


ゲイルの合図と共に、力自慢である彼らは大きな盾を抱えて走り出した。

整然と隘路の先端を抜けると地形に応じて横一杯に並び、盾による壁を展開して神の信徒たちの進路を塞ぎ始めた。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は『ガイアの楯』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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自称神の信徒(笑)
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