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【7巻2/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック3巻1/15発売!】  作者: take4
第十章 魔境公国編(新たなる世界の枠組み)

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第三百三十四話(カイル歴514年:21歳)欺きあう者たち

イストリア皇王国最南端の街トライア、ここに拠点を定めたイストリア正統教国は、街全体に拡張工事を進めており、最もそれが顕著なのは教会の中枢、大聖堂と呼ばれた場所だった。

そこは一見すると、教会というより王侯貴族の玉座の間に近い様相をしていた。


今や教皇となったカストロが信者に対し、謁見したり教えを説いたりと、教会の威厳を見せつけるための舞台といっても差し支えなかった。


先程謁見を許可した商人たちとを下がらせたあと、カストロは暫く黙り込んで何かを考えているようだった。



「教皇猊下……、失礼ながら……」



その沈黙に耐えきれなかったのか、それとも敢えて進言しなくてはと決意したのか、側近の一人が何か物言いたげに声を掛けた。



「ははは、構わぬ。申さずとも良いわ!

商人が、信用がならんことは、分かっておる。奴らは儲かるとなれば、祖国すら売り飛ばすでな」



「では何故?」



「罪を犯した者にはいずれ神の裁きを下す。だが大義のため、猶予を与えただけだ。

奴らは一度ひとたび納品の対価を受け取れば、次回以降もせっせとやって来るだろう。

だが次からは『支払いは全ての納品を終えてから』と言われておると伝えよ。分かるな?」



「なるほど、最初に餌を与えておいて、最後にまとめて神への進物とさせる訳ですな?」



「そうだ。一度目に大盤振る舞いされれば、奴らは次も期待する。そして次に納品に来て以降は、代金を受け取るため全てを納品するよう必死になって努力するだろう。それがあ奴らの罪に対する贖罪となり、納品された剣は神の許しを請うための進物となる」



「はっ、それを伺い安心いたしました」



「そして気取られぬよう、奴を見張れ! 奴らがただ目端の利く悪党か、それとも……」



「はっ、我らの害となる、そう判断した際には直ちに処断いたします」



カストロも決して愚かな男ではない。


そもそも昨今で大量の剣を鹵獲品としてダブつかせている者、それは公王を僭称せんしょうする、憎んでも余りある小僧か、悪魔の手先であるカイル王国の辺境公ぐらいだ。


カストロは僭王以外にも三人、東の戦場ではハミッシュ辺境公、北の戦場ではモーデル辺境公、そして最終局面ではハストブルグ辺境公であるダレクに、直接、又は間接的に大きな痛手を被った。


この4人に対しては神に願い、復讐を誓った不倶戴天の敵である。


その手先として、奴らが間諜の類である疑念も拭えない。

ならば抹殺するか、泳がせて利用することを考え、悩んでいたからだ。



「国境を出るまでに怪しい動き、怪しげな者との接触があれば、直ちに捕えよ! 殺しても構わん」



「はっ! 仰せの通りに。

我らの駐屯する街は、信仰篤き者ばかり。

街の住民全てが密偵と言っても差し支えありません」



「うむ、では以後の対応は任せたぞ」



そう言ってカストロは早々に席を立ち、大聖堂を後にした。

彼には新しく興した国の軍備を整え、困窮する地域に食料を配り、そして皇王一派を非難しながら国内の切り崩しを図るため、多忙を極めていたからだ。



その日の夜、トライアの街の飲み屋街ではちょっとした騒動があった。

なにやら大きな商売を成功させた者たちが、一軒の酒場を貸し切り、来客全てに酒を奢り始めたからだ。


商売に成功し名を挙げたい者、その地域の者たちと誼を結びたい者などが、たまに大盤振る舞いをすることは珍しいことではない。


酔客たちは皆、成功者への追従という対価だけで、無料でたらふく飲めるため、その酒場は大騒ぎになっていた。

そして成功者を褒めたたえる盃が、唱和と共に何度か掲げられた後、新たな客が舞い込んできた。



「よう兄弟、中々派手にやってるな? 俺も相伴させてもらうぜ」

(隊長、相変わらず派手ですね。ご報告に参りました)



「おうよ兄弟、歓迎するぜ。まぁここに座って飲んでけや。

金が入った時はケチケチせずに使うのが俺の性分だからな。分かるな?」

(ん、レイムか? ご苦労、ここで報告を聞かせてもらう。ただ……、分かるな?)



そう言ってラファールは、話し掛けてきた男にだけ分かるよう、目線だけを左右に動かした。

『周囲に警戒しろ、油断はするな』

そう言われた意図を察知し、男の方も無言のまま目線だけでそれに応じる。



「無粋な挨拶なんぞ要らねぇから、余計なことは言わず好きなだけ飲んでいけや」

(言葉を選んで、迂闊なことは話すんじゃねぇぞ)



「おうよ、酒場の流儀は分かっているつもりだ。俺もあちこち渡り歩いたからな。

この街には話の分かる男がいて嬉しいぜ。どこもかしこも不景気な話ばかりだからつい愚痴を言っちまいそうだぜ」

(はい、承知しております。予定していた地域の調査は完了しておりますが、どこもうまくない状態ですね)



「そうなのか? 他の街の景気なんてどうでもいいが、取り敢えずこの酒を飲み干せ。

酒代の代わりに、他の地域の酒と女について、色々と聞かせてもらいたいもんだな」

(そうか、なら酔客同士の会話として、飲みながら報告を聞こう。調査地域の動きはどうだ?)



「なんだ、兄弟もいける口か?

俺はずっと南(おうと)の方から来たんだが、まぁ……、うまくないな。

中央から北、その辺りは荒れてて昼間から酒なんて飲める贅沢はできねぇからな」

(皇王国の王都は今回の件、まともな対応ができておらず駄目ですね。王都のある中央から北部一帯は困窮しており、酷い状況としか言えませんね)



「そうなのか? 同じ皇王国でもここは活気があるようだが……。戦争が終わって安心して飲めると思ったんだがな。ここで一山当てたし、この先は北で砂糖の商売をしつつ、各地で地元の酒や女を楽しもうと思っていたんだがな」



「やめておいた方がいいな。教皇さまの恵みを受けた南辺境の四郡、ここいら以外は酷い有様だからな。砂糖なんて持っていた日には、神への進物として取り上げられてしまうぜ」

(南辺境の四郡以外は、まだ皇王の勢力範囲です。商隊として出向くには難があるようです)



「そうなのか! そりゃいい話を聞いた、そう素直に喜べんな。噂に名高いこの国の酒(勢力状況)と女(兵力)については、今回の商売でも楽しみにしていたんだがな……」



「ははは、落ち込むこともねぇよ。まず酒だが、南の四郡で十分に楽しめるってもんだ。

それがこの街に集まっているから、言ってみればここで事は足りるさ。

なんせ他は、酒の原料となる穀物さえ取り上げられているからな。碌な酒がねぇから右往左往することになるぞ」

(はっきり言って、皇王国側はガタガタですね。食料すらまともにないので無策で右往左往しているだけですね)



「ひでぇな、それは」



「ああ、俺たちは教皇さまのお陰で、食い繋ぎ……、いや、こうやって酒場すら来ることができるからな。感謝してもしきれねぇくらいだ。いずれ食い物が無くなる冬から春には、向こう側の奴らも『正しい教え』に従ってくるだろうな」

(今のところは南四群のみですが、冬から春にかけて一気に勢力図が変わると思われます)



「そうか、で、女はどうなんだ? もとは皇王国と言えば美人が多いと聞いていたからな。

今回の商売も、それが楽しみでわざわざやって来たようなもんだからな」

(兵力はどうなっている?)



「ははは、兄弟も相当好きな口だな? 

今この国には、先の戦災で働き手を失った娘や、未亡人となった女たちも沢山いるからな。

ここいら一帯、10日ほどの距離の村や町からは、仕事を求めてこの街(娼館)に流れ込んでいるさ。

実は俺も……、それを期待して来たんだけどな」



『なるほどな……、国境守備隊に加え、今のところ四軍の兵力か……。そうなると国境守備隊2,000名に加え、各郡が1,000名、恐らく6,000名程度に膨れ上がっているということか?

そこにあの教皇を崇める領民たちを徴兵すれば……、一万は超える軍になるな』



頭の中でそう計算するとラファールは不敵に笑った。

教皇への謁見で得た情報に、ある程度裏付けが取れたからだ。

彼が望んだ5,000本の剣は、四郡から兵として徴兵する領民を見越しているのだろう。

それが春以降、更に増えることを見越していると……

なので可能なら更に倍、そういうことだ。



「何だっ、お前も俺と同じじゃねぇか! どうやら気が合いそうだな? もっと飲んでいけよ」



「ふふふ、同じ仲間だ、心行くまで相伴させてもらうぜ」



そう言って肩を組み合った二人は、この日は人目も憚らず酒と女の話題で盛り上がった。

それは誰が聞いても、たわいもない話だったが、時折両者は鋭い眼差しを放っていた。


ただそれも、二人とも元々が荒くれ者の風体で、女の話に盛り上がった結果、目をギラつかせているようにしか、周囲の目には映らなかったという。



「よう、兄さんたち。なかなか楽し気な話をしているじゃねぇか。俺も相伴させてくれよ」


「兄さんたち、このあと娼館に繰り出すってのは本当か? 俺も相伴に預かりたいんだがな」


「よっ! お大尽。そう呼ばせていただきますぜ」



彼ら二人の席には、そんな言葉とともに杯を掲げて集まる男たちが後を絶たなかったという。


そして夜も更けたころ、彼らとハンドラー、そして酒場で盛り上がった輩を引き連れて、トライアの街の娼館へと消えていった。

お大尽に引き連れられた一行は、夜の闇が薄れゆく時間まで、大騒ぎで夜の街を満喫したといわれる。



彼らがトライアの街で豪遊を続けた数日後、配下に命じていた調査の報告を受けたカストロは、一瞬顔をしかめたあと愉快気に笑った。


ラウルとハンドラーは、大きな商売で大金を得たと喜び、日々酒場で大騒ぎしたあと、三日三晩娼館に出向き乱痴騒ぎの豪遊を続けていたからだ。


仮に彼らが、何者かの命を受けて行動していたとすれば、こんな行動を取れるはずがない。

普通なら任務を成功させた後、一目散に国境を目指すはずだ。

彼らはこの時点で、支払った対価の何割かは夜の街に消えているくらいの、呆れる行状だったからだ。



「いかがいたしましょう。神をも恐れぬ汚らわしい行い、罰を与えるべきかと……。

明日あたり、トライアを発ち帝国に向かうと聞いておりますが、国境で捕縛しますか?」



「いやいや、構わぬ。下賤の者の卑しき振る舞いも、いずれ神が正すことになろう。

それにしても、神を信奉する我らからすれば、真にけしからん振舞ではあるがな。

奴らも所詮、目端の利くだけの小者だったということだろう。せいぜい商いに励ませてやれ」



「では手筈通り、次回の納品から……」



「ああ、以降の対応は任せた。私には大義のため、すべきことが多すぎる故にな」



こうしてカストロは、『商いの成功に浮かれた小者』である彼らのことを、記憶の隅に押しやった。

以後のことは配下に任せれば十分だろう、そう考えた上で。



彼はこの先の大望を推し進めるため、事前に描かれた大戦略を全うすることに集中していった。

この先新しい年を迎え、冬を越せずに困窮した民たちは、未だに支配権を持つ教皇側を離れ、一気に彼らの陣営に雪崩れ込むことになる。


そしてその情報も、横流し品を販売する交易商人ラウルこと、ラファールを経由してタクヒールにもたらされることになる。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は『ユーカの決意』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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