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【7巻2/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック3巻1/15発売!】  作者: take4
第十章 魔境公国編(新たなる世界の枠組み)

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第三百十七話(カイル歴514年:21歳)北からの知らせ

最後の後書きにお知らせがございます。

グリフォニア帝国の最南端にあったエンデの街。

ここはかつてスーラ公国の侵攻を受け、壊滅に近い被害を受けたが、その後、若き帝国の英雄である第三皇子によって奪還された。


以降ここは、彼の軍が駐留する拠点として城砦が整備され、スーラ公国への反攻拠点となった街だ。


今はスーラ公国から接収した新領土一帯を統治する基点として、さらに第三皇子の軍勢の拠点として、街の規模は大きくなり、今や帝国内の主要都市と肩を並べるくらいに成長しつつあった。


そして今、この街には帝国内で最も注目される二人の人物が、麾下の軍勢と共に滞在していた。



「ふぅっ、ただいま戻りました~」



「何だその気の抜けた報告は。呆れた奴だな」



「だって、国境巡回と新領土の防衛拠点視察を終え、やっとこの街の近くまで戻れたと思ったら、新たな追加任務です。

そりゃあ誰でもこうなりますよ」



そう、エンデの街が見え、ジークハルトがやっと羽を伸ばせると思った時……


『街に入る前に、街の防衛工事の進捗を確認し課題を洗い出せ』


そんなはた迷惑な命令が降りてきたからだ。



「それで、其方の目から見てどうだ?

街の要塞化工事は問題ないか?」



「まぁ……、殿下の指示は行き届いているので、それなりに堅固なものになると思いますよ」



主君にそっけなく答えたジークハルトは、勧めもされていないのにおもむろに着座すると、手足を伸ばして寛ぎ始めた。



「僕らは魔法士の力を活用して、一気に工事を進めることができませんからね。

時間と費用はそれなりにかかりますよ」



「まぁあの国のようには行かんだろうな。ちなみに彼方の開発はどんな感じなのだ?

お前の商会からも報告は来ているのだろう?」



「そうですね。俄には信じられない速度で、入植地と街が出来つつありますよ。

そう遠くない日に、彼らはあの一帯だけで自立できる体制を整えてしまうでしょうね」



「百歩譲って街は分かるが……、国境一帯は牧草地としてしか使えない、不毛の大地だったはずだ。

一体どうやって……」



「僕もそれが知りたいぐらいですよ。ちょうどその視察に行く許可を殿下にいただこうと……」



「嘘つけ! 凡そ察しは付いているのであろう? それを口実に物見遊山に出掛けるつもりだろうが」



「ははは、嫌だなぁ……、そんなことはないですよ」



「ものぐさなお前が国境を巡回して視察を終えてすぐ、自主的に遠路北への視察を申し出るなどと、そもそも可笑しな話ではないか」



そう言うとグラートは大きなため息をついた。

どうせ何だかんだ理由を付けて、ジークハルトが動くことは目に見えていた。



「で、肝心の国境の様子はどうか?」



彼の言う国境とは、北の国境ではない。

南側一帯、帝国の新領土に広がるスーラ公国、及びターンコート王国との国境だ。



「防衛拠点からエンデに通じる街道の整備、それらに狼煙台を設置した連絡、諜報網の整備など、最低限必要な手配は済んでいますよ。侵攻してきた敵軍を要所要所で反撃しつつ、最終防衛拠点まで引きつけるぐらいには整えています」



「そうか……」



彼らにとって、一番頭の痛いことは戦端が開かれるまでは、守勢にならざるを得ないことだ。

帝国が新しく得た国境線は広大であり、その全てに睨みを利かせることは事実上不可能だ。


そのために、やむを得ず要所に分散して軍を派遣し、一旦は戦線を縮小して敵軍を迎え撃つ計画を立てていた。

その戦略に対応するため、ここ数か月ジークハルトは新領土の各地を巡り、防衛線の構築に走り回っていたのだった。



「我らの手持ち兵力は、今はなんとか五万というところですからね」



「まぁ、北から大きくこちらに振り分けれたのは幸いだったな」



タクヒールが睨みを利かせてくれていますからね。それに子爵ドゥルールの元にもスーラ公国から転向した兵が5,000、これでなんとか対応してくれるでしょう」



「しかし子爵も思い切ったことをしたな。北にいる帝国出身の兵はたった1,000名、後は皆転向者ばかりだろう」



「ですがスーラ公国と戦うとなると、彼らも戸惑いましょう。ですが帝国の反乱軍相手なら、我々すら苦戦させた実力を存分に発揮してくれるでしょう。それに……」



そう言いつつジークハルトは少し苦笑した。



「彼らは子爵に心酔しています。少し変わった男ですが、兵たちの統率も問題ないでしょう」



「で、お前はいつ頃だと見ている?」



「そうですね……、まだ……、少なくとも半年は何も動けないでしょうね。

時折り帝都の外れにある離宮に集まり、無い知恵を絞っているようですが、そもそも彼らには、資金も商人たちの後ろ盾もありませんからね」



「ははは、お前の言う通りになっているからな。

北の領地を譲ったことで、我らは全力を南に振り向けることができ、奴の身代金で支持者たちの懐は空になっているからな。

肝心の商人たちも、北の開発景気に乗り遅れないよう、商売に勤しんでいるため、奴らの甘言に乗る余裕もなかろう」



そう、以前からジークハルトは、今日の状況を予想して『絵を描き』、そのための手段として第一皇子の返還交渉に臨んでいたのだ。



「そういうことです。まぁ彼方も、そう簡単には動けないでしょうね。

ましてその意図を悟られないよう、当面は大人しくしていると思いますよ」



「それであの二国は我慢できるのか?」



「せざるを得ないでしょう。我々はこちらに五万の軍勢を展開しました。

それぞれ各個に攻め寄せれば、痛い目を見て撃退されることは承知の上ですから。ただ……」



「どうした?」



「いくら阿呆でも、この程度のことは理解しているはずです。

何かもう一手、我々が予想もしない手を打ってくるはずです。そこがまだ見えないんですよね」



「スーラ公国は恐らく3万から4万というところか? ターンコート王国は2万から3万……」



「阿呆はせいぜい搔き集めて1万から2万というところでしょうね」



「それでは最悪、俺たちの倍近い軍勢に囲まれることになるぞ?」



「もし仮に、その三軍を統括する者がいて、一糸乱れず連携して襲ってくれば、殿下は窮地に立たされることになるでしょうね」



「お前も含めて、な」



「ですが新領土は広大です。まして思惑も指揮者も、そして所属する国もバラバラな三軍など、恐れる必要はないでしょう。包囲される前に各個撃破すれば良いのです」



「そんなに上手くいくか?」



「我々は内線の優位にあります。その為に狼煙台を新たに整備しました。そして、全兵士に馬も配備しています。

敵の侵攻ルートと到達時間を見据えつつ、一箇所に全軍の兵を振り分ければ良いのです。

そうすれば我らは、どの戦線でも数で圧倒的優位に戦えますからね」



「では俺は、優秀な軍師殿の采配に期待するとしようか」



「所で……、僕とは入れ替わりに最前線を回り、全軍を慰撫している筈の殿下が、何故ここエンデにいらっしゃるのですか?」



「ははは、生真面目な第三皇子殿下は今も前線を回り、将兵たちを慰撫しているぞ。

最近は少々無口な男らしいがな」



そう言って当の本人は大きく笑った。

この不思議な物言いを、ジークハルトは正確に理解していた。



「クラリス殿も良い物をくださったわ。

あれを纏っておれば誰もが俺と思い、疑念に思うことはないだろうからな」



そう、グラートは家宝として大切にしている、クリムトの鎧に相応しい頬当てを新調し、それを一時的に臣下の男に貸し与えていた。


まさか第三皇子がほどの身分の者が、家宝としている鎧を他人に使用させるとは誰も思わないだろう。

その思い込みが、彼らに敵対する陣営だけでなく、味方すら欺いていた。



「それで良いのですか?」



「もちろん、俺が戦場に出るときは取り上げるさ。

だが、今はまだ使いどころがないだろう? ならば有効的に活用するまでだ」



「ふふふ、殿下のそういう皇族らしくないところが、僕は面白いと思いますよ」



「ふん、お前に褒められるなど、気味が悪いわ」



「酷いなぁ、僕は殿下の忠臣ですよ」



「そういうことにしておいてやる。

所で彼から、お前宛に書状が届いておるぞ。使者の話を聞いて、見せたくは無かったが……。

先ほどの疑問に対する答えにもなろう」



そう言ってグラートは、厳重に封の施してあった書状と封印のない書状、二通をジークハルトに差し出した。


ジークハルトはまず、封印されていた書状に目を通すと、不敵な笑みを浮かべた。



「なるほどね。イストリア皇王国……、そういうことか……。

タクヒール殿は以前の恩を返してくれたということかな?」



そう、ジークハルトは過去、言外にカイル王国包囲網、周囲の四方向から攻め寄せられる可能性をタクヒールに伝えていた。

そして今、彼らにも四方向から侵攻を受ける可能性があることが示唆されたのだ。



「殿下はこの内容を?」



「使者からは大まかにな。詳細は書状に記してあると言われ、使者も詳しい内容は知らんようだったが……」



「まぁ以前の約束通り、彼らは公国と僕や叔父上の領地を守るよう動いてくれるでしょう。

どうやらそこで口火が切られるようですね」



「我らも知らぬ振りをして、慌てて北側に軍を返す振りをしていれば良いのだな?」



「はい、段取りを含めて、やはり一度彼方には行っておく必要があるようですね。

交易として求められた大量の農作物もありますし」



そう言いながらジークハルトは、満面の笑顔で二通目の書状を見つめていた。

もう居ても立っても居られない様子で……



「ちっ、格好の口実を与えてしまったか。まぁこの際だから仕方がない。

許可をするが往復の行程を含め……、一か月だ! それ以上は許さんからな。

それともう一つ……、条件がある」



そう言ってグラートは、神妙な面持ちでジークハルトに許可するに当たっての条件を告げた。



「げっ……。言わせていただきますが、何があっても僕は知りませんよ」



ジークハルトはただ一言、そう答えただけだった。

それに対し、第三皇子たるグラートは、満面の笑みを浮かべていたという。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

昨日三巻の情報が解禁となりました。

近日中に活動報告に詳細を掲載させていただきますが、先ずはここまで支えていただいた皆さまに御礼申し上げます。

(追記)5/29 活動報告(第三巻のお知らせ)を更新しました

三巻は八月十日販売開始で、toブックス公式サイトなどで予約受付中です。

どうぞよろしくお願いいたします。


次回は『新領土収穫祭』を投稿予定です。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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