船旅 1
船が進むように、帆に風魔法を当てる。ゆっくりと船は進み、やがて一定のスピードになる。
振り返ると、エレインが小さく見えた。
「おーい!もういいぜ?」
ルーナは、デッキから飛び降りた。
「心臓に悪いな。飛べるって分かってても、出来れば縄梯子使ってくれ」
「あうー、そっちの方が怖いです」
「あ?縄梯子が怖いのか?」
「だって揺れるし」
「はぁ…あー、分かった。好きにしてくれ」
マストに寄りかかるようにして、コハクがぐったりしている。
「コハク、もしかして船酔い?」
「うう…情けないわ…これしきの揺れで」
「コハクは常態異常耐性持ってないもんね。影に入る?」
「いいえ…どうせならここで耐えて、耐性をとって見せるわ…うう」
「無理しなくていいのに」
あ、きらきらが。ルーナはクリーンをかけた。
(ねーね、応援する?)
(要らないわよ!)
「もー、ヒスイに当たっちゃだめじゃん」
(うう…お願い、少しそっとしておいて)
「ここにお水だけ置いておくね」
祝福で常態異常無効あげてもいいんだけどな。
サファイアが足元にすり寄ってくる。
もふもふと戯れながら、ヒスイが光魔法を練習しているのを見る。元々魔法系のヒスイも全魔法適性をもらい、さらに魔法で活躍できるように頑張っているようだ。
〈飛んで行った方が早かったのでは?〉
「まあ、そうなんだけどね、普通の旅を楽しむのもいいかなって」
潮風が気持ちいい。
「コハク、船室に行く?」
(ワタシはもう少しここにいるわ。行ってていいわよ)
(コハクがここがいいならもう少しいるよ)
そのうち、コハクも持ち直した。見ると、常態異常耐性が取れたようだ。
「よかったね!」
(良かったけど、みっともない所見せちゃったわね)
別に気にしてないんだけど、コハクって変な所で拘るよね。今は大丈夫になったけど、女装の時とか。
「鳥山が見えるぞー!」
「よし!漁の用意だ!」
おお!この船は漁もやるのか!只の客船じゃなかったんだな。
あ!あれはオーマノマグロ!是非とも複製させて貰おう!
「嬢ちゃん、雷を頼む!」
ショックで麻痺させるんだね!オッケー!美味しいマグロの為に一肌脱ごうじゃないの!
3メートル位の物を複製させて貰った。切り身はあるけど、こっちの方が断然いい!
引き上げられたらマグロ達を氷漬けにしてやる。
その日の夕食は、刺身かと思ったらマグロカツだった。ソースを出してかけたら、周りの人たちも欲しがったので、あげた。一応ボルドーの街で流行っている事を伝えた。
マヨネーズは卵使うから長持ちしないけど、ソースならいいよね。
部屋に戻って眷族達にもご飯をあげた。オニキスは一緒に食べたけど、さすがに動物を食堂に入れる訳にいかないからね。
船が、モートンの港に着いた。まだ午前中の内なので、出発は明日の朝になるそうだ。
小さな島が集まってできている国で、特産品は、織物だ。大きなラグが売っていたので、買う事にした。南国風の、涼しげなデザインだ。これを四枚に複製して錬金術でつなぎ合わせれば、オニキスの寝床に敷く事ができる。
オニキスは要らないって言ってたけど、薄暗い中でぽつんといるオニキスが、可哀想に思えたのだ。
〈気を使わせてしまって申し訳ありません、主〉
「気にしないで、オニキスにはいつもお世話になっているし」
〈私はただ、主の役に立ちたいだけなのです。それは私の我が儘なので〉
「なら、これも一緒。コーディネートなの」
〈主…〉
抱き上げられて、抱きしめられてしまった。大げさなんだから。
後は特に気になる物はなかったので、とりあえずゲートポイントを設置して、夕食に揚げた魚料理を食べた。顔が怖い魚だったけど、美味しかった。
寝過ごしたら大変だから船で寝ようと思ったら、コハクが嫌がった。揺れない所で寝たいらしい。
なら、亜空間の部屋でみんなで一緒に寝る?と聞いたら、これには大賛成だった。
船の寝床はハンモックなので、モモとヒスイしか一緒に寝られないのが不満だったらしい。
夕べはハンモック初体験だったので、そこで寝たから、他のみんなは淋しかったのだろう。
私も眷族達とくっついて寝るのは大好きなので、いつも通りだけど不満はなかった。




