畑
父様の話では、街の南西の一角を広げて大規模な畑にしたいらしい。
近くに川も流れているし、いいんじゃないかな?貯水池も作って、川まで開通すれば、水魔法を使えない人でも大丈夫だろう。
水稲程じゃないけど、陸稲にも水は結構必要なのだ。
通常のホーリーだと貫通力が強くて範囲が狭いので、ボールをイメージして範囲を大きく広げる。
一発で思ったより大穴があいてしまった。…まあ、大きい分にはいいかな?
次に川側から貯水池に向けてホーリーを打つ。使う少し前にここは開通させればいい。
あと、貯水池には柵も必要かな?今は仮で魔物が飛び込まないように土魔法で周りの土を盛り上げておく。
あとは、眷族達に適当に狩って貰った魔物を畑予定地にばらまく。
かなり広範囲なので大きく結界を張り、空から均等に100発程爆裂弾を打ち込んだ。
(うわわっ?!)
(ちょっとルーナちゃん、やり過ぎよぉ)
(ゆれたー)
スカッとしていい気分だったのに、だめかなぁ?
「な!何事ですか!」
「魔物の攻撃?この土煙が」
兵士の人達が慌てていたけど、空から手を振った。
「大丈夫でーす!畑作ってただけですから!」
結界内に水撒きの魔法を使って、土煙を落ち着かせる。
後日父様に怒られた。地震がないこの世界では、震度2位の揺れでも恐怖だったのだろう。
でも、時間かけたくなかったんだよね。土を落ち着かせる為にも1年は放っておいた方がいいだろうし。
恐怖に駆られた人達が教会に押し寄せていたので、感情操作で心を落ち着かせる。
「大丈夫ですから、怪我人じゃない人は戻りましょうね?」
首をかしげたり、なんとなくうなずきながら人々が帰っていく。
あれ?何か…!
「ええっ!増えてる…って、私?!」
神々の像に並んでいるのは、羽根の生えた幼女…私だ。
「つい先日、寄進されたんですよー。可愛いらしくて、ルミナリア様そっくりですね!」
「あの、神様の横に並べていいんですか?」
私はまだ、ただの子供って事になっているのに。
「問題ないです!聖女様ですから!」
そんな力説しないで下さい、シスター。
まあ地元だから、こんな事もあるのかもしれない。
今日は数人にヒールとキュアをかけただけだけど、疲れた。精神的に。
帰りがけに駄菓子屋さんで飴を買って、口に入れる。甘い物は落ち着くわー。
苗が育ったので、畑に植えてゆく。本当は陸稲は種籾のまま蒔いてもいいんだけど、そんなに広い畑でもないし、確実を期したのだ。
一畝分に蒔かれたカブを間引いて、畑から戻ると、シルキーがお茶を用意してくれた。眷族達用の器に魔力水を満たしてあげて、一息つく。
〈主様、冒険はよろしいのですか?〉
「今は畑が大事なの。それにお母さんが、お兄ちゃんや私の時にはなかったつわりがあるみたいだから」
つわりはヒールやキュアでは治せない。それが正常な状態なのだろうか?
〈さすが主様、お優しいのですね〉
「だって私、お姉ちゃんになるんだもん」
お母さんには甘えられないから、オニキスに抱きつく。察したオニキスが、横抱きにしてくれる。
疲れた私は、そのまま眠ってしまった。眷族に触れていると、それだけで安心できるのだ。
そんな静寂が、訪問者によって破られた。重傷患者が出たらしい。応じる謂われはないけれど、見過ごすなんて出来ないから、すぐに教会に向かった。
患者は、生きているのが不思議な位酷かった。命を繋げたのは、止血とシスターのヒールのおかげだろう。
砕けた腕はちぎれかかっているし、腹部からは内臓がはみ出している。再生を使うしかない。
エクストラキュアでお腹の部位欠損を治し、内臓には再生をかける。腕にもエクストラキュアをかけて、ちぎれた部分と骨折を治す。血液も再生させて、ルーナはやっと一息ついた。
あとは本人次第だろう。とりあえず出来る事は全てやった。
「本当に奇跡の御技をありがとうございます!聖女様!いえ、あれだけの怪我を治してしまうなんて、まさに神の奇跡です!女神様!」
彼はユグル共和国からの商人で、雇った冒険者は彼を残して全滅してしまったらしい。
「あとはゆっくり寝かせてあげて下さいね」
そして私も眠い。魔力とは関係ない神の力は、まだ慣れないせいもあって、疲れるのだ。




