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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
1章 環境改善編

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95/304

95、宿

「こちらの宿に部屋が空いているかを聞いて参ります」


 クレールさんがダスティンさんにそう声をかけてから建物の中に入っていき、数分で戻ってきた。隣には宿の従業員なのだろう男性を伴っている。


「ダスティンさん、こちらの宿で三部屋確保できましたのでよろしいでしょうか」

「もちろんだ。リューカ車の置き場もあるか?」

「はい。こちらの方がリューカ車を預かってくださいます。荷物は後で私が運びますので、そのまま降りてくださって構いません」

「分かった」


 ダスティンさんに続いて私もリューカ車を降り、三人で宿の中に入った。宿はかなり綺麗でお洒落で、良い宿なんだろうなと一目で分かる。


「いらっしゃいませ」


 中に入ると別の従業員が出迎えてくれた。とてもにこやかな壮年の男性だ。


「数日世話になる」

「かしこまりました。料金は前払いとなりますがよろしいでしょうか? 宿泊日数が確定しない場合は一泊分だけお支払いいただき、延長していくことも可能です」


 そんなことができるんだ。それってめちゃくちゃ便利だね……日本だと別の部屋に取り直しとか、空いてなかったら別のホテルを探すとかってことも多いのに。


「分かった。そうだな……三泊分は今支払おう。それ以降は延長とする」

「ありがとうございます。ではすぐに計算いたしますので少々お待ちください。お支払いはお分けいたしますか?」

「いや、まとめてで良い」


 ダスティンさんのその返答を聞くと、男性はすぐに料金表を見ながら合計金額を計算し始めた。


「ダスティンさん、私の分は支払いを分けた方が楽じゃないですか?」


 その方がお釣りをもらえるのにと思って首を傾げると、ダスティンさんは眉間に皺を寄せながら口を開いた。


「レーナに払わせるわけがないだろう?」

「……え!? 払ってくれるってことですか?」

「もちろんだ。私は子供に金を出させるほど困ってはいない」

「いや、それは分かってますけど……」


 無理言って付いてきたのに、お金も払わせるとか申し訳なさすぎるよね……でもダスティンさんの感じからして、私にお金を出させてくれそうな感じはない。


 なんか、ダスティンさんにはいつも奢ってもらってる気がする。いつか恩返しができたら良いんだけど。


「ありがとうございます。今度お礼をさせてください」


 素直にお礼を伝えると、ダスティンさんは眉間の皺をふっと消して頬を緩めた。


「私の方こそレーナに礼をしなければならないと思っているのだがな」

「……そうなのですか? 私ってダスティンさんに何かしましたっけ?」


 休日の度に工房にお邪魔してお昼ご飯をご馳走してもらったり、実験で服が汚れたからと新しい服や髪飾りをプレゼントしてもらったり、家族へのお土産に果物や持ち帰れる食事を作ってもらったり、私がしてもらったことはたくさん思い浮かぶけど……その逆は全く思いつかない。


 今までの行動を思い出して眉間に皺を寄せていると、ダスティンさんが呆れたような表情で溜息をついた。


「レーナ、もう少し自分の発想力の希少性を認識するべきだ。レーナがぽろっと溢す様々な意見は、私がいくら礼をしても足りないほどに価値があるものだぞ。今回の宿泊費なんて安いものだ」

「そうなの……ですね」


 良いアイデアにはかなりの報酬をもらっていたから、ダスティンさんが損をしてるんじゃないかって心配をしてたのに。


「アイデア料は渡しているが、レーナは明確なアイデアという形じゃなく雑談で面白い意見をくれるからな」

「とりあえず……お役に立てているのなら良かったです。ただ私じゃ活用できない発想ばかりですし、そんなに気にしないでください。あっ、でもそういうことなら、今回の宿泊費はありがたく奢ってもらいますね」


 私が奢ってもらう理由ができて笑顔でそう伝えると、ダスティンさんはなんだか微妙な表情で頷いた。


 それからはお金を払って部屋の使い方の説明を受け、一度それぞれの部屋に向かった。鍵を開けて中に入ると……その部屋の広さにかなり驚く。


 入り口の近くにはソファーセットが置かれていて、左奥にベッドがあるみたいだ。ベッド脇にも小さなテーブルと椅子が設置されている。


 下手したらうちよりも広いんじゃ……いや、さすがにそれはないと思いたい。でもスラムの小屋より広いのは確実だ。


「レーナ、夕食まで時間があるから街を散策するぞ」


 部屋の中を見て回っているとノックの後にダスティンさんの声が聞こえたので、私は慌てて鞄を持ってドアを開けた。


「お待たせしました。部屋、凄く広くて豪華ですね」

「……そうか?」


 ダスティンさんは本心で豪華だとは思えないようで、困惑している様子で首を傾げる。ダスティンさんって、どんなお金持ちの実家があるんだろう。この部屋が豪華じゃないとか。


「確かに狭くはないな」


 私はダスティンさんに共感を求めることは諦めて、その言葉に頷いて部屋から出た。


「街に行きましょう。散策するの楽しみです」

「とりあえず魔物素材の臨時市場を見に行こうと思う。それが終わったら観光もだな」

「え、もう市場があるんですか?」

「素材があるかは分からないが、市場自体は作られているはずだ」

「そうなのですね。では早く行きましょう」


 私はうきうきと心躍る気持ちをそのままに、大きく一歩を踏み出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私が子供の頃はまだホテルなんてのは一流企業のお偉いさんが泊まるようなホテルしかなかったので旅館でした。バブル期前くらいの時代じゃないですかね?安価で「素泊まり」ができる個室なビジネスホテルが…
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