表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
1章 環境改善編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/304

88、飛行の魔道具

 エミリーたちが訪ねに来てくれて、私が十一歳になった水の月はあっという間に過ぎ去り、今は風の月の初めだ。

 家族皆は街中での生活に完全に慣れたようで、もう一人でも危なげなく出掛けられる。お父さんとお母さんの屋台はそこそこ繁盛しているし、お兄ちゃんも毎日楽しそうに職場へと向かっていて順調な毎日だ。


 もちろん私の仕事も大きな問題はなく、毎日こなせている。最近は店舗に出ることも増えたので少し忙しいけど、やりがいがあって楽しい日々だ。

 リューカ車で遠くへの配達を任せられることもあり、街中の地理は前よりもかなり詳しくなった。


「ダスティンさん、おはようございます」


 今日は十日に一度の休日で、ダスティンさんの工房にやってきている。他に予定がある時以外の休日はダスティンさんの工房に入り浸っているのは相変わらずで、ダスティンさんとはかなり仲良く……なれた気がしなくもない。


「鍵は空いている」

「分かりました。失礼しまーす」


 玄関ドアを開けて中に入ると、ダスティンさんは既に工房にいるみたいだった。リビングを突っ切って工房に足を踏み入れると……そこには、見慣れない素材がいくつも並べられていた。


「今日は洗浄の魔道具の開発じゃないんですか?」


 洗浄の魔道具はとりあえず形になったんだけど、ダスティンさんはやっぱり全種類の魔石を組み込んだ形で完成させたいみたいで、最近は工房を何度もぐちゃぐちゃにしながら開発に励んでいたのだ。


「ああ、あれは現段階では不可能だと判断した。何かもっと別のアプローチが必要だと推測される」

「確かに、成功しそうな気配すらなかったですもんね」


 私のその言葉にダスティンさんは少しだけ悔しそうな表情を浮かべたけれど、すぐに切り替えてテーブルにたくさん並べられた素材と魔道具の設計図のようなものを指し示した。


「今はまた別の魔道具開発を始めているところだ。実はこの魔道具はもう何年も考えているのだが、全く開発の糸口が掴めなくてな。しかし私も成長した。今回こそは成功させるつもりだ」


 何年も考えて開発の糸口すら掴めないなんて、ちょっと興味を惹かれる。どういう用途の魔道具なんだろう。


「設計図を見ても良いですか?」

「もちろん良いぞ。何か意見があったら言ってくれ。レーナの発想力には目を見張るものがあるからな」

「ありがとうございます」


 設計図に描かれていたのは、何かの円盤に一本の棒が立てられているものだった。絵だけでは全く魔道具の用途が分からず隣に書かれた文字を読んでみると……そこには、飛行の魔道具と書いてある。


 もしかして……飛行機とかヘリコプターとか、空を飛ぶものを作ろうとしてる?


「レーナは飛行魔法について知ってるよな?」

「はい。風の女神様の加護を持つ人が、稀に使いこなせる魔法ですよね」

「そうだ。しかし使いこなせるとは言ってもジャンプ力が高まり着地までの時間を延ばせるとか、走る時に少しの時間だけ浮くことができて早い速度で移動できるとか、その程度のものだ。しかし中にはな……空を飛べるほどに使いこなせる者もいるのだ。まあ国に数えられるほどしかいないレベルなのだが」


 飛行魔法で空は飛べないっていうのが常識だと思ってたけど、ごく一部の人は飛べるのか。それは……かなりロマンがある。風の女神様から加護を得たいなと思うほどに胸が高鳴る情報だ。


「凄いですね。そんなことができたら楽しそうです」

「そうだろう? だから私は魔道具を使って、誰でも空を飛べるようにしたいと思っている」


 そう言ったダスティンさんの瞳は、キラキラと少年のような輝きを放っていた。


「とても素敵だと思います。私も頑張って考えますね!」

「ああ、ありがとう。今の段階で何か思うことはないか? なんでも良いから言ってくれ」

「分かりました。……ではまず、なぜこの形なのでしょうか? もっと別の形ではダメなのですか?」


 私が円盤に棒が取り付けられたイラストを指差して首を傾げると、この形には一応意味があるのかダスティンさんはすぐに口を開いた。


「それは空を飛べる飛行魔法の使い手が使っていた物を参考にしている」

「え、会ったことがあるのですか!?」

「昔な。……ただ遠くから見たことがある程度だ」


 ダスティンさんって本当に不思議だよね……思わぬ経験や人脈があって、それに驚くことが頻繁にある。よほど実家がお金持ちなんだろうな。経験を得るのにもお金って必要だから。


「その人は、この円盤に乗って飛んでいたんですか?」

「そうだ。円盤部分に足を乗せて、棒を持ってバランスを取っていた」

「そうなのですね……」


 実際に空を飛んでる人がこの形で飛べてるのだから、この世界ではこれが正解なのだろうか。でも私にはどうしても、これで飛べる想像ができない。


「この形で魔道具を試作してるんですよね?」

「ああ、何度もな」

「結果はどうだったのでしょうか?」

「……全く飛ばないか、制御不能になるかの二択だ」


 それは……やっぱりこの形がダメなんじゃないかな。

 そもそも飛行魔法って風を操って体を浮かす魔法だよね。それなら地球にあった空を飛ぶものと、そこまで大きく違うことはない気がする。


「ダスティンさん、前に見たという飛行魔法の使い手の方が飛んでいる時、その人の下方には強風が吹き荒れていたでしょうか」

「ああ、飛び立つ場所の周囲は立ち入り禁止になっていたな」


 ということは、やっぱりこの世界でも風を上手く使って空を飛ぶのだろう。そうなるとこの形は非効率なはずだ。


 根拠のない私の予想だけど……その飛行魔法の使い手はよほど精霊魔法が得意で風を緻密に操れて、円盤がなくても生身の体だけで飛べるんじゃないのかな。円盤はただバランスがとりやすくなるから使ってるだけとか、そういう可能性もありそう。


 そうなるとやっぱりこの形は完全に忘れて、空を飛ぶということに適した形にするべきだと思う。私が思い浮かぶのは飛行機とかヘリコプター、パラグライダー、その辺の形だ。

 詳細な作りなんて全く分からないけど、とりあえずどういう形が飛びやすいのかってことぐらいなら伝えられるかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まぁ男の子って飛行機とか拳銃とかにロマン感じる人多いですからねぇ。かくいう私も暇を見ては空港に飛行機見に行ってました。大学生の頃2時間以上かけて自転車で行って股ずれというものを初めて経験しま…
[良い点] ダスティンは紙飛行機と竹とんぼで発狂しそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ