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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
1章 環境改善編

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70、市民権

「皆、あれが役所だよ」


 私が指差した方向に視線を向けた皆は、ポカンと口を開けて呆然と役所を見上げた。役所は縦に大きいから驚くよね。


「すげぇな」

「大きいよね。でも街中では土地が限られてるから、縦に大きな建物より横に大きい建物の方が凄いんだって」

「へぇ〜、そうなのか。この建物も十分凄いけどなぁ」


 まだ圧倒されている様子の皆を連れて役所のドアを開けると、前に私の対応をしてくれた女性がちょうど受付にいた。私はその顔を見て、安心して少し体の力を抜く。

 知ってる人で良かった……初対面の人で色々と疑われたりしたらどうしようって少し緊張してたのだ。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付に四人で向かったら、にこやかな笑みを浮かべて声を掛けてくれた。


「今日は市民権を買いに来ました。私が市民権を持っていて、この三人の分の購入です」

「かしこまりました。三名様で合計金貨三枚となりますがよろしいでしょうか?」

「大丈夫です」

「ではこちらにご記入をお願いいたします。私が代筆もできますがいかがいたしますか?」

「……ご迷惑でなければよろしくお願いします。私も書けるのですが、まだ時間がかかってしまうので」


 私のその言葉を聞いた女性は「かしこまりました」とにっこり微笑んで、書類を自分の向きに変えた。そしてペンを持ってお父さんから順番に、必要事項に関する質問をして空欄を埋めていく。

 女性の文字はとても綺麗で書くのが早くて、私は思わず見入ってしまった。こんなふうに書けるようになりたいな……これが理想だ。


「質問にお答えいただきありがとうございました。では市民権の発行までしばらくお待ちください」

「はい。代筆ありがとうございました」


 それから役所の中にあるソファーに腰掛けて皆がその座り心地の良さに感動して、次に興味が移ったのは掲示板に貼られた求人用紙だった。


「レーナ、これはなんて書かれてるんだ?」

「それは食堂で働く給仕の募集だって。人を雇いたいなって思った時に、少しお金を払えば役所に求人を出してもらえるんだよ」

「そうなのね……じゃあ私たちもここで仕事を探したら良いんじゃない?」

「確かにありだね。見てみようか」


 端から求人内容を読み上げていくと、いくつか皆に向いてそうなやつがある。


「これとか良いんじゃない? 木材加工工房が人を集めてるんだって。初心者でも良いけど長く働いてくれる人を求めてて、手先が器用な人が有利だって書いてあるよ」

「アクセルにピッタリじゃない」


 お父さんは木を切る仕事をしてたけど、木を加工するのも得意だったのだ。細かい作業ができる道具がほとんどない中で作ったカトラリーとかテーブルや椅子は、割と良い出来だった。


「応募してみるのもありなんじゃない?」

「そうだな。これっていつまでなんだ?」

「期日は一週後までだね。今日は忙しいし、また明日以降に来ようか」

「そうだな」

「レーナ、俺に向いてそうなのはあるか?」

「うーん、お兄ちゃんはまだ若いしなんでもできると思うんだよね……」


 いろんな工房からの募集が出てるから、この中ならどれを選んでも良いんじゃないかな。役所の受付とか高級店の店員とか、そういうのは無理だろうけど。


「木材を扱う工房はこの辺で、金属加工はこの辺。荷運びの仕事の募集とかもあるよ。この辺は食堂かな」

「色々あるんだなぁ」

「ゆっくり考えたら良いよ。そこまで急がなくても良いんだし」

「そうだな」


 そこまで話をしたところで受付の女性から声をかけられたので、私たちは受付に向かって市民権を受け取った。これで家族全員が正式にこの国の平民だ……!


 役所を後にした私たちは、四人で顔を見合わせあって満面の笑みを浮かべた。


「レーナ、ありがとな!」

「わっ、お父さん、突然は驚くよ!」


 お父さんにぐいっと抱き上げられて、急に目線が高くなる。街の中をこの高さから見たのは初めてだ。


「はははっ、ごめんごめん。嬉しくてな」

「私たちもここに住めるのね」

「嬉しいな!」


 それから私たちは人目も憚らずに喜び合って、これから住む部屋に向かって一歩を踏み出した。


「部屋はこっちにあるのね?」

「うん。ロペス商会から結構近い場所なんだよ。大通りを入ってすぐのところだから、治安もかなり良いと思う」


 役所まで歩いてきた大通りをそのまま戻って、目印のおしゃれなカフェがある場所から路地に入る。そして少し先に進むと……これから私たちが住むことになる建物が見えてきた。


「あの建物だよ」

「あ、あんなに大きくて凄い建物に住めるのか!?」

「そうだよ。でも建物全てじゃなくて、三階にある一部屋だけね」

「それでも凄いな」

「本当ね……こんな場所に住める人生だなんて、少し前までまったく想像もしてなかったわ」


 皆が感動しながら建物を見上げていると、ちょうどコームさんが建物から出てきたようで、私に気づくと頭を下げてくれた。


「コームさん、お待たせしてしまいましたか?」

「いえ、私も少し前に来たところでございます」

「それなら良かったです。では家族を紹介させてください。こちら父と母、それから兄です」


 皆を手のひらで示しながら紹介すると、コームさんは三人の顔を順番に見回してから頭を下げた。


「初めまして。コームと申します。レーナ様にお部屋をご紹介させていただきました。よろしくお願いいたします」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします。ルビナです」

「アクセル、です」

「ラルスです」


 皆は緊張の面持ちで、しかしちゃんと覚えた丁寧語を使って挨拶をした。それを聞いたコームさんは、僅かに瞳を見開いてからにっこりと微笑む。スラム街出身の家族が丁寧語を使えることに驚いたのだろう。


「ご丁寧にありがとうございます。管理者を紹介させていただきますので、こちらへお越しください」


 コームさんによって促された私たちは、管理人の夫婦がいる管理人室に入った。

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