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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
1章 環境改善編

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55、ケーキと染色の魔道具

 オレンジ色の綺麗なクリームと薄ピンク色のメーリクという花びら。そこにフォークを差し込むと、メーリクはスポンジケーキとほぼ同じ感触だった。

 まずは香りをと思って手で仰いでみると、蜂蜜みたいな甘い香りと、さっぱりとした柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。


 期待して口に入れると……滑らかなクリームと、爽やかな柑橘系の美味しさを感じ取ることができた。しかし数回咀嚼すると、メーリクから濃厚な甘味が溢れ出てくる。

 爽やかな甘みからの濃厚なまったりとした甘み、そのバランスが絶妙だ。メーリクは日本にあったものに例えると蜂蜜のケーキ、ミルカのクリームは蜜柑のクリームって感じかな。


「凄く美味しいです。美味しすぎます」

「そうだろう? メーリクはミルカのクリームとよく合うんだ」

「ダスティンさんは甘いものもお好きなんですね」

「……まあ、嫌いではない」

 

 ――これは相当好きだな。ダスティンさんに手土産を持っていく時には、甘いものにしよう。


 それからもメーリクを堪能してハク茶で口の中をさっぱりとさせて、幸せな気分でカフェを後にした。


「ダスティンさん、とても美味しかったです。奢ってくださってありがとうございます」

「気にするな。じゃあ工房に戻るぞ」

「はい!」


 工房に戻った私はダスティンさんに部屋を借りて、新しい服を汚さないようにとすぐスラムのワンピースに着替えた。

 この工房の酷い惨状を何度も見てる私としては、あの服を着てここにいるのは集中できないのだ。


「レーナはまだここにいるか?」

「そうですね……もう少しだけいても良いですか? あと一刻ぐらいで帰ります」

「分かった。ではそれまでの間に、染色の魔道具について意見を聞かせてくれないか? 洗浄の方は私が試作をしてみなければ、改良はできないからな」

「もちろんです」


 染色の魔道具の改良とか楽しそうだ。可愛い絵柄を服にプリントできるようなものとか作れたら、布を売ってるお店や服を仕立てる人たちに売れそうだよね。


 そういえば……この国って印刷技術はどうなってるんだろう。ロペス商会には書類の他にも本が置かれてたけど。


「あの、本ってありますよね? あれって全部手書きなんでしょうか?」

「……突然だな。本は手書きのものもあるが、今は印刷されたものが多いはずだ。それがどうかしたか?」

「その印刷ってやつは、同じものをいくつも……作れる? 技術ですか?」

「まあ、そういう技術だな。正確には決められた文言を印字し、全く同じ文言が書かれた紙を量産できるものだ」


 もんごん? いんじ? と分からない単語ばかりでどこから聞けば良いのかと混乱していたら、ダスティンさんが紙にイラストを描いて詳しく説明してくれた。

 ダスティンさん……マジで神! こういう人は今の私にとって、本当にありがたい存在だ。


「ありがとうございます。印刷をするには魔道具を使うんですか? それ以外のものですか?」

「もちろん魔道具だ。いくつもの魔石と魔法を組み合わせて、比較的最近に開発されたものだな」


 やっぱり魔道具なんだ。魔道具って凄いな……開発は大変だけど、一度良いものが作れたら一気に生活が豊かになる。

 この国は私が思ってる以上に魔道具で発展してるよね。


「ではその印刷の技術を、染色の魔道具に応用できないのでしょうか? 例えば綺麗なお花のイラストを布に印字するとか」

「――ほう。確かに一考の余地はあるな。さすがレーナだ」


 ダスティンさんは私の意見を聞いて楽しそうに瞳の奥を光らせると、真っ白な紙にペンを持って向き直った。思いついた事柄をメモしておくらしい。


「印刷機のように決められた模様に染める魔道具か……問題は模様に染めるとなれば、さまざまな色が必要になることだな。印刷機は色を極力減らすことで実現可能になっている。だからといって単色に染めるだけでは、そこまでの利便性はない。染色工房もあるからな……」


 真剣な表情で紙にメモしながら呟いている内容を聞いていると、とても勉強になる。この国の印刷の魔道具は単色はできるけど、カラフルにはできないみたいだ。

 一色に染めるのだと、魔道具じゃなくて人の手で染めた方が良いってなるよね……魔道具は高いものだから、簡単に人の手で代替えできるようなものはあまり売れないだろう。


 ――ん? なんか今、良いことを思いついた気がする。


 私の腕にある市民権って、魔道具だって話だったよね。しかも半年で自然に消えるタイプの……!


 この魔道具の技術を応用すれば、一日だけ色が染められる魔道具とか作れないのかな。それが作れたら貴族にかなり売れる気がする。その日の気分によって服の色を変えられるとか、考えるだけで心が浮き立つよね!


「ダスティンさん! 良いことを思いつきました!」


 早くこの考えを話したいと思って前のめりで宣言すると、ダスティンさんはペンを動かす手を止めて、こちらに視線を向けてくれた。

 私はそんなダスティンさんの目の前に、ワンピースの袖を捲って腕をずいっと突き出す。


「これ! この市民権を印字する技術って応用できませんか? これで一日だけ服の色が変えられるような魔道具を作るんです。それなら単色でも十分だと思います!」


 良いことを思いついたと上がったテンションのまま一息にそう告げると、ダスティンさんは私の言葉を聞いて何度か瞳を瞬かせ、それからニヤッと笑みを浮かべた。


「レーナ、それは素晴らしい考えだ。それなら貴族は確実に食いつく。さすがだな」


 ダスティンさんは珍しく満面の笑みを浮かべて、私の頭をぐしゃぐしゃっと撫でてくれた。


「ちょっと、髪型が崩れます!」

「よしっ、レーナ。どういう魔法と魔石を使えば実現できるのか考えるぞ」


 もうダスティンさんに私の文句は届いていないらしい。瞳を子供のように輝かせて、魔石を棚から引っ張り出している。


「分かりました。ただ私に技術的なアドバイスはできないですからね」

「それで構わん。それを差し引いても、レーナのアイデアは素晴らしいからな」


 それから私はそろそろ暗くなり始めるという時間まで、ダスティンさんの魔道具開発を横で見ていた。かなり難しかったけど、凄く楽しい時間だった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  活版印刷を調べられたってことは、すでにご存知かもとは思っとりますが。  現代日本の印刷機の主流……と言っていいのかわかりませんが、輪転機等にも使われるオフセット印刷ですね。  大きな判子を…
[良い点] 一気に全話読ませていただきました。 やはり着眼点が面白いです(╹◡╹) 主人公の目線での生活感が素晴らしいです。 私達読み手は日本語で読んでしまいますが、当人は その世界の言葉で会話し…
[一言] 以前、タイプライターの実物を見たことがないとおっしゃっておりましたので、ちょいと小噺と言う名の蛇足を(笑) 私が社会人になりたての頃はワープロ専用機が主流の文字の印刷方法だったのですが、その…
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