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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
1章 環境改善編

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54、美味しい料理

 ダスティンさんの様子をチラッと伺うと、ナイフとフォークの使い方は日本と変わらないようだ。

 さらにこういうちゃんとしたお店では食前に何か挨拶をしたりするかもと思ったけど、そういう決まりもないらしい。


 私はそれを確認し安心してから、ダスティンさんの真似をしてカッチェの中にあるお肉を切り分けた。


「カトラリーを使えるのか」

「まだぎこちないですが、使い方は商会で教えていただきました」


 ジャックさんに雑談の中で聞いただけなんだけど、まあ嘘は言ってない。


「そうか。もう少し肩の力を抜いて、脇を締めて使うと上手く使えるし綺麗に見える」

「……こうでしょうか?」

「そうだ。さっきより良くなった」

「ありがとうございます」


 カトラリーの使い方と綺麗な見せ方なんて、瀬名風花の記憶も合わせて初めて習ったよ。日本は箸の文化だから、あんまりナイフとフォークの使い方を覚える機会ってないよね。


「このお肉ってなんでしょうか?」

「これはハルーツの胸肉だな。ミリテを元にして作ったソースでハルーツの胸肉を煮込み、最後に削ったナルを好みでかけて食べるのがカッチェという料理だ」


 ダスティンさんのその説明を聞いたところでちょうど肉が綺麗に切れたので、私は一口分のお肉をフォークで刺して、ソースが垂れないように口に運んだ。

 そして数回咀嚼すると……その肉の柔らかさと、何よりもソースの濃厚さに驚く。


「これ、美味しすぎます……!」

「そうだろう? 私もカッチェは大好物だ」


 ハルーツの胸肉は鶏肉みたいな味と食感なんだけど、そんなお肉にミリテの旨みが染み込んでいて、噛めば噛むほどに旨みが溢れ出てくる。

 ソースはミリテを元に作ってるだけあって、トマトソースに似ている。でもそれよりももっと濃厚で水分が少ないソースだ。


 そして最後にかけてもらったナル。これ、パルメザンチーズに似てる気がする! ちょっと癖が強めの粉チーズって感じだ。


「ナルも気に入りました」

「ほう、その歳でこれが好きだとは見込みがある」


 ダスティンさんは私の言葉を聞いて、楽しそうにそう言った。子供はあんまり好まない味なのか……確かに日本にあった子供も好きな粉チーズと比べると、癖が強いもんね。

 カマンベールチーズとか、ゴルゴンゾーラチーズとか、好きな人はめちゃくちゃ好きだけど、苦手な人も多い種類のチーズに似た味がするのだ。ちなみに瀬名風花は、癖が強いチーズが大好きだった。だからこのナルも好きなのかもしれない。


 チーズさえあればワインを何杯でもいけるんだよね……たまの贅沢に休日前夜、ワインを開けておつまみに高いチーズを買ってきて、幸せな時間だった。

 そういえばこの国ってお酒はあるのかな。スラム街では全く見なかったけど、あるなら大人になったら飲んでみたいな。


「ラスタと一緒に食べても美味いぞ」

「やってみます」


 小さめにお肉を切って口に入れ、その後すぐにラスタを口に入れると……うん、最高に合う。やっぱりラスタって、こうして炊かれてるとお米に似てるね。

 日本人の私としてはお米が大好きだったから、似たものがあって良かった。


「ダスティンさん、最高に美味しいです。素敵なカフェを紹介してくれてありがとうございます」

「別に構わない。美味いものは共有した方が良いからな」


 そう言って横を向いてしまったダスティンさんの耳が少しだけ赤いような気がして……私は思わず凝視してしまった。もしかして照れてる!? めっちゃ珍しいんだけど!


「ダスティンさんって、意外と分かりやすいですよね。最初はもっと取っ付きにくい人かと思ってました」

「……私のことをそんなふうにいう人は少ない。レーナが特殊なんじゃないか?」

「そうじゃないと思いますけど……」

 

 でも確かに、最初に仲良くなるハードルを越えないと、神経質そうで近寄りがたいなで終わっちゃうのかもしれない。私はその最初の壁は、私が時計を見てやらかしたことで半強制的に乗り越えたからね。


 それからカッチェを食べ切って一息ついていると、店員さんによってお皿が下げられて、食後のデザートと飲み物が運ばれてきた。

 飲み物はお馴染みのハク茶のようで、それと一緒に運ばれてきたのが……私が聞いたことのなかった名前の、甘いものみたいだ。


「こちらはミルカのメーリクでございます」


 そうそう、そんな名前だった。見た目は薄いピンク色のスポンジケーキ? みたいなやつにオレンジ色のクリームが掛かっている。


「ダスティンさん、これってどういうものですか?」

「これはメーリクという花の花びらだ」

「花びら!?」


 私は予想外の答えに思わず叫んでしまい、慌てて口を手で押さえた。


「すみません……びっくりして」

「これから気をつければ良い。確かにスラムでは手に入らないだろうからな」

「はい。森にもないと思うのですが……」

「王都よりもう少し暖かい地域でないと育たないのだ。それにこれは品種改良した結果できたものだから、人の手がなければ絶えてしまう」

「ひんしゅかいりょう、とはなんですか?」

「……植物の成り立ちを弄るというか、人の手によって人工的に植物を掛け合わせたり、そういう行いを品種改良と言う」


 ああ、品種改良ね! この国でも行われてるんだ。

 確かに植物魔法とかあるし、日本よりも活発に行われててもおかしくないよね。


「王都周辺の森にはないということが分かりました」

「ああ、少なくともそこにはないな。ちなみに上にかかっているオレンジ色のクリームは、ミルカという果物で味付けがされている。クリームとはミルクを泡立てたものだな。まあとりあえず、食べてみると良い。美味いぞ」


 私はその言葉を聞いて、深くは考えず食べてみることに決めた。

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