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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
1章 環境改善編

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49、レーナの噂話(三人称視点)

 レーナたち家族が所属している地域の一つ隣の調理場で、大勢の奥様方が集まり、夕食作りを始めながら噂話に興じている。話題はもちろん……レーナについてだ。

 レーナはあの歳で市場のお店に雇われたとあってかなり注目を浴びていたが、ここ最近はさらに街中へ毎日通って仕事をしているということで、スラム街に衝撃が走った。


「ちょっとサビーヌ、どういうことなのか説明しなさいよ」

「そうよそうよ。なんで十歳のスラムの子供が、市民権を得て街中で働けるのよ」


 サビーヌは隣の地域の知り合いに強引に連れてこられたようで、困惑の表情で口を開いた。


「私もよく知らないのよ。確か計算の才能があったからって話だったけど」

「計算って……銅貨五枚と銅貨三枚の物を買ったら、合計は銅貨七枚になるとかっていう、お金を足すやつよね?」

「そうだけど違うわ。銅貨七枚じゃなくて八枚よ」

「あら、間違えたかしら」


 計算が苦手な女性の言葉にサビーヌは「はぁ……」と深く息を吐き出し、レーナの母であるルビナから聞いた話を聞かせることにした。


「例えばだけど、銅貨五枚の物を一つに銅貨八枚の物を三つ、さらに小銅貨九枚のものを五つ。これを全て足したらいくらになるか……すぐに計算できる?」

「……そんなの無理に決まってるじゃない。この場にお金があればできるけど」

「普通はそうよね。でもレーナは頭の中で考えてすぐに答えが出せるんですって。もっと難しくても個数が多くても、地面に何個か数字を書くだけですぐに答えを出せるのよ。その計算の才能が目に止まって雇われたらしいわ」


 サビーヌのその言葉を聞いて、話に聞き耳を立てていた女性たち、さらには子供たちまでもがあり得ないと困惑の表情を浮かべた。


「レーナって十歳よね? うちの娘は計算なんてできないわよ」

「なんでそんなことができるのかしら」

「あれじゃない、確かレーナって……」


 一人の女性が意味深にそう告げると、何を言いたいのか分かったのか他の女性たちが頷いて賛同を示した。


「もしかしたら良い血筋なのかも」

「ちょっと、そのことは話しちゃダメって決まりじゃない!」

「でもここにレーナはいないし……」

「ダメよっ、子供達がいるでしょ!」


 サビーヌのその言葉によってやっと周囲の様子が目に入ったのか、女性は慌てて口をつぐんだ。


「ごめんなさい。話に夢中になっちゃって」

「気をつけてよね」

「分かったわ。……ねぇサビーヌ、レーナはたくさんお金をもらってるのかしら。街中で仕事をしてるんでしょ?」

「さあ。私は知らないけど……子供がそんなにもらえないんじゃないかしら。ルビナは今まで通り畑で野菜を作って、アクセルも毎日森に行ってるもの。食事も焼きポーツしか食べてないし、布団はボロボロのままだわ」


 街中で雇われて裕福な生活ができている話を期待していた女性たちは、がっかりしたように身を乗り出していた体を引いた。


「なんだ、そうなの」

「レーナはまだ子供だもの。子供にそんなお金を払わないでしょ」

「確かにそうよね……なんだ、余裕があるならちょっと野菜を分けてもらおうと思ったのに」

「あんまり期待しない方が良いわよ」


 サビーヌは嘘は言ってないけれど、大袈裟に大したことがないということを皆に伝えるように話をした。サビーヌは友達思いのとても良い女性なのだ。レーナのことも実の娘のように思っている。


「つまらないわねぇ〜」

「でもスラム街に生まれても、街中で雇ってもらえるっていうのが分かっただけ良いじゃない」

「それはそうだけど……才能があってこそでしょう?」

「まあそれは仕方ないわよ。これから子供たちには計算を重点的に教えたら良いんじゃない?」

「確かにそうね。うちの子はまだ小さいから今からやったら街中で雇われるかしら」

「可能性はあるんじゃないの」


 女性たちのそんな会話を近くで聞いていた子供たちは、全員が嫌そうな表情を浮かべている。生活に必要だからお金の計算は頑張って覚えるけど、仕事で計算を使うのは嫌なのだ。


「お母さん、そろそろ夜ご飯になるよー?」


 女性たちの中身があるような無いような、そんな会話がそれからも続いていると、エミリーがサビーヌを呼びに来た。サビーヌはやっと帰れると頬を緩めて女性たちに挨拶をする。


「エミリーが呼んでるから帰るわね」

「分かったわ。今日はありがとね」

「良いのよ。じゃあまたね」


 にこやかな笑みを浮かべて女性たちと別れてから、エミリーと共に自分たちの調理場に向かったサビーヌは、さっきの調理場から十分な距離をとったところで大きなため息を吐いた。


「大変だったわ」

「レーナのことを聞かれたの?」

「ええ、レーナはこの辺りで凄く有名になったわね」

「だって街中で働いてるんだもんね。レーナは本当に凄いよね!」


 エミリーが満面の笑みを浮かべて発した素直な賞賛が眩しくて、サビーヌはエミリーの頭を優しく撫でた。


「あなたは良い子に育ったわね。お友達は大事にしなさい」

「うん! ……あのさ、レーナはこれからも、スラムにいるのかな」

「どうでしょうね。ルビナと話してる感じからして、そのうち街の中に行っちゃうかもしれないわね」

「……それは、寂しいな」

「そうねぇ〜。でもそれならそうレーナに言えば良いわ。レーナは街中に行ったからって、もうエミリーとは縁を切るって言うような薄情な子じゃないでしょ?」


 サビーヌのその言葉を聞いて、エミリーの顔に光が戻った。


「うん! レーナはすっごく優しいもん!」

「じゃあこれからも会おうねって言えば良いのよ。もしかしたら街中のレーナの家に招待してもらえるかもしれないわよ」

「え、私が街中に入れるってこと!?」

「分からないけど、可能性はあるわよ」


 エミリーは街中に入れるかもしれない事実がよほど嬉しかったのか、さっきまでの暗い表情は完全に消え去って満面の笑みを浮かべた。


「ふふっ、これからレーナがどうなるのか楽しみだね。レーナは私の自慢の友達だよ!」


 そこまで話をしたところでサビーヌたちの家がある地域に到着し、二人は調理場に向かった。そこにはレーナとルビナがすでにいて、四人は楽しく談笑しながら夕食の準備を進めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 例えばの話、美人に生まれたばっかりに周りの男の子にちやほやされることになる。勉強が他の子よりできる。そこまでならなんら問題はないのだけれど、自分と同じようなレベルに引きずりおろそうとする(大…
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