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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
1章 環境改善編

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42、午後の仕事

 午後の仕事としてニナさんに連れて行かれたのは、休憩室の隣にある資料室だった。ニナさんは棚からいくつかの資料を取り出すとテーブルの上に積み上げる。


「とりあえずレーナちゃんにやって欲しいのは、仕入れ金額と売上から算出される利益の計算が合っているかの確認よ。仕入れっていうのは商品をうちの商会が買う時のことで、売上はお客様が買ってくださった代金のこと、利益はその差額なの。例えばうちがミリテ一箱を小銀貨五枚で買って、銀貨一枚でお客様に売ったら利益は小銀貨五枚よ」


 仕入れに売上、利益か。なんか仕事っぽくなってきた!


「分かりました。ここに書いてある数字が仕入れ価格でこっちが販売価格、そしてこれが利益の数字ってことですね」

「そう。本当にレーナちゃんは理解力が凄いわね。教えていてこんなに楽な子はいないわ」

「ありがとうございます」

「じゃあもう少し話をするけど、本当は利益ってそんなに単純じゃなくて、例えば私たちの給料とか消耗品の購入費とか、色々と込みで最終的な利益は決まるの。でもとりあえずレーナちゃんは、この書類の意味が分かって計算できれば大丈夫よ」


 ニナさんはそこまで話をすると、ジャックさんがスラム街支店で使っていた黒い板と白い石を私に手渡してくれた。


「レーナちゃんは計算機よりもこっちの方が良いかなと思ったんだけど、これで良いかしら? 計算機の使い方も学びたいのなら教えるけど」

「ありがとうございます。計算機ってすぐに覚えられますか? ……あの棚にあるやつでしょうか?」

「そうよ。覚えれば便利になるけど、筆算ができるレーナちゃんにはいらないかもしれないわね」

「――では皆さんに筆算の授業をして、筆算を身につけても計算機が必要かどうか意見を聞いてからでも良いでしょうか?」


 計算機は見た限りかなり大きくて複雑そうだし、せっかく覚えたのに使い勝手が微妙だったら学ぶ時間が勿体ない。覚えたいことはたくさんあるのだから。


「分かったわ。じゃあとりあえず計算機は後回しね。それで計算確認をして欲しい場所なんだけど……まずは先月、風の月の確認を……ああ、これだわ。これ全部をお願いしたいの。最初だし何日かかっても良いからよろしくね」


 ロペス商会の帳簿は、月ごとにしっかりとまとめられているようだ。ただひと月と言っても、この世界のひと月は四半年だからかなりの量がある。

 

「計算確認したら日付の隣に印をしてね……って、最初の方はちょっとやってあるわね。三週五日まではやってあるみたい。じゃあレーナちゃんには、この続きからお願いするわ」


 三週五日とは、この世界の日付の呼び方だ。ジャックさんに教えてもらったところによると、この世界は九十日ごとの四ヶ月で一年なんだけど、一ヶ月の中を九週に分けるらしいのだ。

 例えば火の月の六週目初日とかなら、火の月六週一日って表現される。慣れないからしばらくは違和感があるだろうけど、これはそこまで分かりづらくないかなと個人的には思っている。何よりもややこしいのは時計だよね。


「では風の月三週六日から始めますね」

「ええ、頼んだわよ。間違えてる部分があったら赤いインクで隣に正しい値を書いておいて」

「分かりました」


 ニナさんはそこまで説明すると、あとは私に任せて自分の仕事に戻っていった。私は静かな資料室の中で、久しぶりに計算に精を出すことにする。

 そこまで桁が大きな計算じゃないから計算自体は簡単だけど、お金で書かれているから慎重にやらないと混乱してしまう。そのうち慣れたらもっと早くできるようになるかな。


 ちなみにこの国の通貨は小銀貨の上が銀貨で、その上に金貨、白金貨があると教えてもらった。白金貨は貴族や大きな商会でしか基本的には使われないそうだ。


「小銀貨七枚の仕入れ価格で銀貨一枚と小銀貨一枚で販売してて、それがこの日は四つ売れてるから……」


 間違えないように口に出しながら計算していく。これはかなり集中力が必要で疲れそうだ。でも……久しぶりのデスクワークがとても楽しい。

 私は自然と笑顔になりながら、次々と計算を進めていった。



 そうして計算することしばらく。私はニナさんの声でハッと数字の世界から戻ってきた。どのぐらいの時間が経ったんだろう。集中しすぎていた。


「レーナちゃん、凄い集中力ね……え、もうこんなに終わったの!?」

「はい。どのぐらい時間が経ちましたか?」

「そうね……一刻ぐらいだと思うわ」


 じゃあ約二時間か。久しぶりだからか凄く集中できたのかな。うぅ〜ん、でもさすがにちょっと疲れたかも。


「本当は半刻で様子を見にこようと思ったんだけど、お客様との話が長引いちゃって、ごめんね。初日から疲れたわよね」

「いえ、楽しかったので大丈夫です。私の勤務って八の刻までなので……あと半刻ぐらいありますよね。もう少し頑張ります!」


 赤いインクをつけたペンを握ってそう宣言すると、ニナさんは一瞬呆気に取られていたけど、すぐに首を横に振って私の手からペンを取り上げた。


「その歳でそんなにやったら疲れちゃうからダメよ。また別の仕事をしてもらうわ」

「……そうなんですか? 別の仕事があるならそっちを頑張ります!」

「レーナちゃん凄いわね。やる気も凄いし集中力も凄いし、頼もしいわ」


 日本で正社員やってたからね……残業込みで毎日十時間ぐらい働くのは普通だったし、今日はまだ配達と二時間の計算しかしてないから、まだまだこれからって感じだ。


 でも確かに、十歳の子供にしたらこれでもかなり働いてる方なの……かな? 十歳の子供の平均値が全く分からない。


「私はもう少し大丈夫そうです」

「それなら休憩なしで次の仕事を頼んでも良いかしら?」

「はい」

「じゃあ次の仕事だけど、まずはギャスパー様からの伝言よ。明日の午後にギャスパー様のお時間があるらしくて、そこでギャスパー様と数人の従業員にさっそく筆算の授業をして欲しいらしいわ。だから今日これからは、その準備が仕事ね」


 え……明日!? あと半刻しかないのに明日の授業の準備とか、時間が足りなすぎるって!


「い、今すぐ取り掛かります!」

「そんなに慌てなくても大丈夫よ。最初だし手探りで良いからって話だったわ」

「……分かりました。でも、できる限り準備しておきます」


 最初だから手探りでって言われても、私はこの筆算を買われて雇ってもらえたんだから、この授業が微妙だったら雇い止めって可能性がないとは言えないだろう。最低限はちゃんと教えられるようにしたい。


 まずは足し算引き算掛け算割り算のやり方を一通り見てもらって、皆が普段はどんな計算をしてるのか確認した方が良いよね。それで掛け算九九を暗記した方が良さそうならそれを伝えて、あとはこの世界って小数点以下の数字の概念ってあるのだろうか。

 あるならその筆算のやり方も教えて……


 ……いや、最初からそんなには無理か。とりあえずは足し算を完璧にできるようにしてもらって、あとは掛け算九九について話をするぐらいかな。


 それなら九九を全部書き出しておこう。それからいくつか例題として、繰り上がりのある計算を書き出しておいた方が便利かな。後は足し算と引き算が割とすんなり理解してもらえた場合のために、掛け算の例題も……


 それからの半刻は一瞬で過ぎ去り、私は明日への不安を抱えながら初日の仕事を無事に終えた。とりあえず……家に帰ったら授業のシミュレーションをしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 九九を覚えるとはちょっと違いますが、高校生の頃、英単語覚える時は「五感をフル活用すること」を念頭に入れてましたな。①目で見て覚える、②口に出して覚える、③耳で聞いて覚える④、書いて指に覚えさ…
[一言] あ、これ、無自覚チートするやつ! でも他の転生者でインド式の20✕20が主流というのもあるからなぁ… さぁ、どっち?
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