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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
最終章 救世編

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301、神託と帰国

「創造神様から神託を賜ったら大聖堂でやるべきことは終わりになると思うので、早めにアレンドール王国に帰りましょう」


 ティモテ大司教たちが大慌てで動く中、私はダスティンさんたちに伝えた。言いながらちょっと疲れが滲んでしまった私に、お養父様が笑みを浮かべてくれる。


「もちろんだ。早く帰ろう」

「そうしよう。しかし――その、レーナはここを離れて問題ないのか?」


 ダスティンさんが躊躇いがちに首を傾げた。私が神子であり、大聖堂で創造神様と直接話をしているのだから当然の疑問だろう。


 でも――。


「問題ありません。神子である私は、どこにいても創造神様とお話ができるようです」


 これは本当にありがたいことだ。大聖堂じゃないと話ができないとなれば、また色々と面倒なことになっていた。


 ただその事実を隠すためには、やっぱりたまには大聖堂を訪れなければいけないのかもしれないけど……まあ、その辺のことはまた後で考えればいいだろう。少なくとも数年後とかの話だ。


「そうか。それならば安心だな」


 ダスティンさんは頬を緩めて頷いた。他の皆もホッとしたように肩の力を抜いている。


「はい。もうしばらくアレンドール王国から出たくありません」


 本音が溢れたけど、その気持ちには皆が同意してくれた。



 それから少しして、大聖堂が人でいっぱいになった頃。ついに創造神様の像が光り始めた。


 大聖堂の一番前に跪き熱心に祈るティモテ大司教たちは、感動の面持ちで光る像を見上げ、祈り続けながらも瞬きもせずに像を凝視していた。


 そんな中で、先ほどまで聞いていた創造神様の声が響き渡る。


『我が愛し子たちよ』


 その言葉だけで大聖堂にはどよめきが起き、すぐに波が引くように静かになった。誰もが創造神様の言葉を聞き漏らすまいと必死だ。


『此度は世界を滅ぼさんとする魔王を討伐してくれたこと、感謝している』


 神からの感謝に、ティモテ大司教たちだけでなく、他の人たちも跪いて祈り始めた。ダスティンさんやお養父様たちもだ。


 やっぱりこの世界の人たちは、神への信仰心が篤い。


 ただこうして実際に神が存在しているのだから、それも当然なのだろう。私が前世の記憶や神子という立場で、ちょっと神様たちへの捉え方が特殊なだけで、これが普通なのだ。


『すでに知っているだろうが、そこにいるレーナは我の神子である。レーナの希望は我の望みと心得よ。レーナは何者にも縛られん』


 お願いした通りのことを伝えてくれてありがたいけど、その内容に私はじんわりと冷や汗をかいた。創造神様の口から告げられると、なんだか凄く言い過ぎな気がする。


 気のせいならいいけど――私が神みたいに崇められたりしないよね!?


 心配になってチラッと周囲を見てみると、かなりの人数が私に向かって祈り始めていた。なんだかこの瞬間に、ティモテ大司教が一気に増殖した気がする。


 今更言っても仕方ないけど……創造神様、ちょっとやりすぎです!


『我の望みも、愛し子たちの幸福ただ一つだ。これからも見守り続けると約束しよう』


 そこで神託は終わり、創造神様の像は少しずつ光を薄くしていった。完全に光がなくなったところで、大聖堂には沈黙が落ちる。


 誰もがひたすら祈っていて、言葉を発さなかった。


 しばらくして、ティモテ大司教がポツリと呟く。


「創造神様に感謝を……」


 泣きながら呟かれた言葉はやけに響き、それからは皆が神への感謝を口にする時間となった。ティモテ大司教はあまりの事態に興奮が一周回って逆に静かになっている。


 さすがに退席したいとは言えず、私も皆に付き合って創造神様の像を眺めていた。


 創造神様、日本食と漫画をお願いしますね!


 祈っていたのは、そんな内容だったが。



 創造神様の神託があった日から数日後。私たちはついにシーヴォルディス聖国を出ることになった。見送りにはティモテ大司教を筆頭に、大勢が集まってくれている。


「レーナ様、どうかまたこの地へお越しください。レーナ様がお立ち寄りくださるのを生涯待っております」

「はい。しばらくはゆっくり体を休めたいと思っておりますが、またいつか訪れます」


 私の返答に、ティモテ大司教の後ろに続く全員が跪いた。なんだか本当に神にでもなったような気がして、かなり居心地が悪い。


 私はまだ子供と言ってもいい年齢なのに、そんな私よりも頭が高い人がほとんどいないとか、なんて異様な光景だろう。


「頭を上げてください。――ティモテ、大聖堂のことは頼みます」

「は、はいっ! お任せください……!」


 ティモテ大司教は、私が呼び捨てにすると泣くほど喜んでくれる。それもどうなんだろうとちょっと引くけど、色々なことを円滑に進めるためなら仕方がないと思うことにした。


 多分次に会った時は正式に教皇なのだろうし、間違えてティモテ大司教と呼んでしまわないように、呼び捨ての方がいいのかもしれない。


「レーナ様のことは世界中の教会に伝達しておりますので、お好きなように教会をお使いください」

「ありがとうございます。魔王討伐で地に還られた方々への救済についても、同時にお願いします」

「もちろんです」


 犠牲になってしまった人たちの弔いなどはすでに済ませているけど、ここにいた聖騎士たちは様々な国から集まっている人が多かったのだ。


 なので命を落としてしまったことの報告と、遺された家族への救済をお願いしておいた。私の自己満足かもしれないけど、これで少しでも亡くなった人たちが安心して眠れたらと思っている。


「――では皆さん、またいつかお会いしましょう」


 私は最後にそう言って、リューカ車に乗り込んだ。窓から外を覗くと、私たちに向かって全員が跪いている。


 その光景からはなぜか目を逸らせず、完全に見えなくなるまでずっと外を見続けていた。


「ふぅぅぅ」


 シーヴォルディス聖国の街を出たところで、大きく息を吐き出して伸びをした。車の中にいるのはダスティンさんとお養父様だ。


 もう神子らしさを演出する必要はないと、体の力を抜く。


「やっと帰れますね……!」


 つい嬉しくて声が弾んでしまった。


「なんだか疲れたな」

「早く帰りたいよ」


 ダスティンさんとお養父様も同じ気持ちでいてくれているようだ。


「ですね。アレンドール王国まで一瞬で飛べたらいいのに」


 ついそんなことを考えてしまった。全てが解決して気が楽な道中と思えばそこまで憂鬱でもないけど、今すぐに飛行機にでも乗って王都に帰りたい気分だ。


「そうだ、これからゲートってどうなるのでしょうか」


 ふと思ったことを口にする。魔王を討伐したことで、ゲートが発生しなくなったら少し困るのだ。


「異常発生はなくなるのだろうが、通常のゲート発生はそのままではないのか?」

「創造神様は何か仰っていた?」

「いえ、そこまでは頭が回らなくて聞いてないです」


 ゲートが開かなくなると、魔物素材が手に入らないことになる。魔物は危険だけど、その素材は魔道具作りには必須なのだ。


 ただ創造神様から聞いた話を考えると、魔王を討伐したからと言って魔王がいた世界がなくなるわけではない。となると、普通のゲート発生はこれまでと同じように発生すると考えるのが普通だろう。


 この世界はゲートが発生するのが、当たり前のことなのだから。


「ゲートの発生は普通に起こると思いますが、一応今度創造神様に聞いておきますね」


 確認事項として脳内でメモをしていると、ダスティンさんに微妙な表情を向けられた。


「そう気軽に創造神様に確認をすると言われると、微妙な気持ちになるな。改めて、レーナが神子か……」


 そうは見えないと言っているような眼差しに、私はつい唇を尖らせてしまう。


「神子っぽくないでしょうけど、一応ちゃんと神子ですからね!」

「それは分かっているのだが、レーナだからな……」


 ダスティンさんは難しい表情だ。


 そんな私たちのやりとりを見て、お養父様が困ったような笑みを浮かべた。


「ダスティン様とレーナは本当に仲が良いな」


 お養父様の言葉にダスティンさんと顔を見合わせる。確かにもう、仲が悪いとは言えないだろう。正直、家族以外だったら一番心を許せているかもしれない。


 最初に出会った時は、気難しそうな人だと思ったんだっけ……なんだかあの魔道具工房が凄く懐かしい。


 まだあの建物があるのなら、今度時間を見つけて行ってみたいな。魔道具研究をする環境は他にも整ってるけど、私はあの工房が好きだった。


「研究仲間ですからね」


 そう伝えると、ダスティンさんは微笑んでくれる。


「そうだな。帰ったらしばらく忙しくなるぞ。研究したいことが山ほどある」

「ですね。魔物素材もたくさん手に入りましたし」


 魔王討伐をした唯一の良かったところだ。普通なら手に入らないような魔物素材をたくさん持ち帰ることができた。


 魔王の素材がゲートに吸い込まれてしまったところは少し残念だけど……さすがにその素材は扱うのも怖いだろうし、あれで良かったんだと思う。


「楽しみだな」


 ダスティンさんはいい笑顔である。その顔を見ながら、私も自然と笑顔になった。


 それからものんびりとリューカ車に揺られ、私たちはアレンドール王国に帰還した。

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