299、また創造神様のところへ
「なんで急に……」
周りを見ても他の人はいなかった。光は大聖堂全体に広がっていたのに、創造神様と話ができる不思議な空間に呼ばれたのは私だけみたいだ。
「創造神様、いらっしゃいますか?」
声をかけると、すぐに返答があった。
『うむ。レーナ、此度は魔王の討伐を果たしてくれたこと、本当に感謝しておる。お主を神子にして良かった』
「ありがとうございます。無事に討伐できて良かったです」
創造神様からの感謝の言葉に、私は改めて大きな試練を乗り越えたと実感した。これでもうこの世界に大きな憂いはない。あとは平和で幸せな生活を享受できるはずだ。
そう思うと、なんだか楽しくなってきた。アレンドール王国に帰ったらやりたいことがたくさんある。
しかしそれと同時に、考えないようにしていた、戦いで犠牲になった人たちのことを思い出してしまった。
「この世界のために犠牲になった人たちがいるので、手放しでは喜べないのですが……」
犠牲なしで討伐することはできなかったのか。私が未熟だったから犠牲が出てしまったのではないか。本当に最善を尽くせていたのか。そんなことを考えてしまうのだ。
今更いくら考えても遅いけど、やっぱり目の前で犠牲者が出たことは、私の中でとても大きな出来事だった。
そんな私の雰囲気を察してか、創造神様が少し声音を低くして告げる。
『辛いことを任せてしまって、悪かった』
「……いえ、悪いのは魔王ですから。犠牲になった人たちのことは、しっかり弔おうと思います」
この世界の弔い方が分からないけど、ティモテ大司教に聞けば完璧に教えてもらえるだろう。
『そうだな。我からも感謝を伝えておこう』
創造神様から、おそらく魂? などに感謝を伝えてもらえるなら、こちらの弔いは必要ないほどに犠牲となってしまった人たちが浮かばれる気がする。
そう思うと、私の気持ちは少しだけ持ち直した。
「よろしくお願いします」
雰囲気を変えるためにも、別の話を持ち出す。
「あの、魔王を討伐するに至った最後の一撃ですが、あれは創造神様がお力を貸してくださったのですか?」
『ああ、そうだ』
「ありがとうございました。そのおかげで無事に討伐できたと思います」
『いや、逆にあの程度しかできなくてすまなかった。あの時は魔王がこちらの世界に来ており、戦闘に夢中で我が押さえておく必要がなくなったため、少し加勢できたのだ』
ということは、魔王の動きを止めることができたからこそ、あの加勢もあったってことかな。それは私たちにとっては嬉しい話だ。
『そうだ、その話に関わることだが、魔王が討伐されたことによって我が向こうの世界に過度に力を取られることがなくなった。そこでこれからは、こちらにも力を割けるだろう。先ほどレーナをここに呼んだのも、力が戻ったからこそできたのだ』
創造神様の像に触れなくてもここに呼ばれたのはそういう理由だったのか。少しの疑問が解けてスッキリした。
「創造神様のお力が戻って良かったです。これからこの世界は平和になりますか?」
『ああ、平和になるよう努力しよう』
「よろしくお願いします」
『それだけではなく、これからはいつでもレーナと話すことができるだろう。したがってレーナの要望も聞くぞ』
思わぬ話に、私は少し固まる。
「えっと……いつでもというのは、大聖堂にいるならですか?」
『いや、力をこちらに注げる今となっては、どこにいてもレーナならば問題ない。神子だからな。指輪に触れながら呼びかけてくれれば、いつでも応答しよう』
つまり私は、いつでも創造神様と話をすることができて、さらに要望も聞いてもらえる立場になったというわけだ。
なんだか現実感がない話だけど、絶対にこの事実は広まらないようにしようと心に誓った。誰にも言わないか、言うとしても家族とダスティンさんぐらいにしたい。
広まったらと想像しただけで――怖すぎる!
「ありがとうございます。えっと、これからもよろしくお願いします」
『ああ、よろしく頼む』
しかし、これでもうシーヴォルティス聖国に来る理由は全くなくなった。ただ創造神様と話ができることを隠すなら、たまには大聖堂に顔を出すべきだよね……やっぱり十年に一回ぐらいかな。それとも二十年に一回ぐらいでいいかな。
そんなことを考えていたら、また創造神様が口を開いた。
『それで、まず一つ要望を聞こう。魔王討伐の礼も兼ねているのでなんでも構わない』
「えっと……」
突然その世界の創造神になんでも要望を叶えてあげると言われても、すぐに要望なんて出てこない。私は焦りながら、何がいいかと考えた。
思いつくことはたくさんあるのだ。しかしその全てが創造神様に頼むほどのことではないと思ってしまう。自分で達成できるようなことは、創造神様に頼むのは違うだろう。
でも、創造神様に頼むべき願いって何かある?
今世の私はお金に困ってないし、手に入らないものが意外とない。なんだかんだ家族とも友達ともいい形で一緒にいられている。
もちろん不満が全くないと言ったら嘘になるけど、創造神様に頼むようなことかと言われると――。
「あ」
私は一つ思いついて、ダメ元でお願いしてみることにした。




