297、喜びと翌日
「魔王を倒したぞ!」
「俺たちの勝利だ!!」
「やったぜ……!」
「創造神様から授かった使命を無事に完遂できました!」
「やったぞ!」
「平和を取り戻した!」
誰もが武器を投げ捨て、全身で喜びを露わにしていた。それは私たちも例外ではなく、全員で抱き合って喜び合う。
「レーナ様!」
「やりましたね!」
レジーヌとヴァネッサに抱きつかれ、シュゼットにも痛いぐらいに抱きしめられた。カディオ団長とはハイタッチをして、ダスティンさんとも拳をぶつけ合う。
「やったな」
「やりましたね!」
「レーナはまさに救世の神子だ」
「ちょっとそれは大袈裟じゃないですか?」
ダスティンさんとのそんなやり取りも心から楽しくて、自然と笑みが溢れてしまった。
すぐにパメラやお養父様たちもやってくる。
「レーナお嬢様っ!」
「パメラ!」
パメラと抱き合っていると、改めてパメラが無事で良かったという気持ちが浮かんできた。ここまで大変なことがたくさんあったけど、やっと全てが報われた気持ちだ。
「ご無事で良かったです……っ」
「パメラこそ」
泣いているパメラに私も釣られてしまい、二人で泣きながら笑い合った。
落ち着いたところでお養父様とも話をする。
「お養父様、皆で国に帰れますね」
「ああ、リオネル、アリアンヌ、エルヴィールに早く伝えてやりたいな」
名前を聞いたら早く皆に会いたくなった。お養母様にも、お母さんとお父さん、お兄ちゃんにも会いたいし、メロディたちノルバンディス学院の友達にも、スラムから引っ越したエミリーたち皆にも、さらにロペス商会の皆にも。
会いたい人たちがたくさんいる。早くアレンドール王国に帰りたい。
「よし、さっそくこれからの話をしましょう」
私が早く帰りたい一心でそう宣言すると、近くにいたダスティンさんが珍しく笑いながら頷いてくれた。
「そうだな。とりあえずティモテ大司教と話すのが早いだろう」
「ですね」
それから私は喜びの興奮も冷めないうちに、ティモテ大司教を探し出した……けど、ティモテ大司教は創造神様からの使命を完遂できたことに感動して号泣しており話にならなそうだったので、なんとか翌日の話し合いの約束を取り付け、今日は休むことにした。
辛うじて無事に残っていた建物で眠りにつき――翌朝。
昨日よりも落ち着いているティモテ大司教と、無事に残った大聖堂の中で話し合いだ。話す内容は、昨日のうちにダスティンさんやお養父様と決めておいた。
「レーナ様、この度は魔王の討伐成功、誠におめでとうございます。聖戦の末席に参加させていただき、レーナ様と共に魔王討伐という創造神様より賜った大役を果たすことができ、私は本当に幸せでございます。そして――」
席に座った瞬間に始まったティモテ大司教の言葉は相当長くなりそうで、放置しているとまた感極まって泣きそうだったので、その前に遮ることにした。
「ティモテ大司教、この度は助力をいただきありがとうございました。創造神様もお喜びでしょう」
その言葉だけで、ティモテ大司教の瞳がこれでもかと輝き、感動に打ち震えている。
「今日は、これからの話がしたいのです」
「はい。もちろんでございます。教会は全てレーナ様のものです。あのリンナットという背信者は教皇に適しておりません! ぜひレーナ様が教皇となり、我々を導いてくださればと……!」
「待ってください」
こういう話をされるかもしれないと予想はしてたけど、あまりにも予想通りすぎて神子らしい表情が崩れそうになってしまった。
私は表情を引き締めなおし、ティモテ大司教に伝える。
「私は創造神様の神子です。だからこそ教会運営の中心には就かない方が良いと思うのです。教皇は、創造神様を深く信仰する人が担うべきでしょう。創造神様もそれをお望みです。私は少し立場が違うのです」
適当に言ったけど、ティモテ大司教は感動してくれた。創造神様が望んでるのは推測だけど……まあ、創造神様にはかなり無茶振りをされてそれに応えたんだから、許してくれるだろう。
「そうでございますね……とても失礼なことを提案してしまい、大変申し訳ございませんっ。レーナ様はいわば神の化身! 信仰対象であり、我らとは立場が違うお方でしたっ」
かなり大袈裟な解釈だけど、教皇になれないということは理解してもらえたようだ。
「はい。ですから教皇の座には、ティモテ大司教が就くのが一番だと思っています。創造神様も認めてくださるはずです」
これは話し合って決めた。色々と考えた結果、これが一番私にとって良いし、全てが丸く収まると思ったのだ。




