296、決着!
レジーヌに受け取ってもらった斧は、持ち手の部分が鉄パイプのようなもので出来ていて、刃の部分は全てゲートの破片だった。そしてその二つを繋ぐのは太めの針金みたいなもので、見るからに即席の斧だ。
しかしゲートの破片の鋭い部分には針金が当たらないようになっていて、すぐに壊れそうな心配はないし、魔王に一撃を与えるぐらいなら問題なく使えそうである。
「これで、魔王を倒せるかな」
思わずそう呟くと、ダスティンさんがそっと背中を押してくれた。
「ダメなら次の手を考えればいい。まずは試してみよう」
その言葉で前向きになることができ、私は顔を上げる。
「そうですね。そうしましょう」
周りにいる皆を見回した。本当なら私が斧を振れたらいいんだけど、ルーちゃんが魔法を使えない以上、私には力がなさすぎてこの斧を持つことすらできないのだ。
適任なのは――。
「カディオ団長、任せてもいい?」
第一騎士団の団長という立場であり実力は申し分ない。さらに今ここにいる実力者たちの中で、一番ガタイが良くて力持ちだ。
斧に威力を乗せるには、やっぱり力が必要だろう。
そんな思いでの指名だったけど、カディオ団長はニッと頼もしく笑ってくれた。
「もちろんだ。立候補しようと思っていた。俺に任せてくれ」
「ありがとう。頼もしいわ」
私が貴族令嬢らしく答えると、レジーヌの手からカディオ団長に斧が渡った。斧は結構重いみたいで、カディオ団長はその重さを自分に馴染ませるように、真剣な表情で試し振りをする。
その様子を少し見守ってから声をかけた。
「カディオ団長、できる限り助力をするから、団長には魔王を倒すことだけ考えてほしい。斧を振り下ろす前にルーちゃんに首周りだけは風をなくしてもらって、さらにできるか分からないけど、ルーちゃんの風魔法で斧にさらに力を込めるわ」
「――分かった。じゃあ俺は、とにかく斧を振るだけでいいんだな」
その言葉に私が頷くと、シュゼットとダスティンさんも口を開いた。
「団長の援護は私たちがします」
「魔物の排除は任せてくれ。魔王だけを見ていて構わない」
作戦が決まったら、さっそく実行だ。魔王がいつ風魔法の拘束から逃れるか分からないので、早いに越したことはない。
カディオ団長が斧を持って構え――。
「いくぞっ!!」
気合いの入った掛け声と共に駆け出した。団長を襲う魔物はダスティンさんを始めとした他の皆によって討伐され、カディオ団長は一直線に魔王へと向かう。
横倒しになっていても高い位置にある魔王の首を狙うために強く地面を蹴り、カディオ団長が上に飛んだ瞬間、私は叫んだ。
「ルーちゃんっ、魔王の首周りの風を解除! 斧に風で威力を乗せて!」
私の叫びにルーちゃんはすぐ動いてくれた――けど、その影響で魔王を拘束している力が少し弱まり、魔王が顔をぐいっと地面から起こす。
カディオ団長の斧が魔王の首を捕えるまではあと数秒ある。至近距離で魔王の咆哮を受けただけでも命が無事かどうか分からない。
そんな緊張感が場を満たす中で、突然黄金色の強い光が辺りに広がった。
「なっ」
「なに!?」
眩しさから思わず瞑った目を少し開けると、その光の発生源は斧の刃となったゲートの破片である。あれは神の力が強く影響しているものだろうと予想していた。
つまり――創造神様が助けてくれた?
魔王は突然の光に苦しそうに呻いている。カディオ団長も目をやられたみたいだけど――。
「そのまま全力で振り下ろして!!」
私の叫びに、団長は斧を握る手に力を入れ直した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」
雄叫びを上げながら振り下ろされた斧は――。
魔王の首を、深く切り裂いた。
紫色の血が噴水のように噴き出し、魔王は苦しげに体を跳ね上げる。しかしルーちゃんの風魔法によって押さえつけられ――次第に動きを止めた。
斧の光は収まり、ルーちゃんも魔法を止める。辺りには静寂が満ちた。
「ギャウギャウッ」
「ギキキッ」
「バウッ!」
一瞬の静寂の後に、魔物たちが突然叫び出した。一斉にゲートへと駆け出して、逃げるようにこの世界を去っていく。
魔王が倒されたことが、魔物たちにも何か影響を及ぼすのかもしれない。
その様子を呆然と眺めていると、ゲートが渦を巻くように収束し始めた。その渦はどんどん早く激しくなり、逃げ帰ろうとしている魔物たちを吸い込むだけでなく、ゲートの破片や魔王の死体も引き寄せる。
巨大な魔王の死体がズリズリと地面を移動し、ゲートの渦に巻き込まれた瞬間。その渦は一点に収束し、パンッと弾けるように消えた。
後に残ったのは戦いによって崩れた街と、ゲートから遠いところに倒れていたたくさんの魔物の死骸のみだ。
今度こそ、完全な静寂が場を満たす。風が吹く僅かな音さえ耳に届いた。
風によってコロンッと、小さな瓦礫が音を立てたところで、一気に静寂が破られる。
「おおぉぉぉぉぉぉ‼︎」
大歓声が街を覆った。




