295、ゲートの破片
地面に転ばせた魔王を風魔法で拘束することに成功したところで、私はやっと一息ついた。しかしまだ魔王を倒せたわけではないし、いつ魔王が拘束から抜け出すかも分からない。
すぐにまた気合いを入れ直し、魔王を倒す方法を模索していく。今一番の問題は、魔王の動きを止めているルーちゃんには魔王を攻撃する余裕がないということだ。
つまり拘束したまま倒すには、ルーちゃんに頼らず魔王に致命傷を与える必要がある。それも変わらずに襲ってくる魔物たちの対処をしながらだ。
「どうすれば、魔王に傷をつけられるだろう……」
魔王は防御力も高いので、生半可な攻撃で倒せないことは明白である。そうなると物量で押すか、強い攻撃をするしかない。
ただ物量で押すのは他の魔物への対処もあり、ほぼ不可能だろう。つまり強い攻撃をするしかないけど――ルーちゃん以外に魔王を倒せるような攻撃をできる人はいるのか。
そこまで考えた私の視界に、ゲートの割れた破片が入った。今回は魔王が無理にこじ開けたから、割れて飛び散った破片がたくさん残っているのだ。
ゲートは魔王の力でも、しばらく開かなかったし割れなかった。つまり、それほど頑丈だということだ。さらにこのゲートは、いわゆる神の力によるものだろう。
「ゲートの破片は、魔王に傷つけられるほど硬く鋭いかもしれない……?」
魔王討伐への光明が見えた気がして、私は思わず叫んだ。
「シュゼットっ」
「なんだ? 大丈夫か?」
すぐに反応してくれるシュゼットに、私はゲートの破片の可能性を話す。するとシュゼットは少し考え込んでからゲートの近くまで向かい、散らばる破片の一つを回収してきてくれた。
「これだな」
怪我を避けるために剣に載せる形で運んできた破片を、シュゼットは地面に落とす。そしてその破片に向かって石をぶつけると――。
まさかの、石の方が砕けた。
その結果に、その場にいた誰もが唖然としてしまう。
「まさか、こんなに危険なものだとは」
「この破片がゲートの周辺にしかなかったのは不幸中の幸いだったのね」
ゲートの周辺は魔物が絶え間なく姿を現すこともあって、私たちは近づいていなかったのだ。もし近づいていたら、この破片による怪我人がたくさん出ていたかもしれない。
そんな私の言葉に、シュゼットがハッとしたように告げる。
「なぜか足を怪我をしている魔物が多いと思っていたが、この破片にやられていたのか」
そんな傾向があったなんて。正直なところ、魔物の数と私たちの戦える人数を考えると、予想以上に善戦できていると思っていた。
それがゲートの破片によって魔物たちが怪我を負っていたからだとしたら、それこそ不幸中の幸いだ。運は私たちに向いているのかもしれない。
魔王がゲートが開くのを待てずに無理やりこじ開けなければ、ゲートの破片なんて存在しなかったのだから。
私は色々な偶然に感謝しつつ、シュゼットに問いかけた。
「シュゼット、この破片で武器を作れない? なんとか魔王の動きを封じてるけど、ルーちゃんはそれでいっぱいいっぱいで攻撃ができないの。だから魔王の息の根を止めるために、強い何かが必要で」
シュゼットは倒れ込む魔王とその周りを飛び回るルーちゃん、そしてゲートの破片を順に見る。そしてニッと頼もしい笑みを浮かべてから言った。
「よしっ、私がなんとかしよう。少し待っててくれ」
「ありがとう」
それからはルーちゃんを見守りつつ、私を守ってくれている皆が断続的に襲ってくる魔物を討伐していると、シュゼットが戻ってきた。
シュゼットと共に聖騎士が数人いて、さらにティモテ大司教まで一緒に来ている。
「レーナ様! ゲートの破片を使って無事に武器を作成できました。どうぞお納めください……!」
ティモテ大司教が跪いてそう告げると、斧のような武器を抱え持っていた聖騎士が、隣に跪いて斧を捧げるように掲げてくれた。
その様子に苦笑しつつ、シュゼットが私の耳に口を寄せて小声で告げる。
「すまない。人手が欲しくて聖騎士に頼んだら、ティモテ大司教にレーナからの頼みだと伝わってしまって、こんな形に……」
「大丈夫よ。ありがとう」
ちょっと面倒なのは変わらずだけど、私のために全力で動いてくれるティモテ大司教を使わない手はないだろう。都合よく使ってるようでちょっとだけ申し訳ない気持ちも湧くけど、ティモテ大司教だって私の存在を自分の都合のいいように使ってるところがあるし、お互い様だ。
それにティモテ大司教が喜んでるんだから……いいよね。
「ティモテ大司教、ありがとうございます」
私はそう答えながら、レジーヌに斧を受け取ってもらった。




