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転生少女は救世を望まれる〜平穏を目指した私は世界の重要人物だったようです〜  作者: 蒼井美紗
最終章 救世編

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294、魔王との死闘

 呻き声が聞こえて咄嗟に周囲を確認すると、ダスティンさんが腕に酷い怪我をしていた。見て分かるほど、ダラダラと血を流している。


 さらにダスティンさんだけでなく、他にも倒れている人がたくさんいるのが分かった。


 ――ルーちゃん、治癒!


 倒すことに集中しすぎて、治癒を忘れていたことに気づく。


 私は唇を噛み締めながら、どうか誰もが生き残っていますように――そう祈った。


 ルーちゃんの攻撃が止んだことで、動きが良くなった魔王が威圧を放つように叫ぶ。


「ギャアアアアアアアッ!!」


 何度聞いても不快な声だ。振り下ろされた斧を避け、必死に襲ってくる魔物を倒していると――魔王が、斧の持ち方を変えた。


 頭上に振り上げるのではなく、体に捻るようにして斧を水平に持ち――。


 ――ルーちゃん、全員を上空にっ!


 咄嗟に飛行魔法で皆を助けようとした。しかし、さすがにルーちゃんでも全員一斉は無理だ。


 魔王の斧が私たちの胴体を真っ二つにするように振られる。ブンッと嫌な風切り音がした。


 深呼吸をして上空から下を確認すると――多くの人が助かったけど、間に合わなかった人もいる。運が良ければ地面に這うようにして助かり、そうできなかった人は、胴体を真っ二つにされていた。


 私は宙に浮かびながら、眼下に広がる光景に思わず吐きそうになる。なんとか耐えたけど、ボロボロと涙が溢れるのは止まらなかった。


 ――ルーちゃん、下に降ろして。


 このままだとルーちゃんが他の魔法を使えないので、全員を下に降ろしてもらう。治癒はほとんど終わっていたので、攻撃を再開しなくては。


「レーナ、今は魔王を倒すことだけ考えよう」


 ダスティンさんがそう言って背中に手を当ててくれる。目標を明確にしてくれるのは、今はとてもありがたかった。


「っ、は、はい……っ」

「魔王が斧を横に構えたら、伏せるようにと通達してきます!」

 

 数人の騎士がそう言って、聖騎士たちの下に駆けていく。これでさっきの攻撃で多くの被害が出る可能性は低くなった。


「ルーちゃん、一点だけに攻撃を集中させて、とにかく深い傷を!」


 私の指示にルーちゃんが張り切って魔法を使ってくれる中、私の耳にティモテ大司教の言葉が飛び込んできた。


「神の手足となり神のために戦い死んだのだ! とても名誉なことであるぞ!」


 あまりにもいつも通りすぎるティモテ大司教の言葉に、少しだけ涙が引っ込んだ。神のためだって誰も死なない方がいいに決まってるけど、死んでしまった人はそう考えてくれたらいいな。


 思わず、そんなことを考えてしまう。


「レーナ様、私たちは最後まで共におります」

「ヴァネッサと言う通りです」


 ヴァネッサとレジーヌの言葉がとても心強かった。魔物に向かって剣を振るシュゼットとカディオ団長、ダスティンさん、クレールさん。皆の姿を見ると落ち着ける。


 私は改めて気合いを入れ直し、目の前の魔王を睨みつけた。


「絶対に倒す」


 そう呟いてから、またルーちゃんへの指示を加速させた。


 誰もがボロボロになり、治癒も全く間に合わず、しかし誰も戦意喪失せずにひたすら戦い続けること……おそらく一時間。


 ドンッ……ついに、魔王が膝をついた!


「やった!!」


 私は思わず叫んでしまう。


 ――ルーちゃん、体の左側から魔王を倒すような攻撃をして!


 右膝を地面についてバランスを崩している魔王に追い打ちをかける。ひたすら強風や巨大な石弾などで、魔王を横に倒そうと試みた。


 しかし魔王は一向に倒れず、その体勢のまま斧を振ろうとしたところで、私は地面にできている空洞に気づく。


 魔王が何度も振動を起こしたことによって、ちょうど魔王の右膝の辺りの地面の下が空洞になっているようなのだ。


 地面に穴を開ければ、魔王は――。


「ルーちゃん!」


 私は考えるよりも先に叫んだ。するとルーちゃんはすぐに動いてくれる。頑丈すぎる魔王を横に倒そうとするよりも、地面に穴を開ける方がよほど簡単みたいだ。


 地面の一部が崩れ落ち、足場を失った魔王は穴に嵌るような形で横に倒れていった。


 その瞬間に上から多数の岩を落として、魔王を起き上がれなくする。しかし岩ぐらい、魔王にとっては邪魔にならないようだ。


 普通に起きようとしたところで――。


「ルーちゃん、風魔法で魔王の体を地面に拘束! 魔王にぶつかって横に流れた風は上空に吹き上げて街の外に!」


 咄嗟に風魔法での拘束に切り替えた。すると魔王は起き上がるのに失敗し、イラつきを隠せない様子でもがいている。


「さすがルーちゃん!」


 本当に凄かった。魔王の動きを完全に止めているのだ。魔王が元々倒れていたことで、広い面積に思いっきり強風を向けることができたからだろう。


 地面と強風に挟まれて、魔王は逃げ出すことができない。


 そこで、私はやっと一息つけた。

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