291、ゲート出現
ドンドンッ!
どこかで強く扉が叩かれる音がして、私の意識がふわっと浮上した。ゆっくりと目を開いていると――。
「ゲートが現れました!」
聞こえてきたその言葉で、私は一気に覚醒した。ガバッと飛び起きて時間を確認すると、普段の睡眠よりもぐっすりと寝ていたようだ。
しかし、そのおかげで体はとても軽い。体調は万全だ。
それを確認しながら慌ててベッドを降りると、また声が聞こえてきた。
「すぐにレーナ様を起こして支度をいたします。ゲートに開く兆候は?」
「まだです」
「分かりました」
レジーヌが連絡に来てくれた人と話しているようだ。私もそれに参加しようとして、ギリギリで自分の姿が寝巻きだと思い出した。
ベッドを囲う天幕を開こうとしていた手を辛うじて止める。
「パメラ」
名前を呼ぶと、パメラがすぐに来てくれた。
「レーナ様、お目覚めだったのですね」
「報告の声で目が覚めたの。すぐに着替えて行こう。皆は休めた?」
「はい。交代で休ませていただきました」
「それなら良かった」
焦る気持ちから少し早口で会話をしながらすぐに着替えて、パメラ、レジーヌ、ヴァネッサの三人と共に客室を出た。
報告に来てくれた騎士が待ってくれていて、ゲート出現の状況を詳細に話しながら案内してくれる。
「ゲートは大聖堂から伸びる大通りを中心に出現しました。しかしその大きさから大通りには収まりきらず、大通り沿いにある建物を飲み込んでいます。おそらくゲートが開いたところで、周囲の建物は崩れるかと」
今まで私が見たことのあるゲートから考えても、大通りに収まりきらないのは想定内だ。しかしだからこそ、街中じゃなくて街の外に出現する可能性も考えていた。
街中では建物が邪魔になって戦いづらいから、できれば街の外が良かったけど……そんなことを考えても仕方がない。建物の瓦礫にも気をつけて戦おう。
「私以外の皆は?」
「休まれていた方は、レーナ様と同じように早急に準備を進めておられるはずです。それ以外の方はすでにゲート前に集まっています。いつ開いてもいいようにと、作戦通りに隊列を組んでいるところです」
そこまで話をしたところで、大聖堂の渡り廊下から巨大なゲートが見えた。少なくとも十メートル以上はあるだろう巨大なゲートの威圧感に怖じけそうになるけど、拳を握りしめて自分を鼓舞する。
首にかかるネックレスを握りしめると、少し緊張が解れた。
魔法を無限に撃てるんだから大丈夫。治癒だっていくらでもできる。創造神様が託してくれたってことは、私に十分な勝算があるってことだ。そう信じよう。私なら大丈夫、絶対に勝てる。
何度も言い聞かせてネックレスを握り締める。
そうしている間に、皆が集まる場所に到着した。
「レーナ様!」
ティモテ大司教をはじめとして聖騎士たちの視線が集まったので、私は少し宙に浮いて神子らしさを演出する。
「皆さん、ついに創造神様からの使命を完遂する時が来ました。共に世界を救いましょう」
「おぉぉぉぉ‼︎」
「やってやるぜ!」
私の言葉に一気に士気が上がった。それに安心しながら、私はアレンドール王国の皆がいるところへ向かう。
作戦では私たちの目標は魔王一択だ。私が魔王を倒す役割を担い、他の皆は魔物から私のことを守ってくれる。
聖騎士だったり教会側の戦力は、魔王以外のゲートから出てきた魔物の殲滅だ。
「レーナ、体調は問題ないか?」
「よく眠れただろうか」
ダスティンさんとお養父様から問いかけられ、私はしっかりと頷いた。
「体調は万全です。皆さんはどうですか?」
私の問いかけには、皆が頼もしい表情を浮かべてくれる。ダスティンさんもお養父様も顔色は悪くないし、大丈夫そうだ。
「完璧とはいかないが、しっかりと体調も整えられている。あとは魔王を倒すだけだ」
ダスティンさんのその言葉に頷いていると、お養父様が私の手を握った。
「レーナ、魔王討伐を頼んだ。……ただ、無理はしなくてもいい。気負いすぎる必要はない。もし討伐が叶わなかったとしてもそれはレーナの責任ではなく、この場にいる全員の責任だ」
私の心を軽くしようとしてくれているその気持ちが嬉しくて、私は笑顔になる。
「ありがとうございます。気負いすぎずに頑張ります。でも、まだまだ平和な世の中でやりたいことがたくさんあるので、絶対に討伐してみせます」
その言葉にお養父様は頬を緩めると、すぐにまた真剣な表情になり、その場にいた非戦闘員たちに告げた。アレンドール王国から来た中で戦えない人たちは、お養父様と一緒に安全な場所で待機となるのだ。
「では、私たちは見守ろう」
「はい」
パメラも非戦闘員なので、ここで一度お別れである。
「レーナ様、信じております。絶対にご無事でいてください」
「うん。パメラも危ないことはしないでね」
「はい。必ず生き延びます。まだまだレーナ様のお側にいたいですから」
そうしてパメラやお養父様と別れて、私は残った皆に声をかける。
「絶対に魔王を討伐しよう。皆、よろしくね」
「はい!」
私たちはいつゲートが開いてもいいように隊列を組み、その時を待った。




