289、話し合いと神子レーナ
リンナット教皇を拘束してからは、とにかく慌しかった。ティモテ大司教たちが大聖堂に指定の人たちを集めようとしてくれる中で、私たちはお養父様やカディオ団長たちと合流して、今までの説明とこれからの話をする。
皆はかなり驚いていたけど、魔王の話を聞いて深刻な表情になった。
「問題は魔王を討伐できるかどうか……あまりにも戦力が足りなすぎる」
お養父様のその言葉に頷くしかできない。
「そうなんです。できる限りシーヴォルディス聖国に協力してもらいますが、それでもかなり不安です」
「俺たちはレーナの周りを固めることしかできないな」
「戦力を分散させるには少なすぎますよね」
カディオ団長とシュゼットの会話にダスティンさんも同意した。
「我々はとにかく固まっているべきだろう。ただ非戦闘員が戦場にいるのはさすがに邪魔となるため、二手に分かれるのがいいと考えている。そして非戦闘員の方に数人だけ騎士をおこう」
「分かりました」
「魔王と戦うチームは、レーナを守ることを第一優先とする認識で問題ないですか?」
シュゼットの疑問にダスティンさんは頷く。
「それが良いだろうな。魔王への攻撃は私たちのものが効くか分からない。魔王はレーナに任せて、私たちは魔物に対処をしよう。王都に現れたような人型魔物も必ず現れるはずだ。レーナがそちらにかかりきりになり、魔王に対処できなくなるのを避けたい。――レーナもそれで構わないか?」
実質、私が一人で魔王を討伐する作戦だ。ただとにかく戦力が足りない以上は仕方がないことなので、私はプレッシャーを感じながらも頷いた。
「はい。それでお願いします」
大丈夫、魔力はいくらでも使えるんだから。無限に魔法を撃てるなら負けるわけない。そう自分に言い聞かせて、緊張を落ち着かせた。
「あとは教会側との連携だな」
「すぐに話し合う必要がありますね」
それからも色々と話していると、ティモテ大司教が私たちを呼びに来てくれた。
「レーナ様、大聖堂に皆を集めました」
「分かりました。行きます」
まずは戦闘前の大きな山場だ。ここでどれだけ上手く振る舞えるかで、こちらの戦力が決まる。
「レーナ様、なにかお手伝いできることはありませんか?」
私がかなり緊張しているように見えたのか、パメラがそう問いかけてくれた。レジーヌもヴァネッサも、ダスティンさんもお養父様も、皆が心配そうに私を見ている。
そんな中で私はグッと拳を握りしめてから、口元に笑みを浮かべた。
笑うとなんだか大丈夫な気がしてくるから不思議だ。
「ありがとう。でも大丈夫。神子らしく頑張るよ」
「かしこまりました」
そうして皆と共に大聖堂に向かい、私は一人で中に入った。そこには大勢の聖騎士と、聖騎士姿じゃない人たちもたくさんいる。さらに大聖堂の中はとても明るくなっていた。
誰もが私に視線を向けていて、中には拝んでいる人もいたけど、大多数は訝しげな表情だ。私が神託を受けたという話を信じきれないのだろう。
――ルーちゃん、飛行魔法で私を少し浮かべてくれる?
少しでも神秘的な感じを出せるように、ふわっと飛んで大聖堂を横切った。創造神様の像の前に向かい、集まっている皆のことを振り返る。
全員の顔を見回してから、口を開いた。
「お集まりいただきありがとうございます。すでに聞いているかもしれませんが、先ほど創造神様より神託を受けました。それと共に授かった神具です」
ネックレスを神具ということにして、集まる全員に見えるように掲げた。すると大聖堂内にどよめきが起きる。
「あの輝きは……」
「本当なのか!?」
やっぱりこのネックレスの効果は凄いみたいだ。
「皆様に創造神様の慈悲を」
そう伝えながら、私はこの場にいる全員に治癒魔法をかけた。特に聖騎士は小さな怪我がある人が多かったのか、大聖堂全体に治癒の際の光が満ちる。
それと共に痛みがなくなったようで、今度はどよめきが大きくなってから、次々と跪く人が増えて大聖堂内が静寂に満ちていった。
治癒魔法は創造神様の加護があるからこそできる魔法だから、やっぱりインパクトが強かったようだ。今までなら魔力の問題でこんな使い方はできなかったけど、ネックレスがある今は好きなだけ治癒ができる。
「創造神様の祝福を」
次はそう告げて、身体強化を他人に付与できる補助魔法を皆にかけた。それによって、さらにこの場にいる人たちの信仰心が上がったのを感じる。
これで十分かなと思い、私は本題を告げた。
「創造神様は私たちに大きな使命を与えてくださりました。創造神様の慈悲と祝福と共に、この世界を守りましょう。世界が守られた時には、皆様にも創造神様のお声が届くでしょう」
これは嘘ではない。創造神様が神託をすると言っていたのだ。多分この場にいる誰かは聞けるはず。
「私と共に世界の危機に立ち向かってくださる方は、立ち上がって拳を突き上げてください」
そう伝えた瞬間、全員が一斉に立ち上がった。
「おぉぉぉぉぉ!」
大聖堂が揺れるほどの雄叫びが響く。予想以上に神子としての振る舞いが上手くいったらしい。ここまでやる気を出してくれれば、魔王との戦いもなんとかなるかもしれない。
私は少しの希望を抱いた。
「レ、レ、レーナ様……!!」
最前列で滂沱の涙を流して、泣きすぎて過呼吸気味になっているティモテ大司教に声をかける。
「ティモテ大司教、采配は任せます。アレンドール王国のカディオ団長たちとも打ち合わせを。魔王との戦闘準備を早急に進め、非戦闘員をできる限り遠くへ避難させてください」
「かしこまりました!!」
そうして大仕事を終えた私は、最後まで神子らしさを意識しながら大聖堂を後にした。




