286、人質奪還!
私はダスティンさんとクレールさん、シュゼット、ヴァネッサ、レジーヌと共に人質がいるだろう部屋に向かった。
私たちは正面からその部屋に向かい、隠し通路などから向かうのがティモテ大司教たちだ。そしてティモテ大司教たちの襲撃によって混乱しているところに、私たちが飛びこんでパメラたちを助け出す。
「まずは予想通りの部屋にパメラたちがいるかどうかですね」
最初に向かうのはいくつかあった候補の中で、最も可能性が高いとティモテ大司教が判断した部屋だ。そこにいないとなると、また別の場所に移動する必要が出てくるし、どんどんこちらの動きに気づかれる可能性が高まる。
「ああ、ティモテ大司教をどこまで信用できるかだが……」
「とりあえず、本気で予想してたのは確実ですよね」
「そこは疑う必要はないだろう」
ティモテ大司教は予想を違えたら創造神さまに愛想を尽かされるとでも思っているのか、間違えたら死ぬぐらいの気迫でリンナット教皇の動きを予想していたのだ。
正直あれで間違えるなら、仕方がないと思ってしまう。
「私たちは連絡が来るまでこの辺りで待機していよう」
シュゼットのその言葉に、ちょうど身を潜められる場所で立ち止まった。作戦決行ならその旨が、別の場所へ移動でもその旨が報告される仕組みになっているのだ。
ティモテ大司教側の人たちが、隠し通路などを使って連絡してくれる。
「そうだな。いつでも動けるようにしておこう」
「はい。準備しておきます」
私は周りをふよふよと飛んでいるルーちゃんに目を向けた。実際に作戦が始まったら私とルーちゃんの力は大切だから、ちゃんと適切な指示を出さないと。
――これから忙しくなるけどよろしくね。
手を伸ばしながらそう伝えると、ルーちゃんは張り切るように私の周りを飛び回った。
そんなルーちゃんの様子に思わず頬が緩む。緊張してたけど、ルーちゃんがいるなら大丈夫かなと思えた。
「レーナ様」
「っ」
ルーちゃんと戯れていたら、突然後ろから名前を呼ばれて、思わずビクッと体を揺らしてしまう。咄嗟に振り返ると、そこにいたのは連絡役の男性だった。
私は安堵のため息を吐きながら問いかける。
「パメラたちは?」
「ティモテ大司教の予想通り、あちらの部屋の中にいます。縛られた人質らしき者たちが六人、見張りが五人です。隠し通路にリンナット教皇側の聖騎士はいませんでした」
朗報がもたらされて、私は安心してしまった。しかしまだパメラたちを助けられていないのだからと、すぐに気を引き締める。
見張りの数は多いけど、隠し通路を私たち側が自由に使えるのなら、作戦決行に問題ないだろう。リンナット教皇はティモテ大司教たちが私たちに付いたことを知らないから、隠し通路を警戒していないのだと思う。
やっぱりティモテ大司教たちを早急にこちら側に引き入れたのは大正解だったね。
「リンナット教皇はどこにいるんだ?」
ダスティンさんの問いかけに男性は答える。
「確認できていませんが、おそらく私室でしょう。こちらの作戦が開始されると同時に、ティモテ大司教が私兵と共にリンナット教皇の下へ向かいます」
「分かった。では、そちらは任せよう」
「作戦決行の合図を頼む」
「かしこまりました」
シュゼットの言葉に頷いた男性は、一度暗闇に消えていった。そしてすぐに戻ってくると、鉄製の皿に乗った燃える紐を私たちに見せる。この紐は同じ時間で燃え尽きるように複数作られているらしく、同時に火をつけた紐を各所で合図に使うのだそうだ。
「燃え尽きた時が作戦決行の時です」
ジリジリと燃えていく紐と小さな炎に、嫌でも緊張感が高まった。私は深呼吸をして、拳を握りしめながらルーちゃんを見る。
――ルーちゃん、私が「今」って合図をしたら、あの部屋の扉の鍵を壊して開けてくれる?
その頼みにルーちゃんは、頼もしく私の目の前で一回転をしてくれた。
それに安心しながら待つこと――おそらく一分ほど。紐が燃え尽きた瞬間に、部屋の中からドンッッという重低音が響いてきた。
私はそれと同時に叫ぶ。
「ルーちゃん今!」
ルーちゃんは私の叫びに合わせて魔法を使い、石弾で鍵を壊すと、風魔法でバタンッと扉を開け放った。そこにまずはシュゼットが飛び込む。
「敵襲だ!」
「人質を取られるな!」
「はぁぁ!」
様々な怒鳴り声が飛び交う中で、剣戟の音も響く。そんな部屋の中に私も飛び込み、ヴァネッサとレジーヌに守られながらパメラを探した。
ルーちゃんに頼んで風魔法や土魔法で、リンナット教皇側の聖騎士たちは床に押さえつける。
「パメラ!」
「レーナ様!」
私の呼びかけにパメラが答えてくれた。声の聞こえた方向に駆け寄ると――舞った埃や魔法で視界が悪い中、確かにパメラの姿を確認できた。
手足が縄で縛られているけど、大きな怪我はなさそうだ。
「パメラ、無事で良かった……!」
私は心から安心して、止める間もなく涙が溢れてしまった。
「ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」
「ううんっ、私こそごめんね。パメラを危険に、晒しちゃって」
「いえ、捕らえられたのがレーナ様ではなく私で良かったです」
そう言ってくれるパメラの忠誠心は嬉しいけどもう少し自分を大切にして欲しくて、私はパメラに抱きついた。するとパメラも躊躇いながら私を抱きしめてくれる。
無事に助け出せて、本当に良かった。
パメラの温もりを感じながら、心からそう思った。




