278、夜の襲撃
警備態勢や明日以降に関する話し合いをして、私は不安に思いながらも自室で眠りに落ちた。あまり深い眠りに落ちることはできなかったけど、うつらうつらと夢と現実の間を揺蕩うように横になっていると――。
ドンッッッ!!
突然の爆音と共に一気に意識が覚醒した。
「誰だ!!」
「レーナ様には近づかせない!」
今夜は寝ずに警護をしてくれているレジーヌとヴァネッサの声が聞こえてきて、すぐに剣戟の音も耳に届く。
ベッドに被せられている天幕の向こうで、争いが起きているらしい。
「レーナ様っ、突然床が跳ね上がり刺客が……っ、お気をつけください!」
戦いながらヴァネッサがそう叫んでくれた。まさか、床が跳ね上がるなんて……。
つまりこの宿泊所には隠し通路のようなものがあるってことだ。そんなところから襲撃されては、いくら警備態勢を整えたところで意味はない。
そこで私はハッと気づいた。
「パメラはっ!」
パメラは私の部屋と続きになっている使用人用の小部屋で寝ているのだ。出入り口は私の部屋しかなかったので、私の部屋が守られれば安全だと思ってたけど……。
もし私の部屋と同じように床が跳ね上がって刺客が入り込んでいたら、パメラになす術はないだろう。
「ルーちゃん!」
私は夜間着のまま、慌ててベッドから飛び降りてルーちゃんを呼んだ。とにかくヴァネッサとレジーヌに加勢して素早く敵を倒し、パメラの無事を確認しないと。
天幕から出るとそこには、三人の敵がいた。ヴァネッサとレジーヌならそのうち勝てそうだけど、結構練度の高い相手だ。三人とも剣で戦っていて、鎧も身につけている。
ただ何よりも驚くべきことは……その銀色に輝く鎧や剣を身につける存在は、聖騎士しかあり得ないことだった。まさか大聖堂を守る聖騎士が私たちを襲うなんて。それも夜中に隠し通路から寝込みを襲うなんて。さすがにここまでの事態は発生しないと思ってた。
もっと最悪まで想定しておけば……!
今更後悔しても遅い。私は唇を噛み締めながら、ルーちゃんに頼んだ。
「ルーちゃん、鎧を着た三人の敵に風弾! 壁にぶつけて気絶させて!」
その頼みにルーちゃんは意気揚々と答えてくれる。私の周りを張り切って飛び回ると、続けて風弾を放った。ヴァネッサとレジーヌはルーちゃんの攻撃に合わせて、敵が逃げられないように上手く剣で牽制してくれる。
それによって――三人の聖騎士は床に倒れた。
「レーナ様、ご無事ですか!」
「私は大丈夫。それよりもパメラは……!」
「私が見て参ります。レーナ様はレジーヌとそこに」
ヴァネッサの言葉に頷いて、私とレジーヌはその場で待機した。
「パメラ、無事ですか? 敵はいなくなりました」
ヴァネッサが声をかけるけど、パメラからの返答はない。ここまでうるさくして寝ているということはないだろう。嫌な予感を覚えながら、ヴァネッサからのアイコンタクトに頷く。
そして開いた扉の先には――パメラはいなかった。あるのは跳ね上がったままになっている床だけだ。
「パメラ!」
私は思わず叫んで、パメラの部屋に飛び込もうとしてしまった。そこをレジーヌに押さえられて、先にヴァネッサが安全確認をしてくれる。
「――もう敵はいないようです。パメラは攫われたと見て間違いないでしょう。ただ血痕などは見当たりませんので、大きな怪我をしている可能性は低いかと」
怪我をしていないという可能性には少しだけ安心するけど、今現在パメラは敵の手中にいるのだから、不安がなくなるわけもない。
「どうしよう。早く助けに行かないと。この地下に入ればパメラを追いかけられるかな」
私が焦りながら告げた言葉を、ヴァネッサは首を横に振って否定した。
「すぐに実行するのは危なすぎます。必ず待ち伏せしている敵がいるでしょう。それよりも他の皆さんと合流すべきです。他に被害がないのか確認し、アレンドール王国で固まって動く方が危険度は下がります」
「私も同意見です」
ヴァネッサとレジーヌの意見に私はやっと冷静になれてきた。パメラがこの場で殺されずに連れ去られたのだから、すぐに命の危険に陥る可能性は低いだろう。
とにかく今はダスティンさんやお養父様と合流して、今後の対策を考えないと。
「とにかく皆と合流しよう。固まっていた方が危なくないし、皆の部屋を回って……」
そう伝えながら部屋の扉に向かったところで、ヴァネッサに手を掴まれた。
「レーナ様、さすがに服を着替えましょう。寝間着のままではこの後に支障があるかもしれません。動きも阻害されます」
「……確かに。すぐ着替えるよ」
「お手伝いいたします」
いつもはパメラが手伝ってくれる着替えをヴァネッサとレジーヌに手伝ってもらったことで、より一層パメラが拐われたことを実感してしまった。
悲しさと怒りと申し訳なさと、いろんな気持ちが胸に渦巻きながら着替えを終えて、素早く廊下に出る。
すると――ちょうどダスティンさんも部屋から出てきたところだった。




