275、リンナット教皇の反応
「お待ちください。創造神様のご意志が本当にそのようなものであるのかは、分からないのではありませんか」
「もし間違っていた場合、創造神様のご加護をいただいた存在の命を刈ることになります。それこそ創造神様の怒りを買うのでは」
ダスティンさんとお養父様の言葉を聞いたティモテ大司教は、それはもう穏やかな微笑みで断言した。
「何の問題もありません。私が創造神様のご意志を読み間違えることなどあり得ません」
その言葉で、ティモテ大司教を説得するのは絶対に無理だと分かった。どこからその自信が湧いてくるのか全く理解できないけど、なぜか自信があるらしい。
これは、リンナット教皇に何とか穏便に済ませてもらいたいけど……。
そう思ってリンナット教皇に視線を向けると、教皇は少しだけ考え込んでから――ティモテ大司教に告げた。
「ティモテ、少し焦りすぎですよ。神のご意志を理解するには正式な手順を踏み、もっと時間が必要でしょう。あなたが神のご意志を汲み取れるのは分かっていますが、神への誠意のためにもしっかりと祈りを捧げ、正式な手順を踏みなさい」
リンナット教皇の言葉は、ティモテ大司教に届いたらしい。
「――それもそうですね。では、私は失礼いたします。神のご意志を確かめ、先ほど告げた内容で正しければ、レーナ様を神の元へお返しする準備をしなくてはいけませんから」
ティモテ大司教は取り巻きのような司教たちを連れて、足早に大聖堂を出て行った。しかしこれは問題を先送りにしただけで、私の命が狙われてるのに変わりはないだろう。
このあとリンナット教皇はどう動くのか。緊張しながら待っていると――いつも通り感情の読めない笑みで問いかけられた。
「レーナ様はこちらの大聖堂で神に仕えて暮らすおつもりはないのでしょうか。創造神様にお声が届かなくとも、レーナ様がご加護を授かっているのは事実です。もしかしたら、この場で過ごしている時間が足りないのかもしれません。お望みならば最初から大司教の立場でも構いませんよ」
まさかの、教会への勧誘だ。私の答えは否しかあり得なくて、すぐ首を横に振る。
「いえ、そのつもりはありません。ティモテ大司教のような方もいますし……私はアレンドール王国での暮らしが好きなんです」
「ティモテは気にしなくとも構いませんよ。私が教皇として押さえますから」
「そ、それでも、そのつもりはありません」
ティモテ大司教を押さえると言った時の表情がとても怖くて、私は自分の手が僅かに震えているのを感じながら首を横に振った。
すると少しだけリンナット教皇が考え込み、また感情の読めない笑みを浮かべる。
「そうですか。分かりました。では、本日は色々とありましたから、祈りはなしということにいたしましょう。レーナ様もお疲れでしょう。本日はゆっくりと休まれてください。ご帰還については、また明日話し合いの場を設けます」
「……分かり、ました。ありがとうございます」
私がそう伝えると、リンナット教皇も足早に大聖堂を出て行ってしまった。
そこで私は体の力が抜けてしまい、その場にへたり込みそうになる。そこをお養父様とダスティンさんが咄嗟に支えてくれた。
「大丈夫か? 歩けないなら抱き上げよう。娘を抱き上げられるなんて僥倖だ」
お養父様のその言葉に、ちょっとだけ頬が緩む。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
「ならばすぐにでも宿泊所に戻ろう。休みたいかもしれないが、応接室でも構わないか? 今後についての話し合いが必要だ」
ダスティンさんの提案に私が頷いたところで、すぐにパメラたちも近くに来てくれて、私は何とかアレンドール王国に貸し出されている宿泊所に戻った。




