268、大聖堂へ
「あ、少し建物の雰囲気が変わりましたね」
外門に近いさっきまでの場所は、本当に全く違いがない建物が連なっていたけど、この辺はいろんな大きさの建物があるみたいだ。
もちろん白を基調としてたり雰囲気は同じなんだけど、形に違いがあるだけで少し親しみを感じられた。
「この辺りは宿や店があるようだな。大聖堂へと礼拝にやってきた者たちが主に滞在する場所なのだろう」
「じゃあ、さっきのところは居住区でしょうか」
「そうかもしれないな」
この辺はさっきのとこよりも活気があるし、ちょっとだけ見て回りたい気もする。
「レーナ、大聖堂が近づいてきたぞ」
「本当ですね」
街の真ん中で存在感を放っている大聖堂は、街に入った時から視界に入っていたけど、近づくとその迫力は段違いだった。
この大聖堂、どれほど大きいんだろう。
大聖堂の前には広くてまっすぐな大通りが伸びていて、真正面から見ると左右に数十メートル、もしかしたら数百メートルは大聖堂の建物が延びていた。
そんな巨大な建造物で一番に目に入るのは、大聖堂のど真ん中にある屋根が半球状になっている建物だ。複雑な模様が施されたその建物の周囲には、その建物よりも背が低い建造物しか存在しないので、多分あの丸い屋根の建物が一番大切な場所なのだと思う。
さらに入り口には、巨大な柱が何本も連なっている門のような建物のような、不思議な建造物が存在感を放っていた。
なんとなくのイメージだけど、ギリシャ神殿とかそんな感じ? とにかく柱一つ一つが豪華な装飾付きで、さらに神様を守るような意味があるのか、騎士みたいな像がそれぞれの柱に乗せられていた。
「あ、大聖堂の前に人がたくさんいますね」
近づくにつれて気づいてしまった。司祭とか司教とかだよね……あとここには、教皇がいるんだったはず。
これから教会の人たちと密に接しなければならないという事実に、改めて憂鬱になった。ティモテ大司教みたいな人がたくさんいたらどうしよう……いや、むしろティモテ大司教はマシな方とかだったら震えるしかない。
リューカ車から降りたくない。そんな気持ちで大聖堂を睨むようにしていたら、窓の外を見たダスティンさんも眉間に皺を寄せた。
「随分と数が多いな」
「ですよね。これからどうなるのでしょうか……」
「少し不安になるな」
ダスティンさんが私の不安に同調してくれて、なんだかとても嬉しい。それだけで頑張ろうと思えた。
「はい。何事もなく訪問を終えられるといいのですが」
それから少しリューカ車に揺られていれば、すぐに車は減速して止まる。近づいてからざっと確認したところ、迎えの人たちは五十人ぐらいいそうだった。
絶対にその数の迎え、いらないよね。
そんなことを考えていたら、外からリューカ車が開かれる。開いてくれたのはパメラだったけど、リューカ車の外で待機していたのは、恭しい態度のティモテ大司教だ。
「レーナ様、シーヴォルディス聖国へようこそお越しくださいました。レーナ様がこの地に足を踏み入れられたこと、神々はお喜びでしょう」
頭を深く下げているから表情は窺えないけど、声の僅かな震えから感極まっているのが分かった。
でも向こうに教皇らしき人がいるけど、ティモテ大司教がそんな挨拶をしていいのかな。
色々と考えつつ、私は意を決してリューカ車を降りた。
「こちらこそ、ここまで案内してくださってありがとうございました」
「いえ! レーナ様をご案内できたこと、私の人生で一番の誇りにございます。ではどうぞ、こちらへお越しください」
私はパメラとレジーヌ、ヴァネッサをすぐ近くに連れて、ティモテ大司教の後ろをついて歩いた。もちろん私のすぐ後に車を降りたダスティンさんや、別のリューカ車から降りて足早に来てくれたお養父様もいる。
ティモテ大司教の先導で私たちが大聖堂に近づくと、たぶん教皇なのだろう豪華な服を着たおじさんも含めて、全員が一斉に跪いた。




